日本版ランキング2019における「教育リソース」分野の動向

 2019年3月27日に、日本版ランキング2019が発表されました。
 日本版ランキング2019は、「教育リソース」「教育充実度」「教育成果」「国際性」という4分野で構成されています。そのうち、「教育リソース」分野は「どれだけ充実した教育が行われている可能性があるか」を示し、指標は「学生一人あたりの資金」「学生一人あたりの教員比率」「教員一人あたりの論文数」「大学合格者の学力」「教員一人あたりの競争的資金獲得数」の5項目です。
 「教育リソース」分野の指標項目は2018年版から変化はありません。しかし、ランクインした大学の順位を見てみると、東京医科歯科大学が。京都大学を抜いて2位になるなど、ランキングの変動が見られました。

「教育リソース」で大幅にランクアップした大学

 日本版ランキング2019の「教育リソース」分野で、2018のランキングから大幅にランクアップした大学を、順位の上がり幅が大きい順に3校ピックアップし、特徴的な取り組みを紹介します。

■新潟大学
 日本版ランキング2018で98位タイだった新潟大学は、2019年版では50位タイにランクアップしました。
1870年(明治3年)に設置された仮病院(共立病院)が沿革の始まりである新潟大学では、現在でも、医学部での研究が盛んです。特に、新潟大学の研究者が研究代表者を務める多くの医学系の研究プロジェクトが、大型外部資金を獲得しています。
 日本版ランキング2019の調査期間である2017年度には日本医療研究開発機構(AMED)の「肝炎等克服緊急対策研究事業」の支援の下、「肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法の実用化に向けた研究を行う肝炎等克服実用化研究事業」が開始されました。この研究成果は、英国の論文誌「STEM CELLS TRANSLATIONAL MEDICINE」にfeatured paperとして掲載されました。
 新潟大学には、研究分野ごとの被引用回数が世界で上位1%までに入り「高被引用論文」になった、世界的注目度の高い研究もあります。2018年度には、大学院医歯学総合研究科「分子細胞機能学」分野の中津史准教授と「バイオインフォーマティクス」分野の奥田修二郎准教授の研究が、高被引用論文になりました。
 新潟大学では、リサーチ・アドミニストレーター (URA)が大型の外部資金獲得をサポートしているほか、「将来展開に向けた機能強化基本戦略」において医歯学分野を挙げ、分野を超えた融合・連携研究の推進に取り組んでいます。
 このように、大学の強みである研究分野を後押しする取り組みが、ランクアップにつながったのではないでしょうか。

■愛知県立大学
 愛知県立大学は、日本版ランキング2018で138位でしたが、2019年版では92位と、100位以内にランクインしました。
 日本版ランキング2019の調査期間である2017年度に、日本学術振興会の科学研究費に採択された研究を見てみると、情報科学部所属の研究者による研究テーマが、様々な領域にまたがっていることに気づきます。愛知県立大学情報科学部は、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)、人工知能(AI)、ロボット技術などを基盤とした「第4次産業革命」や「超スマート社会」を見据えています。そのため、いわゆる理工学分野の研究だけではなく、通信、自動車、教育、医学など様々な分野と融合した研究を行っています。
 2017年度には、情報科学部の臼田毅教授らが著した、量子受信機に関する共著論文が、フィジカル・レビュー誌(Physical Review A)にエディター推薦論文(Editor's Suggestion)として選出・掲載されました。臼田教授は、「量子フェージング通信路モデルを基礎とした無線量子通信に関する研究」を行い、この研究が科学研究費に採択されています。
 また、外部資金が増加傾向にあります。愛知県立大学次世代ロボット研究所では、2017年度に、トヨタ自動車株式会社をはじめとする様々な企業・団体と共同研究を行いました。
 このように、技術分野の産学連携を行ったことが、公立大学では珍しい、「教育リソース」での大幅なランクアップができた理由ではないでしょうか。

■電気通信大学
 日本版ランキング2018で75位だった電気通信大学は、2019年版では31位にランクアップしました。
 電気・通信分野はもちろん、理工学における様々な分野の教育・研究を行う電気通信大学では、政府系機関が行うプロジェクトに関わる研究が多数行われています。日本版ランキング2019の調査期間である2017年度には、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下、JST)の未来社会創造事業に、電気通信大学の3事業が採択されました。
 また、電気通信大学の技術移転機関である株式会社キャンパスクリエイトと共同して、様々な大学・企業と広域的な連携を行っています。
 2017年度には、TIS株式会社と共同で「大容量コンテンツ配信を担う軽量分散協調キャッシュ技術」を開発し、国際会議「CANDAR16」で「Outstanding Paper Award」を受賞しました。JSTの戦略的創造研究推進事業である「光コムを用いた新しい高速3次元イメージング法の実証」の研究では、研究成果がイギリスのネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。これら成果からもわかるとおり、電気通信大学の研究成果は国際的に認められているといえます。
 さらに、電気通信大学では、2017年に、研究戦略策定や研究支援などの業務に携わる人材が連携する場として「URA共創プラットフォーム」を設置しました。このような研究支援活動も、電気通信大学のランクアップに寄与していると考えられます。

 「教育リソース」でランクアップした大学は、質の高い研究を行うことはもちろん、研究を後押しする活動にも積極的に取り組んでいます。ランクアップを果たした大学の取り組みを調べてみると、社会の動きが見えてくるかもしれません。