台湾で活躍する日本人の共通点

 台湾でも、日本人の若い経営者が数多く活躍しています。台湾は一般に親日で、日本の商品・サービスへの関心が非常に高いことで知られています。しかしながら、「台湾は親日だから、チャンスがある」と言う安易な考えで日本から進出する人や企業も少なくなく、そういう会社はいつの間にか姿を見なくなります。また、「台湾が大好きだから」という動機で起業する人もあまり成功しません。好きなだけなら旅行で良いわけで、仕事にするべきではありません。

 私の周りで活躍されている日本人に共通するのは、中国語で言うと「入境隨俗」、つまり郷に行っては郷に従い、台湾の文化を深く理解しているということです。中国語に堪能で、ペラペラである必要はありません。台湾の文化・風習をしっかりと理解し、そこに溶け込むことが重要です。
 日本と台湾、近いようでけっこう違いがあります。例えば、会社でも、朝食は通勤途中で買ってオフィスで食べるのが主流、昼休みは1時間半しっかり取る、社員旅行や忘年会は盛大に行う、などなど。日本企業でよくある失敗例が、台湾の事情を全く知らない日本人社員が、急に支店長として赴任して、日本のやり方を押し付けるパターンです。私の周りで成功している日本人は、みんな台湾に溶け込み、台湾の人に愛されています。

バックグラウンドの違う社員に求められる「国際性」

 当社の社員は台湾人が7割、日本人が3割です。日本人だけの組織でも、まとめ上げるのは大変なのに、生まれ育った文化や風習がまったく違う両国の社員をまとめるのは、本当に大変です。
 私も決して完璧にマネジメントできているわけではありませんが、大切にしているのは、良い部分を相互に認め合って、足りない部分を相互に補完し合うことです。東京本社に勤務する日本人社員向けには、月に数回、台湾に関する理解を深めるための講座や本の輪読を行っています。
 また、中国語の学習支援も行っています。語学学校の学費半額負担(以前は全額負担していましたが、身銭を切ると覚悟も生まれるので、半額としました)のほか、業務時間中でも台湾人社員に「これって中国語で何て言うの?」と質問するのはOKとし(むしろ、どんどんやっていただきたい)、あるいはオフィスのいろいろなものに中国語表記の付箋を貼り、単語を覚えてもらったりもしています。台北本社の台湾人社員には、逆に日本を理解するための施策や、日本語学習支援を行っています。

 当社は日台に拠点を置き、双方がうまく連動しないと仕事が回らないので、日本人と台湾人の相互理解が不可欠です。東京と台北で社員が常に離れているため、日本と台湾をオンラインで常時接続させたり、クラウド上で作業を同時進行させたりするほか、毎年、全員で社員旅行に行って親睦を深めるなど、日台の融合を大切にしています。英語や中国語がペラペラである必要は全くなく、お互いの考え方を理解できることこそ、真の国際性です。

変化の時代に求められる素養

 私は当社の社員に「どこでも戦える素養を身につけてほしい」と言っています。どこでも戦える素養とは「余人を以って変えがたい」素養です。さらに言えば、他の人にはできない、この人にしかできない、唯一無二の存在たり得る素養だと思います。「唯一無二」というと何だか大層に聞こえますが、一番になる必要はないのです。
 例えば、私はマスコミ出身ですが、日本のメディア業界には私より有能なプロデューサーやディレクターはごまんといます。また、私は中国語がしゃべれますが、私より中国語が上手い日本人もごまんといます。しかし、日本のメディア業界で、中華圏を理解し、中国語が流暢にしゃべれる日本人はほとんどいません。だから、台湾や日本のメディア企業が「これは吉田に依頼しよう」と言ってくださるのです(どこまでご期待に沿えているか不安ですが…)。

変化の時代に重視したい世界大学ランキング

 私は一般的に就職に強いとされる大学を出て、一般的に待遇が良いとされる会社に勤めました。もちろん、後悔はなく、大変貴重な経験をさせていただきましたが、授業は一方通行の講義ばかりで、会社でも画一的で挑戦の無い働き方でした(何度も言いますが後悔はなく、大学にも会社にも感謝しかありません!)。

 しかし、これからの時代、ビジネスパーソンとして唯一無二の存在たり得るためには、偏差値や就職実績や世間体だけで進学先を決めるのは非常に良くありません。私自身もそうでしたが、高校生の持てる情報量は本当に少なく、見えている世界は本当に狭いものです。また、高校生にとって最も身近な大人は親と先生だと思いますが、親や先生が持っている情報も、大変失礼ながら本当に断片的で主観に溢れ、限られたものです。
 そのため、ぜひ常識や主観を排除し、親や先生の助言を一旦忘れて、いろいろな角度から大学を観察していただきたい。「やりたいことがみつからない」でも全く問題ないと思います。
 実際、大学でいろいろな情報に触れれば触れるほど世界は広がり、やりたいことも変わってくるものです(私は自衛官を目指して防衛大学校に入校して、経済学や法学を学ぶうちに見る世界が広がってしまい、結局1年間の在学の後、中途退学して大学を受け直しました)。
 海外で働く日本人として、偏差値・就職実績・世間体と同じくらい「国際性」を重視した進学先選びをしていただきたいと思います。

株式会社ジーリーメディアグループ 代表取締役
吉田 皓一
吉田 皓一
よしだ・こういち
奈良県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日放送入社。総合ビジネス局にて3年にわたってテレビCMの企画・マーケティングに従事した後、2013年、ジーリーメディアグループ創業。台湾のテレビ番組やCM出演、雑誌コラム連載を通じ、日本の情報発信を行う。中国語HSK(新漢語水平考試)最高級所持。