【理工系×グローバル】のトップランナー

日本版ランキングの総合順位で毎年ランクアップを続けている芝浦工業大学。2020年版では、全国で35位、私立大学では8位につけた。特に「国際性」の指標で大きくスコアを伸ばしている。

早くから「世界で学び、世界に貢献できる理工学人材の育成」をミッションに掲げ、グローバル化推進の取り組みを開始。2014年には私立理工系大学として唯一、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)」に採択された。

2018年度のデータを10年前と比較すると、海外協定校は30校から185校へと拡大。留学生の受け入れ数で約15倍、海外への学生派遣数に至っては約35倍と、インバウンド・アウトバウンドの双方で大幅に留学生数を伸ばしている。キャンパスを歩いていても留学生がいるのが当たり前の風景となり、新入生の志望動機にも「理工系大学でありながらグローバルだから」という声が挙がるようになったと言う。

代表的な取り組みに「グローバルPBL(Project Based Learning)」がある。東南アジアや北米などのパートナー大学に赴き、約2週間、現地学生とチームを組んで指定された課題の解決に挑むというプログラムだ。年々、参加者は増加し、10程度でスタートしたプログラム数も、2020年度は90近くにまで増えている。

たとえ短期間でも学生がPBLで海外に行く意義は大きい。社会の変化に伴い、エンジニアにも多国籍チームで開発に取り組むことが当たり前に求められるようになってきた。そんな中で、学生のうちに、たとえ英語がつたなくても、共通言語である数学や物理、化学を用いて相互理解を補いながら、最終プレゼンテーションまで協働する経験は、大きな宝となる。

村上学長は、今求められている「グローバルエンジニア」について、「エンジニアが取り組む課題そのものは元来グローバルなものであり、エンジニアが活躍する領域に国境はありません。今育てるべきは、多様性のある環境の中で『対話』をしながら課題に挑めるエンジニアなのです」と説明する。

【グローバルPBL】1100名以上(2019年度)の学生が参加している。
【グローバルPBL】1100名以上(2019年度)の学生が参加している。

グローバル化の新しい形を実現するオンライン改革

しかし、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、グローバル化にも新しい形が求められるようになった。人的移動が難しくなりブレーキがかかると予測する人が多い中、村上学長はむしろ「真の意味でのグローバル化を実現する好機」ととらえている。鍵を握るのはオンライン改革だ。

世界中の大学でオンラインの活用が急速に進み、講義のほか、国際会議や国際共同研究もオンラインで行われるようになった。移動にかかる経済的、時間的負担がなくなり、途上国などの研究者や学生が研究発表を行うハードルが大きく下がった。

村上学長は、「安い労働力を求めた中途半端なグローバリズムが終幕し、能力がある人に平等にチャンスが与えられ、お互いを尊重し協働するというステージに入ろうとしています。大学としては、世界から優秀な研究者の招聘や留学生の獲得を行うチャンスと言えるのです」と意気込む。世界の大学の見本となるようなオンラインの仕組みを構築したい考えだ。

その一つとして検討しているのが、これまで使用が学内に限られていた実験研究装置のオンライン接続だ。貴重な機器の遠隔操作が可能になれば世界中の研究者が利用できるようになる。これが実現すると、研究結果はリアルタイムで共有され、国際共同研究のスピードと精度が大幅に向上することが期待できる。

「グローバルPBL」をはじめとした留学のあり方も変わる。事前の準備、ミーティングなどにオンラインを活用して頻度の高い交流を行い、滞在期間の短縮を図る。学生、教職員の負担も軽減され、留学の機会が多くの学生に広く開かれるだろう。

コロナ禍で来日できない研究員も集うオンラインゼミの様子。
コロナ禍で来日できない研究員も集うオンラインゼミの様子。

SDGsへの貢献意識を持つ理工系人材の育成

2020年10月には、工学部に英語による授業だけで学士の学位が取得できる「先進国際課程」を開設。主な対象者はインターナショナルスクールの卒業生だが、コロナ禍、日本国内にいながら英語で工学教育が受けられるため、注目が集まっている。最大の特徴は入学時から研究室に配属となる「オナーズプログラム」で先端研究に取り組むこと。全員が在学中に最低1回、国際会議で研究成果を発表することを目指す。ここには、建学以来重んじている「実践学修」の精神がある。

村上学長は、オンライン改革を進める一方で、対面だからこそ深まる研究室での学びを大切にしたいと考え、「『経験こそ最良の教師なり』という言葉がありますが、大学は体験の場であるべきだと思っています。グローバル、ダイバーシティーを体験することで、SDGsに貢献できる人材に育って欲しいと思います」と語る。2020年には、豊洲キャンパスに第二校舎(仮称)の開設を予定しているが、オープンラボを設けるなど、学長の唱える新たな大学像を体現するものになるようだ。

芝浦工業大学では、SDGsへの貢献をまさにエンジニアの使命ととらえている。2020年からは、シラバスにSDGsの項目を追加。全科目でその内容がSDGsの何番の目標に対応しているか、アイコンも含めて記載している。これにより、学生がSDGsを意識しやすくなったのはもちろん、教員もSDGsを意識して授業を組み立てるようになった。さらに、学生プロジェクト「SDGs学生委員会」でも、他大学や地方自治体との協働が盛んに行われている。

こうした取り組みにより、芝浦工業大学は着実に社会に貢献する技術者を生み出し、日本でのプレゼンスを高めていくはずだ。

2027年には創立100周年を迎える。この節目に向けて「アジア工科系大学トップ10入り」の目標を設定した大学改革プラン「Centennial SIT Action」の取り組み課題は、一つひとつ着実に達成に向かっている。だが、村上学長が見据えるのは、さらにその次の100年だ。コロナ禍の試練をチャンスととらえて率先垂範する学長の下、真の意味でのグローバル化時代に世界から見本とされる大学を目指して、芝浦工業大学は前進し続けている。

技術者や起業家として活躍できる人材の育成を目指す。
技術者や起業家として活躍できる人材の育成を目指す。
学長、工学博士
村上 雅人
村上 雅人
むらかみ・まさと
1955年岩手県生まれ。1984年東京大学工学系大学院博士課程修了。1995年より名古屋大学、岩手大学、東京商船大学の客員教授を歴任し、2003年に芝浦工業大学工学部教授に就任。大学院工学研究科長、副学長を経て2012年より現職。