私立理工系唯一の「スーパーグローバル大学」採択大学
芝浦工業大学は、特に「教育成果」「教育充実度」の分野で高いスコアを獲得した。高校教員および企業人事の評判調査によるこの2分野でのランクインのベースには、98.3%(2016年度)という高い就職率がある。特筆すべきはその就職先で、一部上場企業などの名門が並ぶ。単に就職率が良いというのではなく、優秀な人材を輩出していることがわかる。
さらに注目すべきは、その成果を限られたリソースの中で実現していることである。一般的に、教育リソースでは私立大学は国公立大学よりも不利な状況にあるが、芝浦工業大学は教職学(教員、職員、学生)の協働によって教育の質向上に取り組んできた。そのことは、私立理工系で唯一、文部科学省の「スーパーグローバル大学等創成支援事業(SGU事業)」に選ばれていることでも証明される。
村上雅人学長は、「私立だからこそ、大胆な改革ができる。そこに活路を見いだしてきました」と力を込める。事実、これまでの数々の取り組みは、既成の枠組みを超える独自のものばかりだ。
グローバルに実学を展開する「PBL」と「ERC」
改革の代表的なものの一つが、「グローバルPBL(Project-Based Learning)」だ。海外の学生たちと10〜20人ほどのプロジェクトチームをつくり、約2週間かけて、指定された課題の解決に取り組む。学生たちは最後にプレゼンテーションを行う。
課題に取り組む間のコミュニケーションの基本は英語だ。しかし、全学生が英語を得意としているわけではない。そこで、学生たちは、さまざまなコミュニケーションの取り方を体得する。理系らしく元素記号を使ったり、デザイン系ではイラストや図形を駆使したり……。もちろんボディランゲージも重要な伝達手段となる。
そうして外国人と意思の疎通が図れることを体感した学生たちは、大きな成長を見せる。自信を得た彼らは一様に「もっと英語を勉強したい」と張り切り、長期留学に踏み切る者もいる。
また、PBLで生まれる友情も大きな財産になる。同じ課題に真剣に向き合った若者たちは、わずか2週間で深く結ばれる。最初にPBLでタイを訪ねた学生たちは、帰国後にインターネット電話サービスを利用して、タイの学生たちと交流を続けていたという。時には、両国で開始時刻を合わせ、インターネット電話サービスを利用して“飲み会”を開くこともあった。自身もアメリカ留学の経験がある村上学長は「外国に友達がいると視野が大きく広がる」と学問だけではないPBLの効果を口にする。
そうした実例が増えるにつれ、PBLによる成長への手応えは参加した学生を通して学内にも浸透し、現在では実に8人に1人がグローバルPBLに参加するという活況を見せている(2017年度)。
PBLが学びのための海外校との連携とするなら、企業との連携の取り組みもある。教員の半数以上が企業出身者という芝浦工業大学ならではの産学協働研究拠点「芝浦型ERC(Engineering Research Center)」だ。
ERCでは、企業が現実的に直面している課題に対し、学生も参加して企業・教員とともに解決の道を探っていく。実際に成果を得たプロジェクトも多く、これまで開発したものに、「開けやすい平行四辺形のガラス瓶」「段差・脱輪に強い6輪の車いす」「上屋が膜素材でできたスキー場リフトのターミナル」などがある。中でも、複数の企業・大学・研究所などと連携して数年がかりで開発した深海用無人探査機「江戸っ子1号」は、深海8000メートルまで探査する実績を残した。このプロジェクトは内閣府の「産学官連携功労者表彰(内閣総理大臣賞)」をはじめ多くの賞を受賞し、大きな注目を集めた。
また、学生発案で実際に商品化されたものも複数あり、例えば環境システム学科出身の学生が企画・デザインしたドアノッカー「キツツキ」は、キツツキの声に近い音の響きや愛らしいデザインで注目され、雑誌の企画でも高評価を得た。
こうした市場と直結した学びは、学生にとって何よりも刺激になる。研究室に配属されるまでは目立たなかった学生が、企業との共同研究を経験して急に頭角を現すケースは珍しくない。
芝浦工業大学では、効果が顕著なグローバルPBLやERCをさらに発展させようと、2015年に「GTIコンソーシアム」(Global Technology Initiative Consortium)という、大学や企業・政府機関の連携プラットフォームを発足させ、村上学長自らその代表に就いた。2018年2月現在、参加する機関は194に上る。
100周年に向けてさらなる大学改革を計画
さまざまな教育の取り組みの根底には、建学の精神である「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」に基づく「実践学修」の重視がある。その土台の上で芝浦工業大学は今、2027年の創立100周年に向けて大学改革を行っている。大学名(SIT: Shibaura Institute of Technology)を冠した行動計画である「Centennial SIT Action」では、「アジア工科系大学のトップ10入り」「理工学教育日本一」などを目標に掲げ、キャンパス内の留学生の比率を30%に上げることなどを目標とする。
「これからの理工系大学では、『実践教育』と『グローバル』が重要です」と村上学長が力説するとおり、国内だけでなく、海外の学生からも選ばれる大学を目指している。