芸術系大学の学生にとっての国際交流

 芸術には、言語の壁を超えて理解できる側面があります。その一方で、作品の制作意図やコンセプトをしっかりと伝えるプレゼンテーションや、海外コンペなどで開催されるレセプションパーティでは、英語でのコミュニケーションスキルが必要になります。そのため、芸術系の大学では、海外でその国特有の表現方法を学んだり、コミュニケーション経験を積んだりするグローバル教育へのニーズが高まってきています。
 実際、留学などの国際交流を経験した芸術系の学生の体験談には、「バックグラウンドの違う学生のデザイン感覚から受ける影響の大きさ」を肌で感じたという声が多くあります。また、留学先の多文化社会や、現地の大学で受ける日本では体験できない演習に新鮮さを感じ、異文化に触れることによって日本文化の良さを再発見したという意見も見られました。
 このように、国際交流の経験によって、その後の制作や発表などに役立つ、様々な刺激やスキルを得ることができると言えます。

グローバル教育に力をいれる芸術系大学3選

 芸術系の大学生にとって、国際交流は多様な価値観に触れるチャンスです。そのため、学内でもグローバルな環境に身を置くことができれば、より広い視野を持って専門分野に取り組むことができるでしょう。
 ここで、THE世界大学ランキング 日本版の国際性ランキングを見ると、芸術系の大学が複数ランクインしています。国際性のランキングは、大学に在籍する外国人学生比率・外国人教員比率をスコア化しており、ランクインしている大学には、留学や海外研修のサポートが充実している大学も多く存在します。
 そこで、国際性ランキングで上位にランクインした芸術系の大学を3校ピックアップし、それぞれの特徴的な取り組みと、各大学のグローバル教育が目指す学生像を併せて紹介します。

国際的に活躍できる芸術系人材を育てる:デジタルハリウッド大学
 「国際性」ランキングで=23位にランクインしているデジタルハリウッド大学は、学生の卒業後の国際的な活躍を視野に入れた語学教育を行っています。デジタルコミュニケーション学部では、3つの教育として「専門教育」「教養教育」のほか、「国際教育」を挙げ、特に英語教育に力を入れています。
 特徴的なのは、語学学習のモチベーションアップのために、入学直後に海外の映画スタジオを見学するなどの海外研修を行うことです。このプログラムにより、学生たちは、早期に英語の重要度を体感できます。
 実際の語学の授業では、学生は英語のレベル別に6つのクラスに分かれて学習するという、学生が無理なく英語力を向上できる環境を整えています。ネイティブスピーカーの教員から週4回、グループワークやインタビューなどを用いた実践的な授業を受け、「聞く」「話す」能力を重視しながら英語を学ぶことができます。
 また、同大学では、学生の留学をサポートする制度も充実しています。留学希望者には英語特別授業として、留学に必要なIELTSやTOEFLといったスコアを伸ばすための授業や、留学先での授業をスムーズに受けるための「Pre-Study Abroad」の授業を行っています。また、海外の大学で修得した単位を、デジタルハリウッド大学の卒業単位として認定でき、留学をしても4年での卒業がしやすくなっています。さらに、WebやCGなどの一部の演習を、オンラインで自主学習できるシステムを導入し、海外にいても日本と同様に制作できる環境を整えています。

自ら海外に発信できる人材を育成する:武蔵野美術大学
 武蔵野美術大学は国際性ランキング=99位にランクインしています。同大学では、自分の制作活動やクリエイティビティに関して、自分の言葉で海外に向けて発信できる人材の育成を目指しています。
 そのため、語学学習だけではなく、日本のアイデンティティやコンピュータ・リテラシーなどを含めた「世界で活躍するために必要な『15』のこと」という目標を設定しています。
 また、キャンパスのグローバル化にも積極的で、造形学部に251人(2017年度)の外国人留学生を受け入れています。海外での活動に関心のある学生に向けては、月に1回程度「ランチトーク」と呼ばれる昼食持ち込みの懇話会を開催し、留学生や海外で活躍する卒業生の話を通して、学生が今後海外で活動するために何が必要かを学ぶ機会を提供しています。
 さらに、武蔵野美術大学から海外の大学への留学もサポートしています。例えば、「グローバル人材育成プログラム」の一環として「美大生のための英語講習会」を実施しています。この講習会では、学生が英語で作品の感想を発表したり、自分の作品について説明したりできるよう、美術特有のボキャブラリーや表現を学び、学生たちが自らの作品を自分の言葉で表現する力を養うことができます。

専門性を生かした国際交流を進める:多摩美術大学
 国際性ランキング=127位の多摩美術大学は、「国際社会に対応する幅広い教養を身につけた人格の形成を図り、現代社会に貢献する優れた芸術家、デザイナーならびに教育研究者等を育成する」という目標のもと、学生たちが実践的な活動を通して専門性や国際感覚を身に付けられるプログラムを提供しています。
 特徴的なプログラムとしては、「Pacific Rim」プロジェクトがあります。これは、アメリカの協定校であるアートセンター・カレッジ・オブ・デザインと2006年から実施している国際共同教育プロジェクトで、両校のデザイン分野で学ぶ学生がグループを組み、グローバルかつローカルな社会問題等を解決するための商品や建築物などをデザインするものです。
 両校の学生は、毎年交互に日本とアメリカで3か月近くにわたるプロジェクトを行います。実際の都市でのフィールドトリップやテーマの設定、発表までを行い、学生は、海外の学生と専門的なコミュニケーションをとりながら作品を作り上げる経験をできます。これらの経験は、芸術分野での国際感覚のトレーニングとして、役立つでしょう。

 芸術系の大学では、専門的な授業だけでなく、教養科目や国際交流なども、すべて制作活動のインスピレーションにつながるという考え方が多いようです。専門分野についてだけでなく、国際性を基準に大学を調べてみると、新たな発見がありそうです。