Q 新卒採用市場における企業の活動に、どのような変化が起きているのでしょうか。
旧来の「日本型雇用」を前提とした採用活動は近年、大きく変わろうとしています。
「日本型雇用」は、年功序列賃金、新卒一括採用、終身雇用という3つの特徴を持っています。つまり、総合的に見てポテンシャル(潜在能力)が高いと思われる人材を採用し、時間をかけて育成するというものです。これは、総合職として採用し、人事異動でさまざまな部署を経験させるという日本特有のシステムです。経営や人事部が異動や昇降格など、ほぼすべての人事権を持つために企業にとって都合がよく、今でも「日本型」または「ポテンシャル型」と呼ばれるこの採用形態が主流となっています。
しかし、グローバル化が進んで優秀な人材を海外の企業と取り合うようになり、転職も当たり前になった近年は、海外のような「ジョブ型採用」が増える傾向にあります。「ジョブ型採用」とは、その職務に必要とされている知識やスキルをすでに身に付けている人材をスペシャリストとしてとして採用するというものです。「10年後に花咲く可能性」よりも「今、何ができるのか」、すなわち、すでに備わっているスキル・能力を重視する採用といえます。
Q 企業で活躍するために、学生が大学生活の中で得るべき知識やスキルとは、どのようなものでしょうか。
私は「実践的スキル」と「自己認知をふまえた目的意識」だと思っています。
現代社会における「実践的スキル」の典型例で、なおかつ評価可能なものといえば、プログラミングやデータサイエンスといったスキルでしょう。このスキルを持つ学生はジョブ型採用で評価されると考えられます。実際に、いわゆる有名大学の学生でなくても、ITスキルを持っていれば採用したいと考える企業は、大手も含め、この数年でかなり増えてきました。
一方の「自己認知をふまえた目的意識」は、ある意味「実践的スキル」とは逆の考え方かもしれません。ITに代表される「実践的スキル」を極めることによって人気企業に就職するという「就職の成功」のほかにも、「いい就職」と言える形があります。
自分自身が「やりたい」と思える仕事に目的意識を持って取り組める就職です。この「いい就職」を目指すために必要なのが「自己認知をふまえた目的意識」なのです。
そのためには、自分の好きなもの、得意なことを認知し、さらに磨いていくという過程が欠かせません。
その過程においてはリベラルアーツを学ぶことが非常に大きな意味を持ちます。リベラルアーツを通して世の中の情報を吸収する感受性を磨くと、自分が何をやりたいのかという自己認知、やりたいことに挑戦するための自己肯定感が育ちます。その結果、「意識を高め、目的を持って、成功体験を積んでいく」というサイクルが出来上がります。これが「自己認知をふまえた目的意識」です。
自分の軸となる目的意識は企業で活躍するための「社会人力」だと言えます。
Q 「教育成果」「教育充実度」の意義は何でしょうか。
現在、企業が採用において学生を評価する際には、どうしても「学歴」が主たる基準となりがちです。難関大学、有名大学に受かった学生ならポテンシャルが高いと思いこんでいる企業がいまだ多いからです。
もちろん、この指標にもある程度の意味を見出せます。多くの企業は難関大学の学生に、受験勉強を計画的にやり抜いた力、受験競争を勝ち抜いたという自信、そして、大学で意識の高い仲間に囲まれて切磋琢磨した経験などを期待して採用しています。
ただし、そのような採用では、各々の学生が大学で何をして、何ができて、何がしたいのか?まで評価することはできず、高い倍率の受験を切り抜けたという「入口」の成果だけにとらわれているという批判があります。 なぜ、企業は大学の偏差値を見るのでしょうか。それは、今まで「難関大学・有名大学に入学した学生である」ということ以上にバランスよく評価できる軸がなかったためです。大学によっては授業科目ごとの成績評価を出すGPA(Grade Point Average)を算出、企業ではさまざまな就職適性検査を行いますが、大学ごとに付け方や難易度などはバラバラで、公正な評価軸とはなっていません。企業も、大学の偏差値に代わる新しい指標を模索している状況なのです。
THE世界大学ランキング日本版の「教育成果」分野の指標は、企業の人事担当者の評判調査を基にしています。このランキングを見て企業が採用の基準を変えるということはまだ考えられませんが、それでも「難関大学出身の学生であれば誰でも社会に出てから活躍できる」という根拠のない定説に、異なる視点を加えることができるのではないでしょうか。
また、THE世界大学ランキング日本版の「教育充実度」分野では、アクティブ・ラーニングに関わる大学の取り組みを「学生調査」で明らかにしてランク付けしています。教育の新しい取り組みは、学生の自己認知や目的意識の形成に役立つでしょう。