世界中から「知」が集う国際的キャンパス
「躍進百大」─九州大学は創立100年の節目である2011年に、基本理念を改定した。「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」という思いをこのスローガンに込め、全ての分野で、世界トップレベルの研究・教育を実施する。
久保千春総長は、「九州はもとより、日本、そして海外で活躍する人材を育ててきました。開放的で、好奇心旺盛で、人を大切に育てる文化的基盤が九州にはあります」と話す。
九州大学はスーパーグローバル大学創成支援(SGU)のタイプA(トップ型)に採択されており、その事業を「戦略的改革で未来へ進化するトップグローバル研究・教育拠点創成(SHARE-Q)」と名付けた。日本一の広さを誇る伊都の新キャンパスを、世界中から「知」が集うトップグローバル・ハブとすべく、研究・教育システムの国際化を推進する。
国際化の中心となるのは「人」の交流だ。外国人教員等数は2019年時点で1061人、海外からの留学生数は短期・長期含め2018年通年で3400人を超す。また、日本人学生の海外派遣人数も2018年には2000人を超えた。人の交流を通して教員・学生両方のマインドを国際化し、海外の学生・研究者との共同研究の機会も増やしていく狙いだ。「最近自分の考えを主張できる人が増えてきたことに気づきます。これも国際的なマインドが醸成されている成果の一つでしょう」とSGU事業担当の緒方一夫副学長は話す。
留学が必須! 文理の枠を超えて学ぶ共創学部
SHARE-Qの取り組みの一環として、新学部創設がある。2018年4月、従来の理系7学部・文系4学部に加わる形で「共創学部」が設置された。一般の学部が一つの専門を深掘りして学ぶのに対し、共創学部は課題に応じて必要な専門を文理の枠を超えて学ぶ。
世界では、環境や食糧、貧困、紛争などさまざまな問題が生まれている。そこに文系・理系の区別はなく、また一つの専門知識では対処できない。新学部では、多様な専門分野の「知」をまとめ上げ、そうした社会課題の解決策をデザインする力を育成する。
共創学部担当の岡本正宏総長特別顧問は「実社会の課題解決への貢献を大学の躍進につなげたい」と語る。
共創学部の学生で関東出身の菅原茉穂さんは、「気候変動を研究したかったので、グローバル・理系・文系の分野を広く深く学べる学部を探し、共創学部を見つけました」と話す。
学部の10%が海外留学生で、8割の授業は英語で行う。留学が必須なのも特長だ。提携する海外の大学で、最低でも1学期間は学び、単位を修得することが求められる。その準備として、1年次の前半はIntensive Englishという科目で集中的に英語を学ぶ。同じく共創学部の伊藤亜珠希さんは「英語で国際問題に関する講義を受け、その内容について英語でディスカッションしたり、プレゼンテーションしたりします。自分とは違う見方を知ることはとても楽しい」と話す。
学生で社長 世界が注目する「起業部」
課外活動ながら、九州大学の「知」を社会につなぐ取り組みとして「起業部」が注目されている。「ベンチャー起業論」を専門とする熊野正樹准教授の指導のもと、起業やビジネスにまつわる知識を学んだ上で、ビジネスコンテストへの応募、資金調達など、起業に向けた実践的な活動を行う。10年で50社の企業を生み、うち5社を上場させることが目標だ。創部2年半で、全国のビジネスコンテストで6回優勝。すでに15社のスタートアップ企業が設立されている。
そのうちの1社で、シリコンバレーの大会でも優勝したメドメイン株式会社の代表取締役・飯塚統氏は、「自己資金や融資によらない起業の手法を起業部で学びました。上場への道筋・ノウハウなど、起業部で受けた指導は大きな助けになっています」と話す。熊野准教授は「各学部から技術、デザイン、経営管理などの専門を持つ学生が集まり、理想的なチームが組めるのが強みです。若い力を生かしながら、大学の優れた研究成果や技術を用いて世の中を良くしていきたい」と語る。
九州大学は教育・研究の国際化をさらに推進し、世界中から学生や研究者が集まる知の拠点となることを目指している。