最先端の学問を社会や産業とタイアップ

工学院大学は1887年、日本で最初の工科系大学として創立した、歴史ある大学だ。建学の精神である「社会・産業と最先端の学問を幅広くつなぐ『工』の精神」を胸に、科学技術の分野でたゆまぬ発展を続けてきた。現在は国連のSDGs(持続可能な開発目標)、政府が掲げるビジョン「Society 5.0」への貢献を明確に志向し、建学の精神をさまざまな取り組みに生かしている。

その一つが、日本全国の大学等が集まり、研究シーズを発表する「イノベーション・ジャパン~大学見本市&ビジネスマッチング~」への出展だ。2019年は1000件以上の応募の中から403件のテーマが採択され、うち27件が工学院大学によるものだった。全国の大学の中でトップの数字だ。「学生たちは、企業の第一線の研究者たちに自分たちの研究内容を直接説明し、議論を深めます。最初は消極的だった学生も次第に自信にあふれた顔つきになります」と佐藤光史学長は話す。開催後は企業から共同研究の依頼を受け、研究を発展させていくスタート地点となる。

最近の取り組みに、2016年に始まった「ISDC(Industry-Student Direct Collaboration)プログラム」がある。提携企業が抱える研究課題に対し、学生はチームを組んで解決につながる研究提案をする。大学と企業がその提案を評価し、採用されると学生チームは企業とパートナーを組み一緒に研究を行う。そしてその内容を卒業・修士論文の形に作り上げていく。企業側も、学生ならではの柔軟なセンスや新たな視点を取り込むべく、本気で期待する部分が大きい。

ISDCプログラムでは、学生チームが企業と共に研究課題に取り組む。
ISDCプログラムでは、学生チームが企業と共に研究課題に取り組む。

個性を伸ばすことにより開花する創造性

実際の社会課題・ニーズに対峙した学生たちは、創造性において社会から高く評価される。「本当にいい仕事、新しいものは、個性を持つ人たちが集まってこそ出来上がる。『創造性』は、学生たちの持つ個性を伸ばした結果だ」と佐藤学長は話す。

学生たちが自ら個性に気づき、主体的に意欲を発揮できるようにするサポートも充実している。例えば、先進工学部応用物理学科の必修科目である「応用物理セミナー」では全ての研究室が持ち回りで講義を担当し、学生たちが自分の興味ある領域の研究や、自分と相性がよさそうな研究室を選べるようにしている。

地域との連携も盛んだ。キャンパスのある東京都新宿区、八王子市と包括連携を結び、相互の協力のもと、さまざまな取り組みを行っている。新宿では、昔からある商店街に新しい魅力を付加して再構築するなど、まちづくりの領域で学生たちが貢献している。

また八王子キャンパスでは、毎年、夏休みの時期に「科学教室」を開催。7,500人以上が来場する恒例の科学イベントとなっている。さまざまな製作・実験を通して、地域の小・中学生、高校生に科学の面白さや有用性を伝え、「科学好き」の子どもたちを育む狙いだ。学生にとっても、企画力やコミュニケーション力、プレゼンテーション力を高め、自信をつける機会となっている。

26年続いている「科学教室」では、将来の理系人材を育てている。
26年続いている「科学教室」では、将来の理系人材を育てている。

多様性が広がる社会で生き抜く力を持った人材を

工学院大学では創立150周年を迎える2037年に向けて、「VISION150」を定めた。その中で、建学の精神のさらなる発信とグローバル展開を強調。海外の大学・研究室との交流、留学の推進、海外からの留学生受け入れなどに力を入れる。

しかし、こうしたグローバル化の取り組みもさまざまな個性を集める目的で行うもので、ダイバーシティをつくることこそが重要と佐藤学長は説く。

2013年から始まった「ハイブリッド留学®」は学生に人気の留学プログラムだ。留学先ではホームステイでの生活を通じて英語力を高める一方、専門科目の授業は工学院大学から教員が赴いて「日本語で」授業を行うため、安心して単位修得できる。さらに、本格的な留学をしたい大学院生向けに、2020年から「ディプロマット留学」を試行的に始める予定だ。

今年4月には「共生工学(ジェロンテクノロジー)研究センター」を新設し、世界に先立って少子高齢化という社会課題に直面する日本で、世代や国境を越えた多様な人々が共に暮らせる社会の実現を、科学技術を使ってサポートする取り組みを始めた。

工学院大学は、理念として掲げる「無限の可能性が開花する学園」として今後もあり続けるために、多様な個性が集い、つながり、協働する教育・研究環境のさらなる充実に邁進する。

海外から学生を日本の研究室に招き、交流の機会を増やしている。
海外から学生を日本の研究室に招き、交流の機会を増やしている。
学長、工学博士
佐藤 光史
佐藤 光史
さとう・みつのぶ
1977年東京理科大理学部卒。1982年東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程単位取得満期退学。工学博士。国立科学博物館工学研究部(文部技官)などを経て工学院大学助教授に。2002年同教授。2015年より現職。