新しい時代にふさわしい女性の高等教育を問う

武蔵野の地にキャンパスを構える東京女子大学。日本版ランキングの分野別では、教育充実度80位、教育成果91位、国際性96位タイにランクインした。総合ランキングでも98位と、バランスのよい教育環境がうかがえる。

東京女子大学は、北米のプロテスタント諸教派による援助を受けて1918年に開設された。キリスト教の精神を礎に置く教育であり、当時の日本では当たり前だった「女性は良妻賢母たれ」とする専修学校とは目的を異にした。当初から一人の人間として自立した女性を育てる、リベラル・アーツ教育を行う高等教育機関として発足したのだ。

そして、2018年の創立100周年を迎えるにあたり、新たに始まる“次の100年”を見据えて、「東京女子大学グランドビジョン」を定めた。その意図を、茂里一紘学長はこう話す。

「100年前とは女性の高等教育を取り巻く環境、リベラル・アーツ教育に対する見方、考え方が大きく変わりました。『女子教育、キリスト教精神、リベラル・アーツ教育』という建学の精神は堅持しつつ、これからの時代にふさわしい教育がどうあるべきかを考え、方針をまとめたものです」。

ビジョンに基づき、教育課程を4学科12専攻から5学科12専攻に再編した。

国連本部での研修など、体験・実践を通じ学びの動機につなげる。
国連本部での研修など、体験・実践を通じ学びの動機につなげる。

実践と関連づけて学ぶリベラル・アーツ教育

東京女子大学の学部は現代教養学部一つだが、学生は12専攻いずれかに所属してしっかりと専門分野の力を身につける。それと同時に、「全学共通カリキュラム」で全学生が専門の枠を越えて共に学ぶ。これにより、単に幅広い知識に触れる「教養」ではなく、本来の意味での「リベラル・アーツ教育」、枠にとらわれない自由な学びが実現する。

全学共通カリキュラムには大学で学ぶ上で必要な知的能力・リテラシーを身につけるものから、さまざまな分野の教養まで、バラエティ豊かな科目群が揃う。

さらに、特徴的な科目として「挑戦する知性科目」がある。ニューヨークの国連本部を訪れる研修、英国ケンブリッジ大学で行う教養講座、女性の起業に関する科目など体験的・実践的な学びを提供するものだ。茂里学長は、「学生が自ら課題を見つけられる場を提供し、実践のためにこそ学ぶ。そのようなリベラル・アーツ教育によって教養教育の新しい地平を切り拓き、世の中に提示していきたい」と意気込む。

国際共通語としての英語習得に注力。英語を学べる環境を備える。
国際共通語としての英語習得に注力。英語を学べる環境を備える。

国際的な視野で社会を捉え生涯活躍する女性を育成

教育課程再編のもう一つ特筆すべき点として、国際英語学科の新設が挙げられる。国際的な場における活躍を目指し、国際共通語としての英語を専門的に学ぶ。2年次後半に半年間の海外研修が必修となっており、卒業論文を英語で書く。海外体験を通して高めた英語力を、国際社会で通用する英語での発信力に生かしていくのだ。

その他の学科で英語力を高めたい学生には、キャリア・イングリッシュ課程が設置されている。1年次の成績・審査によって選抜された学生60人が2〜4年次にわたってプレゼンテーション、討論演習などの実践的な科目を履修。卒業時には修了証が交付される。

さらに、学内にはキャリア・イングリッシュ・アイランドと呼ばれる英語学習の拠点が設けられている。そこでは、学生は誰でも空き時間を使って自由に英会話のトレーニングができるほか、豊富な貸出教材を利用して自習に励むことも可能だ。茂里学長は、今後の留学生受け入れにも強い意欲を見せ、「ゆくゆくはキャリア・イングリッシュ・アイランドを、留学生と日本人学生が英語で自由にコミュニケーションをする場にしたい」と話す。

東京女子大学は、一人ひとりの学生に教育を提供する期間を、在学する4年間のみとは考えていない。2013年に設立された「エンパワーメント・センター」を中心に、卒業生と在校生の「対話会」や学び直しのプログラムを企画・実施したり、卒業生にキャリア・カウンセリングを行ったりして、生涯にわたる学びの機会の提供とキャリア構築支援にも力を入れている。

東京女子大学は、女性の高等教育をアジアへ広げる拠点として創立された。100年が経った今、日本の女性の高等教育を取り巻く環境は、ずいぶん改善されたと言える。しかし、アジアには、まだ女性の教育機会が確立されていない地域がある。茂里学長は、将来はそうした地域に、学生たちと共に目を向け、エネルギーを注いでいきたい、と意欲を見せている。

卒業後まで、「キャリアをカスタマイズする女性」を支援する。
卒業後まで、「キャリアをカスタマイズする女性」を支援する。
学長、工学博士
茂里 一紘
茂里 一紘
もり かずひろ
1967年東京大学工学部卒業。1969年同大学大学院工学研究科修士課程、1972年同博士課程修了(工学博士)。広島大学工学部長、副学長、広島工業大学学長などを経て、2012年より(学)東京女子大学理事・評議員、2018年より現職。専門分野は船舶海洋工学、流体工学、工学教育。