私立大学の研究資金確保状況

 研究資金の確保は、私立大学にとって重要な命題となっています。文部科学省のデータによると、科学研究費助成事業の新規応募件数は増加傾向ですが、平成29年度の新規採択数は前年度より5%以上も減少しました。さらに、私立大学よりも国立大学の方が、件数・金額ともに、応募数に対する採用数の割合が高い状況です。
 しかし、一方で、研究機関種別の新規研究費配分シェアは、長期にわたり私立大学の拡大傾向が続いています。過去10年間の新規採択分の採用件数の推移を見ると、私立大学の割合は22.7%から27.2%に上昇しているのに対し、国立大学は58.3%から53.6%に低下、私立大学と国立大学の差は徐々に縮小しています。
 応募件数・応募額が私立大学は32,052件・888億円と、国立大学の48,819件・2,374億円に比べて圧倒的に少なく、採用された私立大学の研究は注目されるべきものでしょう。

独自の取り組みで高い研究力を誇る私立大学

 全国には、優れた研究力を発揮して存在感を示す私立大学があります。今回は、その中からいくつか特徴的な研究を行う大学を紹介します。

がん研究で高評価:久留米大学 
 THE世界大学ランキング 日本版の教育リソースランキング112位にランクインしている久留米大学(福岡県)は、医学系の研究が盛んで、中でも“がん研究”は高い評価を得ています。
 久留米大学医療センター内に設置されている「がんワクチンセンター」では、独自に開発したテーラーメイドペプチドワクチン療法を基礎・臨床の両面から研究し、ワクチンの医薬品承認試験やがんワクチン外来機能の充実に取り組んでいます。
 また、久留米大学の「先端がん治療研究センター」は、文部科学省から「ハイテク・リサーチ・センター」に選定され、最先端の研究開発プロジェクトを行う研究組織として、総合的かつ重点的に支援されています。さらに、「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」においては、「先端がん治療学」の各部門が、最先端の研究や地域に根差した研究をしている拠点として認められ、外部資金を得ながら、様々な事業・プロジェクトを行っています。
 そのほかにも、「がん対策基本法」で求められている、がん専門医療人育成のための教育拠点を構築することを目的とした「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」等、数々のプログラムの中で久留米大学のがん研究が採択されています。

様々な連携により工学の応用を探る:工学院大学
 工学院大学(東京都)は教育リソースランキングの103位タイにランクインしています。機械系、化学系、電気系、情報系、建築系の学問分野を持つ工学院大学は、文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」や「私立大学研究ブランディング事業」の対象校に選定された実績があります。
 文部科学省私学助成よって設立された、生体分子システムセンターと機能表面研究センターには、それぞれ他大学にはない様々な研究装置・設備が整っており、それらを活用した研究がすすめられています。
 さらに、他大学に見られない取り組みとして、東京医科大学、東京薬科大学との3大学での連携「医薬工連携プロジェクト」を行っています。この取り組みの中で、工学院大学は医療系への研究環境の改善を図るべく、工学分野の立場からサポート。医療用手術ロボットや人工心臓器、医療用材料の開発などを行い、3大学による、医学系と工学系の連携を目指しています。

研究にかかわる大学の質的向上に積極的:東京理科大学
 教育リソースランキングで93位にランクインしている東京理科大学(東京都)は、科学研究費の採択件数に占める若手研究者の比率が際立って高いという特徴があります。文部科学省のデータによると、平成29年度の採択件数に占める(39歳以下)若手研究者が採択となった件数の割合は38.2%と、全大学の中でもトップクラスの高さを誇ります。
 これは、教育方針として掲げている、真に実力を身につけた学生だけを卒業させるという「実力主義」によるものでしょう。実際に、東京理科大学では学部教育が充実しており、その質の高さは、教育満足度ランキング26位という結果にも表れています。さらに、独自の奨学金制度により、学修や研究に対し熱心な学生が学部・大学院ともに多くなっています。
 さらに、研究力のさらなる向上を目指し、研究戦略・産学連携センターを設置。企業出身者や現役エンジニアを主とした専門スタッフ約30人が所属し、産学連携、研究の事業化、競争的資金の獲得や地域連携をコーディネートしています。研究者情報はデータベース「RIDAI」で一元管理し、学外への研究業績の公開や外部機関へのデータ提供を行っています。これにより、企業と大学の距離を縮め、結果的に研究資金を獲得しやすくなる環境整備が進んでいます。

 最先端の研究者から直接授業を受けられるのは、大学へ通うことのメリットの1つです。大学選びの際には、そこでどのような研究が行われているかについても調べてみると、新たな発見があるかもしれません。