「連携」をキーワードに地域の中核拠点を目指す
岐阜大学は2004年の法人化以来、6年を一つの期間として改革を進めてきた。2016年からの第3期では「地域活性化の中核拠点であると同時に、強み・特色を有する分野において全国的・国際的な教育・研究拠点を形成する」ことを目指している。
変革を遂げながらも常に意識し続けてきたのが、地域との連携だ。ものづくりが盛んな東海地方にあって、卒業生の約3割が岐阜県内、約5割が愛知県内で就職する。そのような就職構造も踏まえ、産学連携の重要性はいち早く認識してきた。文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」の中間評価でも最高のS評価を獲得。地域コミュニティにおける中核的存在としての機能強化を図るとともに、自治体や企業と協働しながら人材育成と雇用創出を促進している。
地域を大切にする姿勢は、国際化の分野でも変わらない。2019年4月に発足したグローカル推進機構は「地域に根ざした国際化と成果の地域還元」をその使命としている。
岐阜大学が主な連携先としているのは、南アジアやASEAN諸国の大学とその地域。「大規模大学のように世界中を対象とした国際連携をするのは難しい。ターゲットを絞り、深掘りした国際連携を行うことが、中規模大学である本学の存在意義であると考えています」と、森脇久隆学長は明言する。
信頼関係を基に実現したジョイント・ディグリー
国際化戦略の中で大きな注目を集めているのがジョイント・ディグリー(JD)プログラムだ。海外の大学と連携した教育プログラムを開設し、修了時には共同で単一の学位を授与する制度で、岐阜大学は2019年4月にインド工科大学グワハティ校(IITG)との修士課程1専攻および博士課程2専攻、マレーシア国民大学(UKM)との博士課程1専攻を同時に設置した。同月現在、日本では10大学19専攻1学科でJDが設置されているが、4専攻を岐阜大学が占め、大きな存在感を示している。
JDの立ち上げには国際レベルでの成績管理などいくつものハードルや他国の大学との緊密な連携が必要とあって、相応の時間と労力を要する。岐阜大学では、従来から共同研究などを通じた学術交流に加えて、学生の短期での相互受け入れなども実施し、大学間の理解を深めてきた。カリキュラムの詳細を決めるに当たっても、教職員が幾度となく顔を合わせて地道な交渉を重ねたという。互いの信頼関係があってこそ実現したプロジェクトだ。
JDの定員は3校を合わせて16名という狭き門。これに対し、指導に関わる教員の数は100名を超える。参加学生を全力でサポートしたいという大学側の熱意が表れている。
「各国から集まった優秀な学生たちがJDを通じて互いに刺激し合い、相乗効果でさらなる成長を遂げてくれたらうれしい。そして、プログラムを通じて深めた知見を地域や国際社会に還元してほしい」と、森脇学長は期待を寄せる。
現地のラボを体験できる独自の英語研修プログラム
JDのほかにも、海外の大学と連携したさまざまな海外研修プログラムが設置されている。中でも特徴的なのが、カナダのアルバータ大学と共同で開発した種々のプログラムだ。短期留学型の実践科学英語研修・研究室体験(EST)プログラムでは、理系に特化した専門英語を学べるだけでなく、専門分野に近いラボでの実験やミーティングなどに参加できる。ESTプログラムへの参加を機に海外での学位取得に興味を持ち、JDへの参加を目指す学生も出てくるに違いない。そのほか、語学研修と異文化理解を目的とした英語研修(ESL)プログラムや事務職員向けの現地研修も実施し、次年度には英語での教授法を指導する教員向けプログラムも計画中だ。きめ細やかなケアも岐阜大学の特徴の一つで、EST、ESLには渡航前にアルバータ大学出身のカナダ人教員による事前研修が含まれる。
岐阜大学が目指すのは「実質的な国際化」。学生に海外で学ぶことを奨励し、多くの留学生を迎え入れるのであれば、教員や事務職員も相応の英語力を身に付けなければいけない、というわけだ。「岐阜大学は今、さまざまな面で活気にあふれた環境です。大学が本来持っている教育力、研究力をより研ぎ澄ませ、地域活性化に深く寄与していきたいと考えています」と、森脇学長は語る。10年後、20年後の未来を見据えた岐阜大学の挑戦は続く。