日本で推進される社会と心のバリアフリー化

 2018年11月1日、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」の改正が施行されました。この法律には、基本理念として「共生社会の実現」「社会的障壁の除去」に資することが明記されています。また、これにより、公共交通施設や建物、地域でのバリアフリー化の推進、「心のバリアフリー」の推進、当事者による評価の必要などが定められました。
 さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、国土交通省は「オリンピック・パラリンピックを見据えたバリアフリー化のあり方に関する検討会」を設置しました。2020年には「国内および海外から障害者、高齢者等の移動制約者を含む多くの旅客が東京に来訪する」として、バリアフリー化に取り組んでいます。
 内閣府では、「バリアフリー」を「物理的な障壁のみならず、社会的、制度的、心理的なすべての障壁に対処するという考え方」と定めています。公共施設や地域のバリアフリーは、高齢者や障害者だけでなく、子育て中の家族や、けがなどで一時的に支障を負った人にとっても助けになります。
 バリアフリーと関係の深い言葉に、「ユニバーサルデザイン」「ノーマライゼーション」があります。「ユニバーサルデザイン」とは、施設や製品などを誰にとっても利用しやすくデザインするという考え方です。「ノーマライゼーション」は、障害による差別なく、すべての人が参加し、自立して生活することのできる社会をめざすという理念です。政府は、現在の交通、地域、施設などのバリアフリー化や、新しく作る施設や製品のユニバーサルデザイン、ノーマライゼーションの理念に基づく社会参加を推進しています。

バリアフリーについての教育・研究を行う大学

 バリアフリーについての教育・研究を行う大学を紹介します。

■筑波大学
 筑波大学人間学群障害科学類では、学生は障害について幅広く学修します。筑波大学の「障害科学」は、すべての障害を対象とし、心理学、教育学、医学、生理学、社会福祉学、社会学などを含めた総合的な科学分野を基盤として成立しています。
 履修モデルは3つあり、多くの障害を対象に、基礎的な知識や技能の修得をめざす「障害科学履修モデル」、障害がある幼児・児童・生徒の教育や地域における発達障害などの教育的ニーズに応じた指導・支援の専門家を育成する「特別支援教育学履修モデル」、ノーマライゼーションを実現するための施策や援助方法について学修する「社会福祉学履修モデル」です。
 また、筑波大学には、医学群にもバリアフリーに関する研究室があります。筑波大学生活支援学研究室では、徳田克己教授、水野智美准教授のもと、交通バリアフリーや点字ブロック、また、障害や子ども・教育などについて幅広く研究しています。
 さらに、筑波大学では、ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンターのアクセシビリティ部門において、障害のある学生への充実した支援を行っています。具体的には、障害のある学生の日常的な修学支援を行う「ピア・チューター(学習補助者)」の配置、全ての学生への理解・啓発を目的とした総合科目「障害学生とともに学ぶ共生キャンパス」の開設などを行っています。支援には、障害科学を専門とする筑波大学の研究者が指導・助言をします。

■日本大学
 日本大学生産工学部創生デザイン学科では、「デザイン思考」で人々や社会が抱える問題を発見できる人材、また、「人のこともわかって、モノのこともわかる」人材の育成をめざし、教育を行っています。
 コースは2つに分かれています。それぞれ、家電製品や自動車、インテリア用品など、社会や現代産業のニーズに応える製品デザインについて学ぶ「プロダクトデザインコース」と、住まいや街、公園、道路、都市などの空間を快適で安全な場所として想像する力を学ぶ「空間デザインコース」です。
 授業では、学部共通の教養科目と基盤科目に加えて、生産工学の基礎知識や経営管理などを学ぶ創生デザイン学科生産工学系科目、芸術と工学に関する基礎知識を学ぶ専門教育科目があります。また、プロダクトデザインコース、空間デザインコースのどちらのコースの学生も、ユーザーや社会のニーズに応えるため、エコロジカルデザイン、サスティナブルデザイン、ユニバーサルデザインを学びます。また、人間の身体的・認知的・精神的な特性を理解して、人が使いやすい製品や環境、システムなどを実現する「人間工学」に関する科目も開設されています。創生デザイン学科での教育は、認定人間工学専門家資格の受験資格の1つとして認められています。
 内田康之教授の研究室では、障害者支援を考えた福祉器具デザイン、色彩を配慮したカラーユニバーサルデザインなどの研究を行っています。

■東京電機大学
 東京電機大学情報環境学部建築デザインコースのバリアフリー環境研究室では、大崎淳史准教授のもと、建築や都市におけるバリアフリー環境の向上について、心理面からアプローチする研究が行われています。
 研究室では、目標を「こころをひらくバリアフリー環境を実現すること」としています。大崎准教授は、建物の段差をなくしたり、通路の幅を広げたりといった設計面での取り組みによって、すべての人が同じ空間・時間を共有できることこそが大切であると考えています。老若男女、障害の有無にかかわらず、積極的に社会活動に参加できるような「心をひらく」建築や都市をめざします。これまでには、天井走行式リフトを設置した一般住宅の居室や特別支援学校の教室、小・中学校の教室まわりの掲示空間、特別支援学校の教室の構造化空間などの研究を行っています。
 環境情報学部は、「ネットワーク・コンピュータ工学コース」「デジタル情報工学コース」「建築デザインコース」「コミュニケーション工学コース」の4コース制です。バリアフリー環境研究室のある建築デザインコースでは、建物のつくり方だけでなく、情報技術の基礎、高齢社会・福祉住環境やエコといった現代的な課題についても学びます。

 この記事で紹介した筑波大学、日本大学、東京電機大学の3校は、THE世界大学ランキング日本版2019の総合ランキングおよび分野別ランキングにランクインしています。すべての人にとって住みやすい社会をめざす大学の取り組みに、今後も期待が高まります。