進む医療現場での国際化

 近年、国際交流に積極的な医療系の学部が見られます。これには、どのような背景があるのでしょうか?
 まず、考えられるのは、医療系学部の学生が国際交流をすると、研究に関して、様々な国の技術や設備に触れ、学ぶ機会となるということが考えられます。また、最先端の治療法に触れることによって、学びに対する意欲が高まる成果も期待されます。
 さらに、国際交流を通じ、語学力の向上や異文化理解が深まれば、実際の医療現場に立つ際の外国人患者への対応にも役立っていくでしょう。グローバル化で外国人が日本の病院を受診する機会が増えたことや、インフォームドコンセントの必要性によって、外国人患者に対する情報提供が重視されています。そのため、医療従事者にとって語学力や異文化理解は必須の能力となりつつあります。
 医療系学部の学生の国際交流体験記からは、「文化によるQOL(生活の質:Quality Of Life)や尊厳死・安楽死の問題、また、文化や都市の発展度合による病院・医療の在り方の違いに触れることができた」といった、医療系学部生ならではの学びも多いことが分かります。海外でトップクラスの大学に通う学生との交流は、日本の学生にとって学修の大きなモチベーションとなるため、できれば在学中に海外経験を積みたいという学生も少なくありません。
 そこで、今回は「国際性ランキング」にランクインした大学の中から、医学部や歯学部などを持つ大学の特徴的な取り組みをご紹介します。

専門分野を生かした国際交流に積極的:東京医科歯科大学

 国際性ランキングで93位にランクインした東京医科歯科大学には、2017年5月1日現在、全学で304名の外国人留学生を受け入れています。日本人学生によるチューター制度を設けるなど、留学生が学修しやすい環境を整えている点が、ランクインの要因といえそうです。さらに、歯学部には外国人教員が合計32名在籍(2016年5月1日)、他大学の医療系学部と比較してもグローバルな教育環境を整えています。
 同大学では、日本人学生に対しても様々な国際交流の機会を提供しており、学部や学科、各学生の関心に合わせて用意された11の留学・海外研修プログラムが特徴的です。例えば、医学部医学科からは毎年、大学に用意されたプログラムだけで1学年約100名のうち約20名の学生が数か月にわたる留学や海外研修に取り組んでいます。プログラムの中には、海外の現場で臨床実習を行うものもあります。
 また、歯学部では、スーパーグローバル大学として、卒業までに海外経験・留学をした学生の割合を2024年までに歯学科で40%とすることを目標としており、海外交流に積極的です。中でも、口腔保健学科口腔保健工学専攻の学生に向けたプログラムでは、2年次に全員参加の特別研修として、台北医学大学(台湾)を訪れ、現地の学生とカービング(歯形彫刻)コンテストに参加し、台湾の歯科技工所の見学を行うプログラムが組まれています。
 東京医科歯科大学は、医療系の大学であることを生かし、実習や演習など専門分野に関する国際交流を行っているといえます。

学生のニーズに合わせたプログラムが充実:広島大学

 国際性ランキングで62位にランクインした広島大学のランクインの秘訣は、2006年度に医学部単独で短期プログラム12名、歯学部単独で短期・長期留学合わせて87名の外国人留学生を受け入れた実績でしょう。
 総合大学である広島大学では、日本人学生に向け、大学全体での留学プログラムのほかに医学部や歯学部のための国際交流プログラムも設置しています。
 広島大学全体での学部生向けのプログラムは16種類あり、海外経験の少ない1年生向けの「STARTプログラム」や、人権などのテーマを海外で深く掘り下げて学べる海外研修「台湾ショートビジット」や「STUDY ABROAD PROGRAM」、6つの現地語学研修、交換留学、海外インターンなど様々です。広島大学では、留学ガイドブック『海外留学のススメ』を発行し、留学に必要な語学力や費用についての解説をするなど、学生の国際交流へのサポートも充実しています。
 さらに、各学部の専門的な知識を海外で学べる機会も用意しています。例えば、歯学部ではカンボジア歯科医療支援として、現地の小学校児童や村民を対象とした簡単な治療、口腔衛生指導等を行うプログラムを行っています。他にも歯学部学生海外派遣プログラムとして、海外の病院見学や講義への参加などを通し、お互いの国際感覚の醸成とグローバル化対応能力の向上、ネットワークの強化に努めています。
 このように、広島大学では初心者向けの海外研修から専門分野の実践的なプログラムまで、学生のニーズに合わせた国際交流に力を入れています。