「世界から人が集まる学びの場」を目指しグローバル化を加速

桜美林大学は、清水安三が宣教師として渡った中国で開設した崇貞学園をルーツとしている。清水氏は帰国後、東京都町田市で教育活動を再開。国や人種の垣根を越えて隣人に寄り添い、多様な価値観に対応できる人材を育てるために心血を注いだ。

自身も桜美林大学の卒業生であり、在学中には創立者との交流もあったと言う畑山浩昭学長は、この建学の精神を受け継ぎ、教育改革を進めてきた。特に、創立100周年を迎える2021年に向けて展開してきた国際化戦略では、多様性の強化を重視。大学を「世界から人が集まる学びの場」とすることを目指して、教育カリキュラムや教育環境のグローバル化を加速させた。

特に力を入れたのが、国際基準に合わせた汎用性の高い教育システムの導入だ。国内でいち早く、半年間の学期ごとに授業が完結し、単位の修得ができるセメスター制と授業科目に学習のレベルや順序等を表すコードを付番する科目ナンバリングを採用し、海外の大学との交換留学を容易にした。提携機関は34カ国・地域、190以上にまで拡大し、留学派遣数も増加。学生の往来が繰り返されたため、SNSを使った学生主導の交流も生まれるようになり、キャンパスを超えたグローバルコミュニティができた。海外渡航が難しくなったコロナ禍においても学生の相互交流の機会は減っていないと言う。

6学群のうちリベラルアーツ、ビジネスマネジメント、芸術文化の各学群専用に設けた1学期間の海外留学プログラム「グローバルアウトリーチプログラム」も留学比率の向上を後押しした。さらに、北米・ヨーロッパで語学学習中心に偏りがちになっていた留学の渡航先と活動内容を多様化。発展途上国で奉仕活動に携わるなど、さまざまな体験を積んだ学生が増えていくにつれ、キャンパスはさらに多様性を増し、目指す姿に近づいた。

【国際化戦略】建学の精神の下、留学や国際交流にも力を入れる。
【国際化戦略】建学の精神の下、留学や国際交流にも力を入れる。

社会課題の解決を目指すリベラルアーツの学び

改革は国際化の推進だけではない。

まずは、理系に偏らず人文科学系の研究成果も的確に評価できるよう、研究制度を多様化し、研究力の強化を図った。「with コロナ時代の教育では、科学技術の研究と同等かそれ以上に、怒りや葛藤、畏れといった人の感情を受容する文学等の研究も重視されるようになるでしょう。人文科学が果たす役割が大きくなるはずです」と畑山学長は展望する。

2019年には、学期あたりの授業時間を90分15週から100分14週に変更。授業に演習やディベート、プレゼンテーションが導入しやすくなり、指導と学びに多様性を持たせられただけでなく、学期の短縮化により、留学やインターンシップなど、授業期間外の活動の幅を拡充できた。

さらに2021年には、最大の学群、リベラルアーツ学群の改組を予定している。畑山学長はこの改組により「学群制」の導入以来、時間をかけて目指してきた本格的なリベラルアーツ教育がついに実現すると胸を張る。学生は入学時に「人文」「社会」「自然」の3領域からひとつを選択し、大学での学びの足場を築く。その後4領域30プログラムからメジャー(主専攻)とマイナー(副専攻)を自由に選んで組み合わせ、独自の学びをデザインする。プログラムには、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に見られるような現代社会の課題解決に取り組む「統合型」という新しいプログラム群を新設。「多分野にまたがる知」を駆使するリベラルアーツの力によって、グローバル社会で広く活躍する人材の育成を目指す。

【新生リベラルアーツ学群】「統合型プログラム」が新設される。
【新生リベラルアーツ学群】「統合型プログラム」が新設される。

多様性のある環境を生かし社会に貢献する人材を育てる

桜美林大学は、長きにわたって高大連携の取り組みも充実させてきた。2019年には高校生のためのキャリア支援プロジェクト「ディスカバ!」を開始。イベントや出張授業、自宅学習支援など、さまざまな形で進路学習のサポートを行っている。

こうした取り組みへの支持もあり、高校教員からの評価が年々向上し、それが日本版ランキングの「教育充実度」のランク上昇にもつながっている。

大学の社会貢献度に注目する「THEインパクトランキング」でも多くの指標でランクインしている。だが畑山学長は、これは大学として理念を追求してきたその線上にSDGsの取り組みが合致したに過ぎないと言う。

社会に貢献する人材の育成は、創立者が掲げた「学而事人(がくじじじん):学びて人に事(つか)える」というモットーに通じるものだ。桜美林大学では、サービスラーニングという学習方法で、これを体現してきた。「教室での学び」と地域貢献活用や被災地支援、インターンシップなどの「フィールドでの学び」を往還することによって学びをコミュニティに還元していく。

畑山学長は、2021年の100周年の節目を、これからの100年を考える機会と捉えている。「コロナがもたらした社会変化により、SDGsが投げ掛ける問いが現実感を増して学生の研究課題につながってきました。私が多様性を重視してきたのは、異なるバックグラウンドや学問嗜好を持つ学生との出会いが生むイノベーションに期待するからです。大学に社会課題の解決につながる発想を生むダイナミズムをつくっていきます」。これまでに築いてきた国際性・多様性に満ちた環境を生かして、大学の次の挑戦が始まる。

学長
畑山 浩昭
畑山 浩昭
はたやま・ひろあき
1985年桜美林大学 文学部 英語英米文学科卒業、2001年ノースカロライナ大学グリーンズボロー校 大学院博士課程修了。米国ノースカロライナ州立大学シャーロット校 外国語学部助手等を経て、1997年桜美林大学 国際学部講師に就任。国際交流センター センター長、学長補佐、学園長補佐等を経て、2018年4月より学長に就任。文学博士。