ポスター掲示に加え指導に生かす高校も

 THE世界大学ランキング日本版(以下、日本版)が誕生してからまだ1年程度ですが、高校の教育現場では徐々に認知が拡大しています。ベネッセコーポレーションが高校教員を対象に実施した調査によれば、ランキングポスターを校内に掲示している高校は2017年6月時点で約23%。ランキングの発表から3か月程度しか経っていないことを考慮すれば、高い数値と言えるでしょう。
 加えて、同年1月の時点で高校教員の約70%が「(日本版を)知っている」と回答しており、ポスターを掲示するだけでなく、すでに4.2%の教員が日本版を「指導・校内資料に生かしている」、6.6%が「話題にした」と回答しています。今後、回を重ねるごとに認知が広まり、指導に活用する高校が増えていくと予想されます。

高校の進路指導は「探究型」にシフト

 今、高校の進路指導は、将来の職業を基に進学先を検討する「職業逆算型」から、社会と自分のつながりを深く考えたうえで進学先を絞り込む「探究型」へとシフトしつつあります。というのも、激しい変化が見込まれるこれからの社会では、変化に柔軟に対応しながら自分のキャリアを築いていくことが求められるからです。
 このように進路指導が「探究型」へと転換するのに伴い、大学で学ぶことを高校生により意識させるため、大学を、①より広く②より深く③より早く研究する指導が重視されてきています。
 ①の背景には、高校生の地元志向があります。探究活動を通して将来に対する視野を広げても、進学先を地元に限定してしまうと、地元大学の学部・学科の枠内で進路を考えるようになります。これでは探究活動で得た気づきを進路選択に生かしにくくなります。そのため、大学選びの視野を広げ、地元以外の大学にも目を向けさせるツールとして日本版を活用しているとの声を高校教員から聞くことがあります。
 ②の「より深く」に関しては、大学の魅力を高校生が自分の言葉で語れるように、大学調べに探究活動の手法を取り入れる試みが挙げられます。この背景には「偏差値だけで大学を選んでほしくない。大学を深く知り、自分のやりたいことを実現できる進学先を見つけてほしい」との高校教員の思いがあります。日本版の分野別スコアに着目し、その背景にある大学の取り組みについて仮説を立て、実際にオープンキャンパスなどで検証させようと考えている高校もあります。
 ③のように大学研究の時期が早まっている理由の1つには、「フラットな視点で大学を見て、大学で学ぶ意義を考えてほしい」との高校教員の考えがあります。受験が近づくにつれ、高校生が偏差値で進学先を考える傾向は強まります。そのため、1年次の早い時期から、教育・研究の場としての大学を意識付けようとしているのです。日本版のポスターが低学年の生徒でも目に付きやすい廊下などに掲示されているのは、こうした意図があるからでしょう。中には高校入学直後から大学のアドミッションポリシーを研究することで、卒業までに身に付ける力を意識させている高校もあるくらいです。

※この記事は、「Between」2018年5-6月号より引用しています。

ベネッセコーポレーション 初等中等教育事業本部 教育情報センター長
渡邉 慧信
渡邉 慧信
わたなべ・えしん
高校教育や大学入試に関する調査・分析を基に、全国の高校に対して、生徒の成長や自己実現につながる情報提供・指導の提案を行っている。