東日本の国公立大学の特徴

 一般的に、日本では様々な機能が東京に一極集中しているといわれています。確かに、都道府県別の大学の設置数を見ると、東京都が他の道府県を圧倒しています。
 しかし、研究内容の面では、地方の国公立大学が優れた結果を残し、社会に貢献している例も数多くあります。特に、2011年に起こった東日本大震災の復興支援事業では、多くの東日本の国立大学が、それぞれの研究や専門分野を生かした活動を実施し、被災地のために尽力しました。
 本記事では、東日本の国立大学に焦点を当て、古くから、その地域の特産品などにゆかりのある研究を進め、成果を挙げている大学を紹介します。

地域と密着して高い研究力を発揮している、東日本の国立大学

 「教育リソース」ランキングにランクインした大学の中から、特に、特徴的な取り組みを行う東日本の国立大学3校を見ていきましょう。

伝統の繊維産業を最新の有機ELへ:山形大学
 山形大学は教育リソースランキングで75位にランクインしました。
 山形大学の工学部は有機EL研究で有名です。工学部の前身は1910年に開校した米沢高等工業学校で、学部としても長い歴史があります。米沢は、古くから繊維産業が盛んな地域であったため、米沢高等工業学校も繊維の研究からスタートしました。その伝統を受け継ぎ、山形大学工学部では、プラスチックや化学繊維などを含む高分子の研究が進められてきました。現在でも200人ほどいる工学部の教員のうち、半数近くが高分子やプラスチックなどの分野を研究しています。
 有機ELは「有機エレクトロ・ルミネッセンス」(Organic Electro-Luminescence)の略で、石油から作られたプラスチックや合成繊維といった高分子化合物の素材に、電流を流して発光させることを指し、スマートフォンの次世代ディスプレイなどに使われている技術です。有機EL素子材料には様々な材料が試されていますが、その研究は、繊維や高分子に強い山形大学工学部によって進められてきました。
 特に、1993年、世界で初めて白色有機ELを光らせる発明をした城戸淳二教授の研究は有名で、その成果は学術誌「サイエンス」に掲載されました。
 山形大学には、研究を支える有機エレクトロニクス研究センターなどの設備も十分に整っています。同センターでは、有機ELだけではなく、その技術を応用した有機太陽電池や有機集積回路の研究も行われています。また、様々な産学官連携プロジェクトも推進し、まさに世界レベルの研究を行っています。

伝統の繊維学を様々な分野に応用:信州大学
 教育リソースランキングで59位にランクインした信州大学は、日本で唯一の繊維学部を設置しています。その歴史は古く、1910年に蚕糸に関する最初の高等教育機関として上田蚕糸専門学校が設立されてから、100年が経ちました。
 信州大学繊維学部における繊維やファイバー系の論文執筆数は世界トップクラスで、先端繊維国際会議という、世界から有識者が集まる会議も定期的に開催し、世界的にもその研究が認知されています。また、マンチェスター大学やノースカロライナ大学などとの連携により、国際的な研究も進んでいます。
 さらに、企業連携によって、分野の垣根を超えた横断的な製品開発事業も行っています。医学分野との共同開発からは、ウイルスだけではなく、さらに細かいPM2.5などの粒子も99%カットする「アレルキャッチャーシート」や、ヒトの毛髪から成分を抽出して加工し、ヘアケア商品の開発実験等での利用に期待が高まる「ヒト毛髪由来ケラチンシート」などが商品化されました。
 2018年度からは、大学院の「医学系研究科」と「総合工学系研究科」を統合再編し、新しく「総合医理工学研究科」を設置。学問体系の本質に対応する「医学系専攻」と「総合理工学専攻」、理学・工学・農学・繊維学と医学の連携による「生命医工学専攻」の3専攻に再編します。これによって、繊維学を様々な分野に応用するアプローチも進む見通しです。これからの社会の課題に対応する人材、また、医学・保健・福祉や科学・技術の発展に貢献できる高度専門職業人・研究者の育成をめざします。

特産物のワインを支える微生物・発酵研究:山梨大学
 山梨大学は教育リソースランキングで31位にランクインしています。山梨大学では、ノーベル賞受賞者の大村智氏が研究拠点にしていたように、微生物研究が盛んです。
 山梨大学生命環境学部は、1947年に大学の前身である山梨工業専門学校応用化学科からスタートしました。当時から発酵研究が盛んで、その背景には、山梨県の特産品であるワインの研究をすることによって、日本経済に役立てようという政府の意向がありました。その研究は山梨大学工学部に引き継がれ、1950年には、付属醗酵化学研究施設が設置されました。
 山梨大学では、現在に至るまで、発酵や微生物の研究および、地元の特産品であるワインの研究が行われています。2014年から、地元企業と連携して、ワインの長期熟成に最適な保管・保存環境を追求すべく、ワインセラーの研究を進めています。ワイン熟成に有用な温度帯を検証するため、成分分析だけでなく、ソムリエによる味覚・嗅覚・視覚の官能検査を記録する珍しい試みです。
 山梨大学のワイン研究は教育にも反映されています。生命環境学部地域食物科学科には、ワイン科学特別コースが設置され、学生は4年生になると、ワイン科学研究センターでブドウやワインに関する研究を行います。大学院の食物・ワイン科学コースでは、ブドウの栽培から食品加工や発酵性微生物までの研究を行います。卒業生はワイン醸造業や食品系製造業などに就職し、ワイン産業で広く活躍しています。

 このように、地方の国公立大学では、世界に通用する研究を行うことも可能です。THE世界大学ランキング 日本版では、エリア別のランキングも見ることができます。ランキングで気になる大学があれば、地元の特産品や歴史にゆかりのある研究を行っているか調べてみると、大学の新たな魅力を発見できるかもしれません。