人材育成における独自の指針「AEGG(エーエッグ)ポリシー」を策定
「創造から統合へー仙台からの発進」─これは東北工業大学が掲げるスローガンだ。「創造」とは製品や技術、価値などを「つくる」ことで、人材を育てる意味も込められている。そして、「統合」とは創造したものを世の中に「役立てる」こと。東北工業大学は教育・研究の重要な柱に「人類・社会への寄与」を据え、50年以上にわたり仙台から高度な技術者を送り出してきた。このスローガンを提唱したのは、「垂直磁気記録方式」を発明し、ハードディスクドライブの進歩と情報化社会の発展に貢献した名誉理事長の岩崎俊一氏だ。
「創造から統合」の実践者を目指して学生が身に付けるのが、6つのカテゴリーで明示された「学士力」だ。技術者のベースとなる「知識と理解力」「論理的思考と分析スキル」、集団の一員として取り組むための「協調性と適応力」、相互理解のための「コミュニケーションスキル」、社会における「課題発見とその解決能力」、世界で通用する「国際理解力と語学力」を向上させ、知識や技術だけでなく人間力を総合的に養う。
学士力を培うための具体的な方針として、入学(Admission)、教育(Education)、卒業(Graduation)の3つのポリシーに、指導(Guidance)ポリシーを加えた「AEGG(エーエッグ)ポリシー」を設けた。大きな特徴となっている指導ポリシーには「職業人としての意識の醸成」がうたわれており、ここにも一貫して社会を見据えた人材教育を目指す姿がうかがえる。
専門教育の中で意識する「社会」とのつながり
東北工業大学に産業界が寄せる期待は大きい。2019年3月卒業の学生の実就職率は97.6%。日本版ランキングでも卒業生の活躍の指標となる「教育成果」分野において、北海道・東北地区の私立大学で首位となった。また、日経HRが2018年に実施した調査「採用を増やしたい大学」では全国2位にランクインしている。
こうした結果を支えるのが、充実した教育環境だ。中でも「地域志向科目」は、学びの動機付けとして力を入れている。例えば「水道を専門分野に」と考える学生がいるとしよう。安全な水を供給するための「上下水道工学」は、3年次に組み込まれる専門科目だが、複雑な知識や技術を修得する前に「水をとりまく諸問題」をとらえておきたい。私たちにとって水がどれほど重要なのか。普段、利用する水道水の水源や排水後の処理はどうなっているのか。そうした身近な地域の事例に触れながら実情と課題を認識し、学問の社会的な位置付けを把握するのが「地域志向科目」だ。教鞭を執るのは、現場で活躍する卒業生や企業人など多彩な講師陣。彼らのリアルな話が学生を社会と結びつけ、触発している。
1年次から少人数での指導を受ける、セミナー系科目も特徴的だ。学生は入学後、数か月間は毎週、研究室に集まって、教員や先輩から大学での学習方法を教わり、基礎科目や実験・実習系科目などの復習や補習に取り組む。広いキャンパスの中にあって常に自分を見てくれる担当教員の存在は学生にとって心強い。一方、教員は近い距離で彼らの個性を引き出していく。
一人ひとりに向き合う教育は入学者の受け入れにも反映されている。高校時代までの活動記録を重視する総合型選抜「AOVA(アオバ)選抜(活動記録重視型)」は、東北工業大学独自のユニークな入学試験だ。学力偏重ではなく、学生個人の思いに耳を傾けるからこそ、同大学には将来の夢や目的意識のある学生が集まるという。
「多様な個性を持つ学生を未来へ導くために、教員は専門教育の中でも、常に彼らが社会へ出た後のキャリアを意識できるよう働きかけます。学生には4年間をかけて、学びを楽しんでほしい。本学なら、その中できっと将来につながる『熱中できること』が見つかるでしょう」。今野弘学長はそう話す。
3学部8学科制に再編し新たな一歩を踏み出す
2020年4月、工学部に属していた建築学科を一つの学部とし、「工学部」「建築学部」「ライフデザイン学部」の3学部8学科制に再編した。建築学は、ものをつくる工学だけでなく、暮らしにつながるデザイン、歴史なども幅広く含有し、工学部の枠にとどまらない深みのある学問だ。しかし、学部として独立するのは全国でも少なく、北海道・東北・北関東エリアでは東北工業大学が唯一の存在となる。さらに、深刻度を増す環境問題に対して応用化学を用いてアプローチする「環境応用化学科」を工学部に新設し、教育環境を拡充させている。
また、東日本大震災を乗り越え、復興に尽くした防災・減災の研究拠点としての役割も大きい。宮城県内の大学や自治体などで構成されるコンソーシアムを基盤に、2011年に同大学が主体となり立ち上げた「復興大学」事業では、災害に柔軟に対応できる人材育成と地域支援に当たっている。新型コロナウイルスの影響で期せずして全講義をオンライン化したが、大規模な自然災害が相次ぐ今、その叡智を求めて、全国から遠隔での受講希望者が相次いでいる。
東北・仙台から広く社会を見つめ、発展に貢献する。その使命を胸に、東北工業大学は進化を続けている。