教育リソース分野のランクが高い工業系大学

 日本版ランキング2018の「教育リソース」ランキングを見てみると、医療系学部を有する大学が上位に並んでいます。ランキングの上位30校を詳しく見てみると、17校が医療系の単科大学で、10校が医学部を有する総合大学です。そして、残りの3校が東京工業大学、豊田工業大学、東京農工大学と、工業系の大学であることがわかります。
 ここでは、上位にランクインした工業系の大学3校が、「教育リソース」の高いスコア獲得につながったと考えられる取り組みを紹介します。

充実した研究環境と学外への影響が光る

 東京工業大学、豊田工業大学、東京農工大学の3大学は、教員1人あたりの学生数が少ないという特徴があります。文部科学統計要覧(2016年版)によると、教員1人に対する学生数の全国大学平均は15~16人程度ですが、工学部の平均は37人で平均よりも多い状況です。その中で、上位にランクインしている工業大学では、教員1人あたり学生10人程度です。これが、「教育リソース」のスコアを上げる1つの要因になっていると考えられます。
 ほかにも、工業系大学3校は、それぞれ研究のための設備を充実させたり、独自の体験型授業を行ったりするなど、学生が学びやすい環境づくりを積極的に行っています。

教育リソース11位:東京工業大学
 東京工業大学には、「みんなのスパコン」として活用されている「TSUBAME」というスーパーコンピュータ(以下、スパコン)があります。従来のスパコンは、少数のエリートが運用するものという認識がありました。しかし、東京工業大学は、それを変えたいという思いから、「TSUBAME」を学内に限らず学外の研究機関・民間企業など、すべての人がスパコンを利用できるようにしました。
 学生たちは「TSUBAME」の大規模計算能力を活用し、科学技術研究に役立てています。例えば、生命情報科学の分野において、「TSUBAME」の大量データ解析能力を活用しています。これにより、かつては何年、何十年という時間を要した作業が数時間で終わり、研究のスピードが早まっています。
 科学の世界では、“理論”と”実験“が大きな役割を担っています。その中で、東京工業大学は、実験が不可能な状況でもコンピューター上でのシミュレーションにより、理論を確認できる環境が整っていると言えるでしょう。

教育リソース12位:豊田工業大学
 「教育リソース」分野における工業系大学トップ3のうち、唯一の私立大学が豊田工業大学です。豊田工業大学は、学費が年間60万円と国公立大学並みの安さでありながら、学生1人あたりの大学支出額は年間656万円で、その支出額の多さが特徴と言えます。
 これは、地元企業であるトヨタ自動車からの寄付、並びに公的な研究開発機関や企業からの受託研究・共同研究収入など、いわゆる外部資金が潤沢なためです。
 豊田工業大学は、開校以来、体験的教育を重視し、学内での演習・実験だけでなく、実際の生産現場においての体験的学習に力を入れています。具体的なプログラムには、「工作実習工場」があります。これは、トヨタ自動車から、毎週、非常勤指導員として専門家が派遣され、学生一人ひとりが直接「ものづくり」を体験するというものです。学生たちは、その道のプロから直接、加工・安全に対する指導を受け、貴重な経験ができます。学生たちに充てられている資金の多くは、これらの教育研究経費に使われています。

教育リソース28位:東京農工大学
 東京農工大学は、教員1人あたりの論文数が国内第2位です。特に、「Agriculture & Forestry(農業・林業)」の分野では、世界の大学およそ20,000校中、トップ100にランクインし、名声を高めています。
 論文数増加の要因としては、学生自らが研究した内容を基礎に、英語で論文の作成を行っていることが挙げられます。論文が国際的に優れている場合には、学長がオープンアクセス料を支援する制度もあります。これにより、世界に研究内容が公表され、世界の研究者に読んでもらうチャンスが提供されていると言えるでしょう。
 また、東京農工大学では、大学独自の研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーター:URA)能力開発プログラムを設けています。具体的には、研究者の職務内容に応じた3つの職階があり、能力と経験を踏まえて上級の職階に任用されるというシステムです。そのように育成されたURA人材が中心になり、高度な研究を推進しています。特に、統括URAは大学戦略の立案や実施に参画するなどの学内外での高いステータスを持つため、研究者の目標達成意欲を高い水準で保つことができると考えられます。

 工業系の大学の特色を見てみると、研究面において企業との連携も多く、外部からの資金調達の割合が高いことがわかります。
 このように、ランキングを学問系統別に見てみると、大学の特色がつかめるかもしれません。ぜひ、いろいろな大学の比較にランキングを活用してみてください。