教育、研究を下支えする国際プログラム

 THE世界大学ランキングでは2016年から3度、アジア1位の座に着いているシンガポール国立大学(以下、NUS)。
 THE世界学術サミットの特別セッションでは、アジアのトップ大学ならではの特徴的な国際プログラムについて、紹介がありました。
 まず教育については、「NUS Overseas Colleges(NOC)」があります。これは国際競争力のある新規ビジネスに挑戦する若者を育てるプログラムです。事前審査を通過した学生は、NUSが展開する11か所の海外拠点(シリコンバレーやストックホルム、北京など)で1年間、昼間はベンチャー企業のインターンとして働き、夜は各拠点の提携大学で学びます。派遣先は主にIT系企業ですが、コンピュータ・サイエンスを先行する学生だけでなく、社会科学系の学生にも門戸を開いています。
 このプログラムを説明する際に「Constructive failure(建設的な失敗)」という言葉が頻繁に使われていました。学生はベンチャー企業で自分の能力を超える数々の難題に取り組みます。失敗も多い中で能動的に学び、起業家精神を養うといいます。2002年の開始以降、延べ2,400人が参加し、学生が立ち上げたスタートアップ企業数はすでに350近くにのぼります。
 また、研究については、シンガポール国立研究財団が出資している国際共同研究プログラム「CREATE」があります。NUSのキャンパス内に専用研究施設が置かれ、1,000人以上の研究者が在籍しています。海外9大学と連携し、研究のための国際パートナーシップが構築されています。社会課題への対処を研究テーマとしているため、その解決策を国や学問領域を越えたチームで研究していこうとする取り組みです。海外の研究者から見れば、潤沢な研究資金が魅力であり、NUSにとっては海外の優秀な研究者と共に研究できるというWin-Winの関係が築かれています。

世界中にファンを増やすブランディング戦略

 NUSはブランドコミュニケーションにも熱心に取り組んでいます。例えば、海外、国内を問わず学校単位のグループツアーを受け付けているほか、海外の一般見学者でも、事前に申し込めば学生アンバサダーが案内してくれます。さらに大学の公式サイトでは学内のレストランガイドや、バスの時刻を調べられるアプリなどが提供されています。ソーシャルメディア担当者はSNSで自学の話題が上がると、すぐにコメントを返すそうです。実際にサミット期間中、学長をはじめ、教職員、学生スタッフは皆、ホスピタリティにあふれており、自学のファンをつくろうという姿勢が徹底されていると感じました。その結果として、国内外から優秀な研究者、学生を獲得できているのでしょう。
 ブランドコミュニケーションは学内向けにも徹底しています。キャンパスの至るところに大学のミッション、ビジョン、バリューを掲示し、大学が目指す方向性を学内の構成員全てと共有する努力を怠りません。こうした施策は日本の大学も参考となる点が多いのではないでしょうか。

シンガポール国立大学について

学生数/30727人
学部および大学院プログラムは、次の学部・スクールで提供/文学・語学・社会科学、経営学、情報工学、継続・生涯教育、歯学、デザイン&環境学、工学、総合科学・工学、法学、医学、音楽学、公衆衛生、公共政策、理・科学、ユニバーシティ・スカラーズ・プログラム(USP)、イェール-NUSカレッジ、デューク-NUSメディカル・スクール

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