学生たちが意欲的に取り組める豊富な「仕掛け」

──北九州市立大学は、THE 日本大学ランキングの「教育充実度」で特に高いスコアを獲得されています。その理由をどのように分析されますか。

学長  本学ではおよそ6,700人の学生が学んでいますが、学生たちに満足度調査を実施したところ、成長実感や挑戦・やりがい、グローバル人材育成などの項目で高い満足度を得られていることがわかりました。「チャレンジ精神に富んだ人を求める」という大学からのメッセージに共感して入学する学生も多く、私たちはそれに応え得るプログラムやリソースを有しています。例えば、地域貢献活動や国際交流など、学生たちが意欲的に取り組み、自らの成長を実感できるような仕掛け(地域活動や豊富な留学プログラム等)が数多くあるため、高い満足度につながっているのではないでしょうか。

また、北九州市立大学は公立大学で学生数が3番目に多いのですが、キャンパスはコンパクトにまとまっていて、教職員と学生の距離が近いのも特長の一つです。人とのつながりの中で、学生たちは安心して学ぶことができる。それもまた、高い評価を得ている理由かもしれません。

──学生のみなさんは、教職員との距離の近さを実感されますか。

山口  はい、ものすごく距離が近いと感じます。お手洗いで会うと、そこから会話が広がって・・ということもしばしばです(笑)。

大屋  私のゼミの先生は「教員はサブスクだと思って、どんどん活用するといいですよ」とおっしゃってくださいます。授業でわからないことがあれば、いつでも研究室に来なさい、と。

長谷川  私は留学する際に国際教育交流センターの職員のみなさんにお世話になりましたが、疑問や不安があればすぐに受け止めて対応してくださいました。あまりにも居心地がよくて、特に用事がなくても足を運んでいたくらいです。

学長  それはうれしいお話です。大学のリソースは大いに活用してほしいですね。

「地域・環境・世界」の3つのビジョンで学びを展開

──2016年に創立70周年を迎えた際に、30年後の未来に向けて「3つのビジョン」を掲げられました。どのようなことに取り組まれているのでしょうか。概略を教えてください。

学長  まず1つ目のビジョンは「地域と歩む」です。本学は公立大学ですから、地域の課題解決において大学が持つポテンシャルを充分に発揮することが求められます。学内には地域の課題と大学の教育をつなぐ地域共生教育センターを設置し、学生の地域貢献プロジェクトを後押ししています。北九州市はもちろんのこと、他のエリアでも地域貢献に資することができる学生を育成することを念頭においています。

また、キャリアセンターの主導で地元就職率の向上にも取り組んでいます。地元の就職市場の動向を把握し、産業界と綿密な連携を取るよう心がけています。

2つ目のビジョンは「環境を育む」。北九州市は環境未来都市に認定されていますので、本学もその一員として、持続可能な環境共生社会の実現に貢献することが使命となります。教育においては、学部横断型の「環境ESDプログラム」で持続可能な社会づくりに貢献できる人材を養成します。国際環境工学部では学科横断型の少人数グループで環境問題の調査研究を行い、最終的な研究発表まで学生が主体となって取り組んでいます。

3つ目は「世界(地球)とつながる」。グローバルな視野でダイバーシティ時代を生き抜く力を養成するために、多彩な国際交流の機会を創出しています。本学の海外協定校は15カ国2地域に広がる45大学1研究機関。「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)では、海外留学生派遣数は国公立大学で2位を獲得しました。

──こうしたビジョンに基づいて、大学の学びもデザインされているのですね。学生のみなさんは、大学での学びで特に印象に残っているのはどんなことでしょうか。

山口  国際環境工学部では3年生の後半から研究室に配属されますが、あるとき研究室の先生に声をかけていただき、農業DXの研究に関するアルバイトをすることになりました。当時はまだ知識が浅くスキルも未熟だったのですが、やるべきことが目の前にあると、そのために必要な最低限のスキルを身につけようと努力するんです。その繰り返しで、どんどん知識を吸収することができました。学びを積み重ねながら、最終的に成果を出すことができたときはうれしかったです。貴重な機会をいただけて、とても感謝しています。

長谷川  私が印象に残っているのは、大学の交換留学制度を利用してオーストラリアに半年間留学したことです。オーストラリアの方々は自分の価値観にとても自信を持っていて、自らのバックグラウンドや性的嗜好なども公表し、自分の個性として捉えていることに刺激を受けました。文化というのは思った以上に、その人の行動や思考を決定づけるのだということも実感しました。今後、社会に出ていろいろな方と関わることになりますが、その人が生きてきた環境などを最大限に尊重しながら働きたいと考えています。

大屋  地域創生学群で学んだ3年間は内容が濃すぎて、ひとつに絞ってお話するのはとても難しいですが、現場実習は特に学びの宝庫でした。コミュニティFM局での番組制作や市の政策で作られたまち「ボン・ジョーノ地区」での実習では、さまざまな人と関わることで相手の気持ちに寄り添うことを学び、人と関わることの意義をあらためて認識しました。人とつながることで、自分の暮らすまちに誇りを持つことができるということも大きな気づきの一つです。また、誰のために何をやっているのかという目的を意識しながら行動することで、モチベーションの浮き沈みに左右されない学び方・生き方を学ぶことができました。これは、とても大きな財産です。

学長  みなさんがさまざまな体験を通して成長していることを、大変頼もしく思います。大学というのは修業の場だと思っています。幅広い教養と専門性を融合させて身につけていく鍛錬の場。みなさんが楽しく修業できるよう、さらにプログラムを充実させていきたいですね。

社会の課題に文理融合で挑む新学部が誕生

──北九州市立大学の今後の教育について教えてください。

学長  大きな柱として、データサイエンス教育の推進が挙げられます。重要なポイントは文理融合を進めること。社会課題の解決に資するためのデータサイエンスには文系の発想が不可欠という考えから、本学は、文理融合を体現する新しい学部「情報イノベーション学部(仮称)」を2027年に設置します。AIやロボット工学などを学ぶ「情報エンジニアリング学科」と、再生可能エネルギーや環境政策を学ぶ「共創社会システム学科」の2学科を設ける予定です。

さらに、社会人の学び直しの場を提供するリカレント教育も、地域課題の解決につながる重要な取り組みです。多くの市民に学びの扉を開く「i-Designコミュニティカレッジ」は、おかげさまで好評の声をいただいています。

地域への貢献という観点からいえば、学生のシビックプライド(地域に対する誇り)を醸成し、地元企業への理解を深める取り組みは、今後もキャリア教育の一環として進めていく必要があると考えています。

──次世代を担う大学生にとって、今後必要となるのはどんな力だとお考えでしょうか。

学長  未来をつくるにあたり必要となる力はたくさんあると思いますが、大学として力を入れているのは「問題を発見する力」です。同じ現象に対峙したときに、何が問題なのか、その問題をどう捉えるかによって、その後の展開には差が生じてきます。また、こうした問題を発見し、解決に導くためには人との協働が必要となります。そのための「コミュニケーション力」「リーダーシップ」も重要な要素でしょう。意見を交わし合い、多様な考え方を受け入れて、全体を俯瞰しながらまとめ上げる。本学のプログラムも、そんな力が身につくよう構築しています。

大屋  それはまさに、私が大学で学んできたことを段階的におっしゃっていただいたような気がします。問題を発見し、その解決のために人と協働することで多くのことを得られました。この大学に入ってよかったと思うのは、切磋琢磨し合える仲間に出会えたことです。志が高くて、刺激を与えてくれる仲間がたくさんいます。

長谷川  私もそう思います。普段の授業でも、自分にはない考え方が飛び交って、いつも刺激を受けています。学部には留学経験のある友人が多く、先生方の国籍もさまざまです。日本にいながら多様な文化に触れられ、自分の価値観や視野を大きく広げられるのが北九州市立大学の魅力だなと感じます。

山口  自由であることも大きな魅力ですよね。こんなことを学んでみたい、こんなことに挑戦したいという気持ちに、柔軟に応えてくれる大学だと思います。自由であることは自分で負うべき責任もあるという意味ですが、これから社会に飛び立つ私たちにとって、またとない鍛えられる場であると思います。

──2026年には創立80周年を迎えます。次の節目にあたり、未来への展望をお聞かせください。

学長  まずは先ほどお話しした「地域・環境・世界」の3つのビジョンを継続して、ブラッシュアップしていきます。社会構造の変化を見据えて、データサイエンス教育を充実させ、文理融合の教育を進展させることも急務です。また、医工連携をはじめ大学間連携もますます加速することになるでしょう。さらに、教育の質保証のための改革も引き続き進めていきます。大学の使命の一つは、優秀な人材を社会に送り出すこと。人間的にも成長できる4年間を過ごせるような仕掛けを、今後もたくさん用意していきます。

学長
柳井 雅人
柳井 雅人
やない・まさと
1991年、九州大学大学院経済学研究科博士号取得。1993年北九州大学経済学部講師、1994年同大学助教授、2003年北九州市立大学教授に就任。2005年同学部経済学科長、2006月学生部長、2011年入試広報センター長、2013年経済学部長、2015年副学長、都市政策研究所(地域戦略研究所)所長、キャリアセンター長、2017年理事、副学長、地域戦略研究所長を経て、2023年より現職。専門は経済地理学、企業立地論。
地域創生学群 地域創生学類3年
大屋 奈都子さん
大屋 奈都子さん
おおや・なつこ
地域課題の解決について、課外活動を通して学べることに魅力を感じて入学。高校時代に同じ学群の先輩に話を聞き、コロナ禍にあっても地域との関わりを持つために試行錯誤している様子に感銘。今は「地域で学ばせていただく」という姿勢を忘れずに、多くの活動に意欲的に取り組む。
国際環境工学部 情報システム工学科4年
山口 大輝さん
山口 大輝さん
やまぐち・たいき
学部選びのポイントは物理と数学が好きだったこと。北九州市立大学の自由な校風は学生たちの向学心を押し上げてくれると感じている。4年間で専門分野の知識や技能だけでなく、仲間とともに取り組むことの大切さを学んだ。この学びを活かして、金融系IT企業への就職が決まっている。
外国語学部 英米学科3年
長谷川 遥香さん
長谷川 遥香さん
はせがわ・はるか
中学生の頃から英語が好きで、大学では英語や英語圏の文化を学びたいと考えていた。北九州市立大学は1、2年で英語力の土台を築き、3、4年で自らの専門性を深めるカリキュラムに魅力を感じた。半年間のオーストラリア留学では多様な価値観に触れ、物事を多面的に捉えるきっかけに。