各大学が定める「三つのポリシー」とは?

 近年、大学のホームページやパンフレットに「三つのポリシー」という言葉が頻出しています。これらは、文部科学省が国内の大学に策定と運用を推進しているもので、入学から卒業まで一貫した方針を用いて大学教育を実践することにより、学生の学修成果を向上させ、学位取得者としてふさわしい人材を社会に送り出すことを目指すものとされています。
 「三つのポリシー」とはアドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーを指します。これらのポリシーにより、学生側は卒業までに求められる学修成果について、見通しを持って学生生活を送ることができます。
 三つのポリシーは大学の教育理念に沿って策定され、大学はそれらに基づいて組織的、体系的に教育を展開・改善しています。

ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシー

 ディプロマ・ポリシーとは、各大学が定める「卒業認定・学位授与の方針」です。中学校や高校とは異なり、大学では卒業する際に「学士」という学位が与えられます。学位とは、一定の水準の教育を受け、知識・能力があると認める資格のようなものです。つまり、ディプロマ・ポリシーは、大学側が自信をもって卒業資格を出せる学生の基準であり、教育の質保証といえます。
 大学によって、また学部によっても、ディプロマ・ポリシーは異なります。知識・技能だけではなく、倫理観やコミュニケーション能力を卒業要件としている大学や学部も少なくありません。そうした学位授与の方針を事細かに記したものが、ディプロマ・ポリシーです。
 一方、カリキュラム・ポリシーは、ディプロマ・ポリシーを達成するための、教育課程編成・実施の方針として定められます。大学がどのような教育内容をどのような方法で実施するか、そして学修成果をどのように評価するのかを具体的に記しています。

ランキングとの関連性

 三つのポリシーは、大学からの重要なメッセージとして発信されているので、ぜひ確認したいところです。そして、大学ごとの特徴や違いを比較検討するうえで、さらに参考になるのが、THE世界大学ランキング 日本版の「教育成果」及び「教育満足度」のランキングです。
 「教育成果」は、企業や研究者から見た大学卒業生のイメージ調査を基にしています。これらは各大学のディプロマ・ポリシーを客観的に知るのに役立ちます。
 一方、「教育満足度」は、高校教員の評判調査により「グローバル人材育成に力を入れている」「学生の入学後の能力を伸ばしている」という観点をスコア化したものです。これは、各大学のカリキュラム・ポリシーを比較する際に参考になります。

早慶のディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシー

 今回は、教育成果ランキング、教育満足度ランキングともに上位である2大学、早稲田大学と慶應義塾大学のディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーを見てみましょう。
 教育成果ランキングでは、慶應義塾大学が5位、早稲田大学では10位となっていますが、教育満足度ランキングでは早稲田大学が5位、慶應義塾大学が6位と順位が入れ替わっています。たびたび比較される両大学ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

早稲田大学(教育成果ランキング10位、教育満足度ランキング5位)
 大学全体でのディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーを見てみましょう。
 ディプロマ・ポリシーの内容は
「本学の三大教旨(学問の独立、学問の活用、模範国民の造就)を深く体得し、様々な分野や役割で地球社会に貢献できる人材を輩出する。すなわち、学問が産み出す新たな知見の重要性を理解し、これら知見を地球社会に対して有益に活用するとともに、地球市民一人ひとりの幸せの実現をリードする能力と意志を持つ人材として、創造的構想力、問題発見力、問題解決力、批判的精神、異文化理解力を有するリーダーを育成する」(早稲田大学ホームページより引用)
 というもので、「地球社会」「地球市民」という、社会への還元を強調した言葉が特徴的です。
 カリキュラム・ポリシーは
「学問を学ぶために必須であり、同時に社会に出て貢献するために必要な学術的な基盤を提供する。その上に、地球社会に貢献できるように、学生各自が問題発見し問題解決するために、各自が求める専門性を学術的にも実践的にも高めていくことを促すカリキュラムを各学部・大学院において構築する。本学の教育内容は、世界水準を超えるものを目指し、その内容を世界中の人々と共有し、世界の教育に貢献する。」(早稲田大学ホームページより引用)
 というもので、「地球社会に貢献」できるように、「世界水準を超える」教育内容を目指すと、高度な専門性を重視していることがわかります。
 すべての学問の基礎となる「WASEDA式アカデミックリテラシー科目」などは、こうした学術的な基盤を大切にするカリキュラム・ポリシーを体現した取り組みの1つといえます。

慶應義塾大学(教育成果ランキング5位、教育満足度ランキング6位)
 慶應義塾大学は、学部定員の最も多い経済学部のディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーを見ていきます。
 経済学部では、ディプロマ・ポリシーを
「一般教養、語学ならびに経済学全般に関する広い知識・理解力と経済学の特定専門分野に関する深い考察力を兼ね備えた者に学位を授与する。経済学を一つの軸とする教養を備え、変化する社会を適切に認識し、日本社会をリードすると同時に世界で活躍できる能力を証するものとして学位を授与することを方針としている。」(慶應義塾大学ホームページより引用)
 と定めています。「経済学を一つの軸とする教養を備え」とあるように、専門性とあわせて教養ある人材の育成をめざしていることが伺えます。
 続いて、カリキュラム・ポリシーは
「総合教育科目、外国語科目、経済学に関する基礎教育科目・専門教育科目などを、バランス良く各学年に配置し、学年制を取る。4年間で126単位以上の取得を課す。また、一、二年時の自由研究セミナー、教養系を中心としたセミナー(研究プロジェクト)、経済学専門のセミナー、英語による経済学履修コース(Professional Career Program)など少人数教育の充実につとめている。さらに、大学全体の国際交換協定とは別に、学部独自の交換協定を締結し、在学中における海外大学での単位取得を奨励している。」(慶應義塾大学ホームページより引用)
 と定めています。ここでは、経済学部のみを紹介しましたが、どの学部でも、幅広い教養を備え、実証的な研究による専門知識を持ったリーダーを育てていく目的が共有されています。

 このように、各大学のディプロマ・ポリシーやカリキュラム・ポリシーからは大学、学部の名前やイメージからではわからない、大学ごとの特色や教育の目的を読み解くことができます。ランキングと併せて、大学比較の参考にしてみてください。