統計処理リテラシーを 全学規模で教養科目化

松江市にメインキャンパスを置く島根大学。学部生約5300 名、大学院生約650 名という中規模大学の落ち着いた環境で、国立総合大学ならではの、広く充実した学問領域を学ぶことができる。

日本版ランキングでは、教育リソースと教育成果で高いランクを獲得した。その実績を次の時代につなぐべく、さまざまな改革が進んでいる。まず、2018 年度から「数理・データサイエンス教育」の充実に向けたステップとして、文系・理系を問わず全ての学生に、1 年次の教養課程で、最低限の統計処理のリテラシーを身に付けさせる取り組みが始まった。

根底には、第4 次産業革命(Society5.0)に対応できる学生を育てるという明確な意思がある。IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット技術などが牽引する社会では、どのような仕事に就いても、膨大なビッグデータから迅速的確に必要な情報を抽出し、分析する力が不可欠だ。全ての学生が、数理・データサイエンスの基礎的素養を身に付けられるよう、また、希望すれば当該分野の専門家も目指せるよう、今後、段階的にプログラムを拡充させていくという。

地域志向とグローバルな視野をもつ理工系人材の育成を目指す。
地域志向とグローバルな視野をもつ理工系人材の育成を目指す。

柔軟で自由な学びに向け学部学科の再編が進む

2017 年には6 番目の学部として「人間科学部」が誕生した。地域コミュニティを心身両面で支える人材を育てることを目的としている。少子高齢化、人口減少、過疎化と地域創生、クオリティーオブライフなど、社会が直面するテーマを扱うだけに、学生の関心は高い。

心理学、福祉社会、身体活動・健康科学の3 コースに分かれるが、コース間や他学部との連携も活発で、科目選択は柔軟。福祉施設や医療機関などでの実習など、「地域実践」に関する科目も充実している。また、「人間科学部」の心理学コースでは、「個」と関わる中で人間心理を探る「臨床心理学」と、より科学的なアプローチの「実験心理学」を併せて学ぶことが可能だ。

「総合理工学部」と「生物資源科学部」では、2018 年度、学科の再編を行い、国際化推進の一環として、総合理工学部に日本語が得意ではない留学生も入学可能なコースを新設した。1 年目は英語で授業を行い、徐々に日本語の授業に移行する。在学中に日本語を修得することで、地元等国内の企業への就職を促す取り組みである。

この「総合理工学部」と「生物資源科学部」では、大学院でも改組が行われ、2 つの研究科が「自然科学研究科」として一本化された。理工学専攻、環境システム科学専攻、農生命科学専攻の3専攻の設置により、領域横断型の研究に挑戦しやすい環境が整い、地元社会からの要請が大きい優れた理工系人材が育ちやすい組織となった。

新設された「人間科学部」では、コース横断的に幅広く学べる。
新設された「人間科学部」では、コース横断的に幅広く学べる。

教育も研究も人材育成も常に社会と共にある

研究分野では、「エスチュアリー研究センター」の存在が特徴的だ。「エスチュアリー」とは、海水と淡水が混合する河口部の汽水域と、沿岸湖沼や周辺低地、沿岸海域を含む水域・地域のこと。
島根県には日本最大級の広さの汽水域をもつ宍道湖・中海があり、前身の「汽水域研究センター」が、この分野国内唯一の研究機関として、1992 年4月に設立された。

2017 年、「エスチュアリー研究センター」と改称し、汽水・沿岸環境と生態系の、より広範な研究を行なうようになった。発表される研究論文も毎年着実に倍増し、世界トップクラスの研究機関への道を歩んでいる。

こうした地域密着型の教育・研究体制は、まさに島根大学の真骨頂だ。「地域に根ざし、地域社会から世界に発信する個性輝く大学を目指す」と謳う島根大学憲章。その精神は、地域連携に対する姿勢にも生きている。市町村との包括連携協定では、理事、副学長、学部長が自ら担当者となり、各市町村に足を運ぶ。個別多様な課題を話し合うだけでなく、「何かあれば島根大学に相談してみよう」と思ってもらえる存在でありたいと考えているからだ。

「本学は、これからも地域と密接に関わって、地域の発展に積極的な役割を担っていく。地道な実践の積み重ねの中から、日本や世界に貢献する若い人材、新しい技術、新しいビジネスを島根発で送り出していきたい」という服部泰直学長の力強い言葉が、地域資源としての大学の今後を期待させる。

汽水域研究の中枢「エスチュアリー研究センター」
汽水域研究の中枢「エスチュアリー研究センター」
学長
服部 泰直
服部 泰直
はっとり やすなお
1956年生まれ。 1978年筑波大学第一学群自然学類卒業。1980年大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。1993年4月島根大学理学部助教授に就任。理学部教授、総合理工学部教授、総合理工学部長、大学院総合理工学研究科教授、総合理工学研究科長を経て、2015年4月国立大学法人島根大学学長に就任。専門分野は位相数学。