建築界のノーベル賞「プリツカー賞」と日本人受賞者

 プリツカー賞は「建築界のノーベル賞」とも呼ばれ、その受賞は建築家にとって最高の栄誉だと考えられています。1979年、アメリカのホテルチェーン「ハイアット」を所有するハイアット財団によって設立されました。「建築を通じて人類や都市空間に意義深い貢献をしてきた」とされる存命の建築家を対象とし、毎年1人または1団体に授与されます。
 2018年までに、プリツカー賞を個人または団体として受賞した日本人は7人います。日本人の受賞者のうち、丹下健三(たんげ・けんぞう)さん、槇文彦(まき・ふみひこ) さん、伊藤豊雄(いとう・とよお) さんは、東京大学の卒業生です。丹下さんは東京帝国大学(現在の東京大学)工学部建築科を卒業し、東京大学工学部の教授になりました。槇さんは東京大学工学部建築学科に在学中、丹下研究室で建築を学んでいます。
 他の受賞者で日本国内の大学を卒業しているのは、2010年に建築家ユニット「SANAA」としてプリツカー賞を受賞した妹島和世(せじま・かずよ) さんと 西沢立衛(にしざわ・りゅうえ) さんです。妹島さんは日本女子大学家政学部住居学科、西沢さんは横浜国立大学工学部建築学科をそれぞれ卒業しています。
 そこで、東京大学、日本女子大学、横浜国立大学の3大学について、日本版ランキング2018のランキングやスコアで比較し、各大学の特徴を紹介します。

プリツカー賞受賞者の出身大学の特徴

■東京大学
 丹下さん、槇さん、伊藤さんの3人が卒業した東京大学は、総合ランキングで京都大学と同率の1位にランクインしています。「教育リソース」「教育充実度」「教育成果」のスコアが京都大学よりも高く、これらの3分野では全大学の中で1位でした。
 東京大学工学部建築学科は日本で最初に作られた建築学科で、その起源は明治6年にまでさかのぼります。建築学は「ものだけでなく人も工学的に扱う」学問だと考えられ、建築学科では、何百年も使い続けられる古建築、高度な災害対策技術、コミュニティ、建具などを含む総合的な学びを扱っています。
 学生は、教養学部で様々な学問に触れた後、建築学科で3つの学問領域から自らの興味ある講義を選択して学びます。3つの学問領域は、専門家としての歴史観を育成しつつ、先端の計画デザインを行う「計画・歴史・意匠系」、現在、最も注目される環境問題に取り組む「設備・環境系」、地震先進国である強みを生かした先端のエンジニアリングとしての「構造・材料・構法系」です。
 学生が柔軟に科目をな選択できるカリキュラムのため、「ものだけでなく人も」扱うための総合的な知識を身に付けやすいといえます。このような自由度と包括性の高いカリキュラムが、多くの著名な建築家の輩出につながっているのかもしれません。

■横浜国立大学
 建築家ユニット「SANAA」のメンバーである西沢さんが卒業した横浜国立大学は、総合ランキング25位タイにランクインしています。特に、高校教員への評判調査を基にした「教育充実度」と、企業人事や研究者への評判調査を基にした「教育成果」のスコアが高いことが特徴です。
 2017年、横浜国立大学は「都市科学部」を新設しました。都市化が進む世界の状況に対応するため、「都市」を科学的に学ぶことを目的としています。西沢さんは工学部建築学科を卒業していますが、現在は、この新設された都市科学部で教授として研究・教育活動を行っています。
 都市科学部では、大学の「地元」である神奈川県や横浜市をフィールドとした演習、地域との連携を重視しています。さらに、大学全体としても都市・建築・環境などの問題領域に対して深く関わっています。このような地域に密着した研究が、高校教員や企業人事などの評判につながっているのではないでしょうか。

■日本女子大学
 妹島さんが卒業した日本女子大学は、総合ランキング141-150位にランクインしています。分野別では「教育リソース」「教育成果」にランクインしています。
 妹島さんは、家政学部住居学科を卒業しています。日本女子大学家政学部は、大学の創立時から存在する伝統ある学部で、「女性の視点を生かしながら、生活の向上と人類の幸福のために活躍する人材」を育成しています。住居学科では、「生活者視点」という考え方を大切にした教育が行われています。
 「生活者視点」は、住宅だけではなく、その周囲の近隣や地域環境を含めた全ての生活の場を対象にしたものです。子どもから高齢者まで、男性も女性も、障害の有無にかかわらず、安全かつ健康的に文化的な生活ができる場の実現を目標にしています。
 居住環境デザイン専攻では、快適な住生活をデザインするゼネラリストの育成をめざしています。学生は、歴史や文化、ライフスタイル、環境といった総合的な知識やデザイン力、表現力を身に付けることができます。
 建築デザイン専攻では、質の高い生活空間を生み出すスペシャリストの育成をめざし、これまでにも多くの著名な女性建築家が輩出しています。さまざまな設計課題や実験・演習に取り組み、建築設計者、技術者、プランナーなどの実務で通用する学びを展開しています。さらに、実際の設計に生活者の視点を取り入れる実践力や表現力、生活者の視点に立ちながら居住思想をプレゼンテーションできる能力やコミュニケーション力を養います。
 このような、実践的かつ「生活者視点」の学びが、社会で活躍できる女性が輩出する理由ではないでしょうか。

 このように、同じ職業をめざすための学部・学科であっても大学によって、そのカリキュラムに特徴が表れます。日本版ランキングを使って、大学の特徴を各分野のスコアなどで客観的に比較した上で、カリキュラムの詳細を調べる方法がおすすめです。