〝汎用的能力〟を育てる「愛大学生コンピテンシー」

教育、研究、社会・国際連携と、多方面で改革が進む愛媛大学。その中軸が、未来に向けた人材育成の理念「愛大学生コンピテンシー」だ。先行き不透明な時代を生き抜くための汎用的能力とは何か。学生はどのような活動によってその能力を伸ばせるのか。大学はそれをどう支援すべきか。この3点を中心に、長期にわたる議論を重ね、2012年7月の教育研究評議会で正式に決定。愛大学生コンピテンシーを「卒業時に身につけているよう期待される能力」と規定し、学生と教職員はもちろん、学外にも明示した。

「知識や技能の運用能力」「論理的に思考し判断する能力」「多様な人とコミュニケーションする能力」「自立した個人として生きる能力」「組織や社会の一員として生きる能力」。愛大学生コンピテンシーにはこの5つの能力と12の具体的な力が示されている。

これからの時代、情報は絶え間なく上書きされ、知識や技術も目まぐるしく更新されていく。的確に情報を取捨選択し、新たな知識を仕事や人生にどう生かすかを考える力が、学部・学科を問わず必要となる。その力こそ、愛大学生コンピテンシーが示す汎用的能力だ。すべての学生にしっかり身につけさせ、社会に送り出すことが使命であると、大橋裕一学長は考えている。

学生は、正課教育、準正課教育、正課外活動の3つのステージを通じて愛大学生コンピテンシーを習得する。コミュニケーション能力や、組織や社会の一員として生きる能力など、授業だけでは身につきにくい力も、クラブ活動やボランティア、地域との関わりといった、準正課教育や正課外活動の中で自然と伸ばしていける仕組みだ。

クラブ活動や短期留学も経済的に支援し、学生の成長を促す。
クラブ活動や短期留学も経済的に支援し、学生の成長を促す。

「学力の3要素」を踏まえた国立大の入試改革を先導

卒業予定者を対象とするアンケートでは、「愛大学生コンピテンシーが身についたと思うか」の問いに、肯定的な回答が85%を上回った。卒業生を採用した企業の満足度も80%を超え、実社会でもポジティブに評価される傾向がうかがえる。「学力の3要素」における「主体性・多様性・協働性」との親和性が高いことも、愛大学生コンピテンシーの特長だ。愛媛大学ではこの点を生かし、2015年より入試改革に取り組んできた。学内の教育改革を担う教育コーディネーターの教員を中心に、実に100人体制で毎年4〜5回、今後の入試のあり方を議論してきたのである。

その結果、他の国立大学に先駆け、2021年度入試から全入試区分で「学力の3要素」すべてを含む評価の実施を公表した。AO入試と推薦入試では、高校の調査書と本人作成の活動報告書、一般入試でも全受験生の調査書を合否判定に活用する。多様な能力や個性を持つ高校生を、愛大学生コンピテンシーの素質を秘めた人材として入試の段階から評価し、その力に磨きをかけて社会に送り出したいとしている。

執行部をはじめ教職員の総力を挙げて教育改革に取り組む。
執行部をはじめ教職員の総力を挙げて教育改革に取り組む。

着実に進むグローバル教育と地方大学ならではの地域連携

「教育充実度」のスコアが高い愛媛大学は、グローバル人材の育成にも力を入れている。2016年度には法文学部を改組し、グローバル・スタディーズ履修コースを新設。2017年度には学生海外派遣制度を創設するなど、地域と世界の接点となる人材の育成に取り組む。2017年度には635人の日本人学生を海外に派遣し、644人の外国人学生を受け入れた。

もう一つ、愛媛大学の教育改革が実を結んだ存在に、社会共創学部がある。文理融合により、学問領域の垣根を越えて学ぶことができるとともに、PBL(Project Based Learning)や県内全域を舞台とするフィールドワーク、インターンシップなどの比重が大きい点が特筆される。座学と実践の連携により、課題発見・解決能力やサーバント(支援型)リーダーシップなど、社会人必須のスキルが在学中に身につくと、学生たちに好評だ。

フィールドワークは、住民、行政、NPO、企業などとの対話で始まり「協働」へと進む。その先にある目標が、新しい価値の創造である。それが社会共創学部という名の由縁だ。

愛媛大学を卒業した学生はこの春、42.1%が県内就職を果たした。卒業生の地元定着をさらに進めたいと、大橋学長も意欲を見せる。その実現に向け、県内就職が内定した4年生および3年生各20名を対象とする「地域定着奨学金」も設けた。地域との協働にとどまらず、地元で活躍する人材の輩出を増やすこともまた、地域に根差した愛媛大学に期待される重要な役割なのだ。

異文化交流のできる「キャンパスの国際化」を積極的に推進。
異文化交流のできる「キャンパスの国際化」を積極的に推進。
学長、医学博士
大橋 裕一
大橋 裕一
おおはし・ゆういち
1950年生まれ。医学博士(大阪大学)。1992年愛媛大学医学部教授、2003年同医学部附属病院長。2006年3月より愛媛大学理事。2009年4月より理事・副学長を経て、2015年4月より現職。専門分野は眼感染症、角膜手術、角結膜疾患。