工学部を理工学部へ改組、ものづくりは価値づくりへ

設立70年を迎える2019年4月、単科大学である室蘭工業大学はこれまでの「工学部」を「理工学部」に改組した。

AIが実用レベルになり、すべての「もの」がIoTによりネットワーク化されていく現代、ものづくりのあり方は大きく変わりつつある。自動車は自律走行車になり、情報と結びついてサービスとして提供される。機械部品は作ってから輸送するのではなく、情報だけを送信した先の3Dプリンターで成形する。都市計画は、人や交通の流れ、エネルギー効率などのビッグデータ解析を基にデザインされる。

空閑良壽学長は、「これからのものづくりには、物としての製品をこしらえる技術だけでなく、物事の本質をつかみ価値を見いだす探究心や、製品により高い価値を付加するための情報通信技術(ICT)が求められる」と話す。今回の改組には社会の変化に合わせ、実用を目指す「工学(Engineering)」に加え、ものづくりの基盤となる自然科学・数学を中心とした「理学(Science)」の要素を取り入れる意図がある。

理工学部には、工学士を育成する創造工学科、理工学士を育成するシステム理化学科の2学科が置かれる。創造工学科には、建築土木工学、機械ロボット工学、航空宇宙工学、電気電子工学の4コース、システム理化学科には物理物質システム、化学生物システム、数理情報システムの3コースを設けた。1・2年次はデータサイエンス、プログラミング、情報セキュリティの基礎を全コース共通で学び、3・4年次の専門科目に応用する。これにより、工学を強みに地域に貢献してきた同校の教育体制・機能をさらに強化する狙いだ。

ものづくりの基礎としてICT・情報教育を必修化。全学科で履修する
ものづくりの基礎としてICT・情報教育を必修化。全学科で履修する

研究の最前線にいるからこそ生まれる「迫力」ある教育

大学は教育の場であると同時に、研究機関の役割を持つ。とりわけ国立大学にはその研究成果をいかに社会へ還元するかが問われる。主に研究力を測るTHE世界大学ランキング2019において、室蘭工業大学は「1001+」位にランク付けされた。道内では北海道大学、札幌医科大学に次ぐ3番目に位置する。

また、朝日新聞出版社『大学ランキング』では、2019、2020年版の2年連続でコンピュータ科学分野の論文引用度指数1位に輝いた(※)。さらに、システム理化学科の董冕雄准教授は、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)により日本中の研究者から11名だけが選ばれる「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」の一人に名を連ねた。

研究力の高さが教育に及ぼす影響は大きい。研究・連携担当理事を務める船水尚行副学長は、その意味をこう語る。

「研究力が高いということは、教員でもある研究者が各分野の『知』の最前線、価値を生み出す現場に立ち会っていることを意味します。そこには産業界との連携があり、研究対象が社会にどう位置づけられるかが明確です。そうした場から発信される教育は、教科書をなぞる教育とは『迫力』が違います」。

また、研究力が高ければ企業との共同研究の機会も増えるため、学生にとっては産業界とのつながりができ、企業で働くことを実体験することにもなる。

ものづくりの場で活躍する同窓生は、設立以降3万人を超える。
ものづくりの場で活躍する同窓生は、設立以降3万人を超える。

2060年の北海道を見据えて学生と共に夢を形に

室蘭工業大学は「地域のために働く」ことを宣言している。それをより鮮明に打ち出すために、約40年後の北海道のものづくりのあり方と、そこで同校が果たす役割をまとめた長期戦略「北海道ものづくりビジョン2060」を策定した。

2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)と北海道総合開発計画を踏まえ、「技術屋が描く2060年の姿」とする原案を作成。これをベースに、道内の産官学各領域から8名が集う「賢人会議」(議長は丹保憲仁・元北海道大学総長)で議論を深めた。

石油資源が枯渇に向かい、エネルギーが拡大期から制約期に転換するこれからの時代に、「情報」がエネルギーに置き換わり、その制約を解き放つ──。こうした壮大かつ夢のある構想の下、北海道を、その自然環境・地の利を生かして「世界のテストフィールド」にすることを提案する。

空閑学長は、「北海道への貢献を、ものづくりの発展、世界の課題解決につなげる。これが本学の研究戦略であり、理工学部への改組ともつながっています。研究・教育の両輪によって、未来を創造できる人材の育成に努めていきます」と力強く話す。

※『大学ランキング 2020年版』『同2019年版』(朝日新聞出版)から引用(承諾番号:19-2278)
※引用箇所において朝日新聞出版に無断で転載することを禁じます。

北海道に根差し地域貢献をキーワードに、課題の解決に取り組む。
北海道に根差し地域貢献をキーワードに、課題の解決に取り組む。
学長、工学博士
空閑 良壽
空閑 良壽
くが・よしかず
1979年東京工業大学工学部化学工学科卒業、1981年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修士課程修了、工学博士。1981年理化学研究所に入所、1988年から89年まで米国テキサス大学化学工学科博士研究員兼任。1996年より室蘭工業大学に勤務。2009年に副学長に就任、2011年国立大学法人室蘭工業大学理事・副学長。2015年より現職。
理事(研究・連携担当)・副学長、工学博士
船水 尚行
船水 尚行
ふなみず・なおゆき
1976年北海道大学工学部衛生工学科卒業、1978年同大学大学院工学研究科衛生工学専攻修士課程修了、工学博士。1978年より北海道大学に勤務。2010年環境ナノ・バイオ工学研究センター長、2014年次世代都市代謝教育研究センター長、2016年総合地球環境学研究所教授併任、2017年特任教授を歴任し、2018年より現職。