Society 5.0を見据えた情報系教育の新拠点を設立

日本版ランキング「教育リソース」分野での躍進が目覚ましい群馬大学。医学部附属病院の「重粒子線医学センター」は名実ともに、がん先進医療の一角を担い、「食健康科学教育研究センター」では、食と健康をめぐる幅広い研究が進む。

また、全国で20大学が選定されている「数理及びデータサイエンスに係る教育強化」協力校の一つでもある。

仮想空間と現実空間を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立させようというSociety 5.0社会。情報科学はまさに国際競争力の鍵を握る。

理工学部では、最先端の情報技術を習得した人材を育成し、産業界に送り出すことが急務となっている。医学の領域でも、AI技術を用いて画像を解析するなど、医学統計のニーズが日に日に高まる。あらゆる分野で、革新的技術を扱うエキスパートが、大量に求められているのが現状だ。

この喫緊の課題に対応するため、群馬大学では、情報数理やデータ科学の教育研究拠点として、「数理データ科学教育研究センター」を設立。2020年からは全入学生が1年次にデータサイエンス関連科目を履修し、プログラミング等の基礎を学ぶカリキュラムを整備していく予定で、2021年度を目処に文理横断の新たな情報系学部の設置も検討中である。

また、2020年度には全国で初の宇都宮大学との共同教育学部を設置予定だ。両大学の強みを生かしたカリキュラム・授業構成が可能となり、質の高い教員養成が実現できるだけでなく、情報化社会やグローバル化への対応などで相乗効果が期待される。中学校全教科の教員養成に加え、特別支援学校教諭免許では5つの領域全てをカバーする。

最先端の情報技術の基礎を必修し、さらに知識を深めていく。
最先端の情報技術の基礎を必修し、さらに知識を深めていく。

地域ごとの課題に対応した自動運転システムを開発

産官学連携で研究を推進する「次世代モビリティ社会実装研究センター」では、自動運転システムの研究開発が進行中だ。関連分野が広く、学部横断の全学規模で各種リサーチを行っている点も興味深い。過疎化・高齢化が進む地域、バスやタクシーの運転手不足が深刻な地域、交通渋滞が発生しやすい地域など、地域ごとの事情や課題に対応するために、地域限定型で進めており、2020年の実用化を目指している。2018年12月から2019年3月にかけては、前橋市で全国で初めて有料化での自動運転路線バス実証実験を実施。桐生市でも自動運転バスのモニター試乗を行うなど、プロジェクトは着々と前進している。

【自動運転バス】夢のある身近な取り組みは若い世代の関心を引く
【自動運転バス】夢のある身近な取り組みは若い世代の関心を引く

GFLプログラムが育む若きグローバル・リーダー

「これらの先端技術は、物質的な充足にとどまらず、人間の苦しみを減らし、幸せの増進に役立ちます。社会全体の持続可能な開発目標(SDGs)に資する学問の追究こそ、群馬大学が目指す教育です」と平塚浩士学長は語る。

その理念の実現を後押しするのが、グローバルフロンティアリーダー(GFL)育成プログラムだ。希望者から選抜した40名前後の学生に、集中的にリーダー教育を行うもので、教育学部と社会情報学部対象の「教育・社情GFLコース」と医学部・理工学部対象の「医理工GFLコース」がある。

選抜されたGFL生は、各学部独自のGFLコースに加え、専用のGFL共通プログラムを通して、英語力、ネットワーキング、企画力などのスキルを磨く。特別セミナーの受講や、海外留学の支援制度も多数設けられており、意欲的かつ優秀な学生には、後期授業料の免除といった制度も整っている。

自主活動の企画実行が奨励されるのもプログラムの特色だ。1か月にわたり日米学生会議で活躍したり、群馬発の次世代起業家の発掘を目的とした「群馬イノベーションアワード」で高評価を得たりと、多くのGFL生が、思い思いの分野で力を発揮している。

2019年の秋には、米・マサチューセッツ工科大学で開催される世界最大規模の合成生物学大会iGEMに、GFL生を中心に群馬大学チームを組んで参加する。「機能をもつ大腸菌作品」を製作するコンペティションへの挑戦に、期待が集まっている。学部の早期卒業や大学院への飛び入学をする成績優秀者も出ており、理工学部では、2年次で研究室に仮配属され、3年次から研究活動に携わることも可能だ。

GFL生をはじめ、豊かな個性と秀でた能力で、生き生きとSDGsの実現にまい進する群大生たち。グローバル時代を牽引する活躍に注目したい。

GFL生たちの成果発表は、多くの学生によい刺激を与えている。
GFL生たちの成果発表は、多くの学生によい刺激を与えている。
学長、理学博士
平塚 浩士
平塚 浩士
ひらつか・ひろし
1967年群馬大学工学部卒業後、東京工業大学大学院に進学。1972年博士課程修了、同年同大学理学部助手に。1992年より群馬大学工学部教授、95年からは応用化学科長を務める。大学院工学研究科教授、理事(企画・教学担当)・副学長、理事(研究・企画担当)・副学長を歴任し、2015年より現職。理学博士。