学修成果を把握し、改革する大学は3割強

 中央教育審議会による「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」は、各大学に「学修者本位の教育」への転換を求めています。これは、学修者が何を学び、身に付けることができるのかが明確かつ成果を実感できる教育のことです。そのための取り組みとして、「学修成果の可視化と情報公表」などが挙げられています。
 学修成果を把握するにはさまざまな手段が考えられますが、学生の成長実感、満足度、意欲等をつかむには、調査等によって学生の声を聴くことが欠かせません。
 文部科学省の調査によると、2015年度時点で過程を通じた学生の学修成果を把握している大学は半数以下です。さらに、アンケート調査によって学修経験を問うた大学は全体の20.2%、教育課程・方法の改善に生かした大学は全体の35.3%に限られます。ベネッセ「Between」編集部による複数大学へのヒアリングでは、「学生調査は試みているが回答率が低すぎる」「問題点は把握できても、教学改革が進まない」「学生へのフィードバックがない」といった課題が多く見られました。

可視化は避けては通れない世界的な課題

 海外においても、高等教育に多大な公金が投入されていることから、説明責任をどう果たすかについて、議論と試行が続いています。
 アメリカでは、学修成果を総合的に評価する「CLA(Collegiate Learning Assessment)」などのアセスメントや、共通の学修成果基準「VALUEルーブリック」が運用されています。また情報公表サイト「College Portrait」には、学生の満足度、非認知能力の伸長などを掲載しています。
 ヨーロッパではボローニャ・プロセスの一環として、資格・学位のレベルを統一する「欧州資格枠組み」や、取得した学位の内容を統一様式で示すディプロマ・サプリメントが運用されています。イギリスは、国による学生調査の結果によって各大学の教育力を格付けする「TEF(Teaching Excellence Framework)」を実施しています。

「教育充実度」のスコアが高い大学の学生調査活用例

 THE世界大学ランキング日本版2019(以下、日本版ランキング2019)の「教育充実度」のスコアが高い大学は、学生の学びや成長を可視化して、積極的に教育に生かしていると考えられます。「教育充実度」上位大学に、学生調査の活用について尋ねました。

■国際教養大学
 日本版ランキング2019の「教育充実度」分野のランキングで1位の国際教養大学は、卒業・修了を控えた学生が対象の「教学調査」を行っています。内容は、大学が掲げる教育目標と関連し、学修の探求方法や学位方針の達成度を学習段階別に確認するほか、授業内の能動的学修経験の度合いや授業外学修時間など多角的な視点で自己評価するものです。そのほか、学部・大学院を通じてすべての科目で毎学期実施する「授業評価」、毎年11月に在学中の全学部生、院生の学修・生活全般の満足度をWebで尋ねる「学生満足度調査」、就職活動を始めた学生に行う「就職ガイダンスアンケート」が実施されています。さらに、卒業後にも個別相談の機会を設け、後輩たちのキャリア教育に生かしています。
 国際教養大学の学生調査で特徴的なのは、調査ごとに専門の担当部署が結果の共有・改善を受け持つということです。教学調査および授業評価は教務課が所轄して、個々の教員へのフィードバックや各プログラムの運営陣との共有を行い、各プログラムでカリキュラム編成の改善を行います。また、学生満足度調査は学生課、就職ガイダンスアンケートおよび卒業後の相談はキャリア開発センターが受け持ち、それぞれ調査をふまえた改善を図ります。そして、IR担当官が各種調査・データについて横断的な分析を行い、経営・教学両面での意思決定の一助としています。
 このように、専門の担当部署と、それらをまとめるIR担当官というネットワークにより、現場に近い目線での大学改革が可能になっています。

■国際基督教大学
 日本版ランキング2019の「教育充実度」分野のランキングで2位にランクインした国際基督教大学では、さまざまな調査を、学生生活の中の適切なタイミングで実施しています。
 実施している学生調査は、7種類にも上ります。中でも特徴的なのは、入学してすぐの新入生に行う「入学時調査」、進級前の1年生から初年次教育の効果を把握する「1年次調査」、メジャー(専攻)選択前の新3年生に2年間の学修成果や教育満足度などを確認する「学生学修時調査」、卒業後の進路に大学が与えた影響を確認する「同窓生調査」でしょう。そのほか、毎学期末に行う「授業効果調査」、毎年卒業前の学生に対して実施する「進路に関するアンケート」や「卒業時調査」もあります。学生調査を活用するものとして「学生が抱える問題の早期発見・対応」を挙げる国際基督教大学ならではの、きめ細かいヒアリング体制だといえます。
 さらに、国際基督教大学では、調査の結果を積極的に公開しています。学生調査の概要を学生及び一般に向けてWebサイトに掲出するほか、学生には、学生調査の結果を基に改善した事例について報告しています。また、毎学期末に行われ、授業改善の参考となる授業効果調査は、学内Webサイトに公開され、学生が履修計画を立てる際に活用されます。
 一貫して「学生のため」という視点を持った国際基督教大学の調査活動が、「教育充実度」分野の上位ランクインにつながったと考えられます。

 学修成果の可視化は、それをどう使うかが肝心です。学生調査やアセスメント等の結果を教育改革や日々の授業改善に生かす、社会に対する説明責任を果たし高等教育への信頼感を醸成する、といった「活用」ありきで主体的に取り組むこと。それが「学修者本位の教育」への第一歩ではないでしょうか。
 取り上げた大学での事例を参考に、今後も大学が行う学修者本位の教育に注目しましょう。