江戸後期から今日まで医学の発展に寄与
遡ること天保9(1838)年、蘭方医・佐藤泰然が日本橋薬研堀に国内最古の西洋医学塾「和田塾」を開学した。動乱を逃れて拠点を下総佐倉の地へ移した後は名を「順天堂」に変え、時代の荒波を乗り越えながら有能な医師を数多く輩出。「日新の医学、佐倉の林中より生ず」と謳われた。
この歴史ある医学塾をルーツに持つのが順天堂大学である。現在、9学部5研究科6附属病院を擁し、名実ともに”健康総合大学・大学院大学”へと発展を遂げた。教育の根底に流れる学是「仁」──「人在りて我在り、他を思いやり、慈しむ心」と、現状に満足せず常に高い目標に挑む「不断前進」の理念を貫き、出身校・国籍・性別の差別なく、優秀な人材を求め、活躍の機会を与える「三無主義」の学風を掲げ、「教育」「研究」「診療・実践」の3本柱を基軸として国際レベルでの社会貢献と人材育成を進めている。
「本学は180年以上にわたり、社会の要請に応えてきたが、変化のスピードが速い現代において人々が抱える健康課題は驚くほど多様になった。医療や福祉に携わる人材には、専門性はもちろん、幅広い教養と柔軟な思考力に基づいた高い視座が求められている」と新井一学長は語る。その考えのもと、順天堂大学は医学部、スポーツ健康科学部、医療看護学部、保健看護学部に加えて、国際教養学部(2015年)、保健医療学部(2019年)、医療科学部(2022年)、健康データサイエンス学部(2023年)を開設、2024年には薬学部を開設する。全ての学部は密接に連携しており、社会情勢を捉えながら医療・医学さらには健康について体系的、横断的に学べる環境は国内随一といえる。
国際教養とデータサイエンスで現代の健康課題に挑む
順天堂大学がこれまで培った国際レベルでの医学・医療の叡智を礎に、2015年には国際教養学部が開設された。
「SDGsの目標3『すべての人に健康と福祉を』を実現するには、ただ病気や怪我を治すだけでなく、安定した医療と福祉を受けられる仕組みづくりといった根本的なアプローチが必要となる。国際教養学部の目途は、医療の専門知識を用いながら広い視野で人々の健康課題を解決する手法、まさに『リベラルアーツとしての健康・医学』を追究することにある」(新井一学長)
カリキュラムは2段階に分かれる。まず1・2年次で国際教養の全体像を把握し学問の基礎となる考え方やスキルを習得。それをベースに、3・4年次は3つの専門領域「グローバルヘルスサービス領域」「異文化コミュニケーション領域」「グローバル社会領域」に分かれ、自身の夢や目標にあわせて専門領域を選択(複数選択可)し、専門性と国際対応力を高めていく。
専門領域の中でも他に類を見ないのが「グローバルヘルスサービス領域」となる。疾病の仕組みや疫学・統計といった医療の基本的な知識を身につけながら、感染症によるパンデミック、先進国・新興国で深刻な高齢化、アジアで増加する生活習慣病など、様々な課題への対応策を世界規模で考察する。
もう一つ、順天堂大学の大きな特徴と言えるのが、2023年に開設した「健康データサイエンス学部」である。テクノロジーの発展により膨大なデータがあふれる現代、医療機関をはじめ製薬会社、スポーツ関連メーカーなど様々な場で、医療・医学に関する知識とデータ分析・活用のスキルをあわせ持つ健康データサイエンティストの需要が高まっている。
健康データサイエンス学部では、1・2年次に数理統計やコンピュータサイエンスなどのデータ分析力と医療・スポーツ領域の基礎知識を固める。教鞭を執るのは、世界の最前線で活躍する統計学者、コンピュータの専門家さらに様々な分野の医師たちとなる。そして、3・4年次には附属病院や連携企業でインターンシップを実施し、健康データサイエンティストとしての実践的なスキルを磨くことを予定している。
「これまで医学・医療、スポーツ分野を牽引してきた順天堂大学では、膨大なデータが日々蓄積されている訳だが、そのような環境は人材育成にも有用と考える。本学部で学んだ健康データサイエンティストが、将来人々の健康で健やかな暮らしの実現に大いに貢献することを確信している」と新井一学長は期待を込める。
教育力と研究力を強化し全人的な見地から人々を健康に
順天堂大学の人材育成力さらには研究力の高さは、数々の数値により窺い知ることができる。2022年度の文部科学省科学研究費の総額は約14億円に達し、これは全国私立大学の中で第3位の獲得額であった。
この科学研究費獲得には、URA(University Research Administrator)の大きな貢献があった。本邦では研究者が抱える事務作業が多く、結果研究時間を圧迫していることが問題視されてきた。そこで順天堂大学では研究者に代わり、科研費申請や情報発信といった活動を行う専門組織を2012年に設置した。そこでは自身も研究者としてのキャリアを有する6名のURAと、後述する研究戦略推進センターに所属する約50名の事務職員により最先端の研究を力強く支えている。
医学部及び6つの医学部附属病院(全体で3,589床)を擁する順天堂大学では「教育」「研究」「診療・実践」が重要なミッションになるが、これに加えて「社会貢献」を第4番目の使命として捉え、その一環として産学連携の推進に努めている。特にライフサイエンス分野においては研究開発を促進し開発シーズを社会実装させることに注力しており、このため研究戦略推進センター(知財・契約関連の業務、研究費等の申請を担当)、臨床研究・治験センター(臨床研究・治験の実施支援を担当)、革新的医療技術開発センター(オープンイノベーション、研究開発の戦略支援を担当)からなるARO(Academic Research Organization)を学内に組織している。
そして、このARO内に開発シーズの社会実装を一気通貫で支援するプロジェクト、GAUDI(Global Alliance Under the Dynamic Innovation)を設置し、これが開発シーズを持つ企業と専門領域の医学・医療の専門家、すなわちKey Opinion Leadersを結びつける機能を果たしている。文京区にある順天堂医院は、上述のAROの充実もあって2020年に臨床研究中核病院に認定された。結果、現在順天堂医院では年間2,000件を超える治験及び臨床研究が実施されており、さらに様々な企業の協力のもと設置された寄附講座・共同研究講座・産学協同研究講座は現在61を数えるに至っている。これらの寄附講座・共同研究講座・産学協同研究講座の多くは医学に関連するものであるが、スポーツ健康科学、看護学に関わるものも少なからず存在する。また、順天堂大学発のベンチャー企業は14と決して多くはないが、そこでは新たな細胞治療や難病に対する新規治療法の開発などが行われている。上述のGAUDIでは学内ファンドを設置して、学内シーズのスタートアップ支援、社会実装化に向けた伴走型の支援を行い大学発ベンチャーの更なる育成を図っている。
さらに2024年4月には、薬学部を新たに開設する。これまで培った知見と附属病院の臨床・研究環境を生かし、医薬品や機能性素材などを適切に使用できる臨床能力の高い薬剤師や、医療現場に根差した創薬・育薬ができる薬学研究者の養成を目指す。
精力的にネットワークを広げ、進化を続ける順天堂大学、「仁」の心と「不断前進」の姿勢に加え、「三無主義」の考えで社会と向き合い、全人的な見地から人々の健康と医療の未来を支える、それが順天堂大学の目指す“健康総合大学”の姿になる。