ランキングの活用に至った背景

 川西緑台高等学校の進路指導の根底には、「入学後、充実した4年間を過ごしてほしい」という気持ちが常にあります。そのため、生徒には卒業生の話を参考に大学の様子を伝えるようにしてきました。
 実際に卒業生の話を聞いてみると、様々なところに価値を感じている学生が数多くいることがわかります。例えば、「どんな仲間がいるか」「活発な意見交換を行えているか」「自分の意見を出しやすいか」などの要素から、学生自身が大学での学びにやりがいを見いだしています。ゼミなどでの人間と人間とのつながりを重視している表れではないでしょうか。
 受験生は、親や教員の勧めや偏差値に影響を受けて志望校選びをする傾向がありますが、それだけではありません。卒業生の話をきっかけに、多くの生徒たちが大学の校風、入学後の満足度や充実度に目を向けて、自分自身が価値を感じられる大学を探し始めています。
 教員が卒業生の報告や長年の経験で得た知識は、多角的に大学をとらえているものですが、それをわかりやすく1つの形にしたのが、日本版ランキングだと考えています。私自身は、進路指導における実感値がランキング化されているため、使いやすいと感じています。特に「教育充実度」分野のランキングは、学生自身の成長や満足度の表れとも言えるため、生徒も納得しやすいと思います。

志望理由を明確にするために

 3月に日本版ランキングが発表されたため、生徒には春から日本版ランキングを見せていますが、その段階で活用できる生徒は残念ながらほとんどいません。一方で、秋を過ぎて、本格的に志望校を検討する際には、日本版ランキングをもとに進路研究をする生徒もいます。
 そのため、春から秋までの間には、日本版ランキングの存在を生徒たちに知っておいてもらう必要があると感じています。そこで、今年は「進路通信」の中で日本版ランキングを紹介しました。
 具体的には、大学名を隠した状態で大学の3つのポリシー(アドミッション・ポリシー、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー)を掲載し、生徒たちには、それがどの大学なのかを考えてもらいました。

【掲載例】
 A大学は、世界に光られた国際都市Aに立地する大学として、国際的で先端的な研究・教育の拠点になることを目指しています。
これまで人類が気付いてきた学問を継承するとともに、普段の努力を傾注して新しい知を創造し、人類社会の発展に貢献しようとする次のような学生を求めています。
1.進取の気性に富み、人間と自然を愛する学生
2.旺盛な学習意欲をもち、新しい課題に積極的に取り組もうとする学生
3.常に視野を広め、主体的に考える姿勢をもった学生
4.コミュニケーション能力を高め、異なる考え方や文化を尊重する学生

(神戸大学 アドミッション・ポリシーより抜粋)

 併せて、「何を基準に進路先を選ぶか?」という投げかけをし、日本版ランキングの分野ごとのランキングを並べて掲載しました。これは、大学の規模やエリアによらず目を向けて欲しいという思いからです。志望校選びの基準は1つだけではないことを伝え、単に大学を紹介するのではなく、3つのポリシーや日本版ランキングをきっかけに、生徒たちがその大学の魅力や特色を知ることになればいいと考えています。
 また、生徒に第一志望としてのミスマッチがないかを確かめられる材料の1つとしても日本版ランキングを掲示しています。11月、12月に入ってくると、模試で良い結果が得られなかったなどの理由で、進路変更を安易に考えてしまう生徒もいます。そこで、最後まで目標を追い続けるためには、進路研究が重要な動機付けになると考えています。
 日本版ランキングを活用するときには、4分野のランキングを横に並べ、第一志望や迷っている大学の各分野のランキングに線を引き、結んでいきます。すると、どこに強みがあるかが明確になるので、大学の校風も知ることができます。これを、生徒との面談の場で生かしています。見たことのない大学がずらりと並んでいる印象を受けている生徒もいるようですが、偏差値からは見えてこない大学の違いが可視化されている点で、使いやすいと感じています。

日本版ランキングへの期待

 2017年度から日本版ランキングを活用した結果、生徒自身が、例えば「国公立だから」という理由だけではなく、大学の中身や研究に重きを置き、大学で得られる満足度が高い大学をしっかりと見つけるように変化していると感じています。感覚値ではありますが、この変化が、日本版ランキングの「教育満足度」が高い大学への進学につながっているのではないでしょうか。
 今後の日本版ランキングには、社会環境の変化に対応したランキングであり続けることを期待しています。例えば、地域貢献や学問別などの軸が出てくると、より使いやすくなるのではないでしょうか。
 これからの時代は、さらに偏差値だけでは大学を判断できなくなってくると思います。だからこそ、様々なデータを基にした指導の需要も高まるはずです。そんな時に、教育の中身に視点を置いた日本版ランキングは役立っていくでしょう。
 また、ランキングが進化していくほど、それを理解し、使いこなす必要性も出てきます。必然的に、日本版ランキングを活用できる人材への需要も高まるでしょう。進路指導担当だけでなく、高校教員全員が活用できるように努力しなければいけないと感じています。

兵庫県立川西緑台高等学校 進路指導部長
小村 大志
小村 大志
こむら・ひろし
教職歴30年。大学生活の充実度までを考えた進路指導に重きを置く。「難易度が高い大学でも、生徒が志望した大学であれば行かせてあげたい」という考えのもと、偏差値や合格可能性だけで大学を選ばず、自分が行きたいと思った大学について徹底的に研究させている。