地方国立大学の魅力
近年のノーベル賞受賞者には、地方大学出身者が多いことが、様々なメディアで取り上げられています。地方の大学では、財政・学生数などの環境が厳しい中で、各界に貢献する重要な研究をしており、地方大学ならではの取り組みは注目に値します。
地方の国公立大学は、各府県の歴史、文化、経済と密接につながっているため、その地域ならではのユニークな研究が盛んです。地元の企業や学校等で働きたいと考える学生も多く集まる傾向にあり、地域活性化につながっています。これは、産学連携が盛んで地元との結びつきが強いことなどが背景にあると考えられます。
さらに、地方の大学は、学修に真面目に取り組める環境も整っています。科学研究の現場に詳しいサイエンス作家の竹内薫さんは、産経新聞の紙面で「地方大学にも優れた先生はたくさんいる。(中略)大学受験で燃え尽きることもなく、じっくり学問と向き合えるのでは」と指摘しています。
そこで、地方大学の中でも、世界に通用する、特にハイレベルな研究を展開している国立大学を紹介します。まずは、前編として、西日本の国立大学3校を取り上げます。
ハイレベルな研究成果を残す西日本の国立大学
深層科学で期待を集める:愛媛大学
「教育リソース」分野で71位にランクインしている愛媛大学では、深層科学、鉱物系というユニークな分野での研究が盛んです。それに関連した「地球深部ダイナミクス研究センター」は、世界トップレベルの設備を備え、センター長に入舩徹男氏(日本高圧力学会所長)をはじめとした優秀な教員を多く迎えるなど、研究環境の面でも整っていると言えるでしょう。
この分野の研究成果として、2003年に愛媛大学が合成に成功した「ヒメダイヤ」は世界一硬いとされる物質です。「ヒメダイヤ」は、最先端の電気抵抗測定機械に利用されるなど、今後、様々な分野での応用が期待されています。
また、大学内の社会連携推進機構では、紙産業イノベーションセンターや南予水産研究センターなどの産学連携機関を設置しており、地元企業とも積極的に連携しています。
乾燥地研究で世界的に注目を集める:鳥取大学
鳥取大学は、「教育リソース」分野で61位タイにランクインしています。鳥取大学の代表的な研究は、乾燥地に関する研究です。鳥取県には、国内では珍しい砂丘があるという地理的な特徴があり、鳥取大学は、この分野の研究で唯一無二の好環境として活かしています。
鳥取大学には、「乾燥地研究センター」という研究の核となる施設があります。この施設は、乾燥地研究に組織的に取り組む日本唯一の研究機関として認知され、同センターの研究には、海外からも熱い視線が注がれています。
特に、干ばつ問題に苦しむ中東やアフリカからの注目度は高く、その期待の大きさは、サウジアラビア国営石油会社のサウジアラムコによる研究支援などに表れています。加えて、留学生も多く、乾燥地研究の学生の半分近くが留学生という刺激的な環境である一方で、鳥取大学のチームがタクラマカン砂漠での研究に参加するなど、国際的にも十分な役割を果たしています。
さらに、乾燥地研究として日本の中心的役割を担っているため、共同研究拠点である鳥取を多くの研究者が訪れ、地域の観光の1拠点としての役割も望まれています。
歴史ある感染症研究に実績:長崎大学
「教育リソース」分野で43位にランクインしている長崎大学は、長崎医科大学という、歴史ある医科大学が前身の大学です。大学の基本的目標の1つ目に、「熱帯医学・感染症、放射線医療科学分野における卓越した実績を基盤に、予防医学や医療経済学等の関連領域を学際的に糾合して、人間の健康に地球規模で貢献する世界的”グローバルヘルス”教育研究拠点となる」と、医学系にルーツを持つ大学ならではの目標を掲げています。
歴史的に見ると、長崎県は、鎖国中も出島から世界に開かれた地域でした。また、外国の最先端の疫病知識が、まず始めに、長崎から日本に入ってきたという史実もあります。そのような背景のもと、長崎大学は、医学の中でも特に感染症研究に力を入れています。
そのため、大学院に熱帯医学・グローバルヘルス研究科という感染症研究に特化した研究科があり、熱帯医学研究所も設置されています。また、ケニアやベトナムにも研究拠点があり、国際的な研究が可能です。さらに、危険性が非常に高い感染症として知られる「エボラ出血熱」も扱えるBSL4規格に対応した研究拠点の整備が、国策として進められるなど、国からも重要な研究拠点としての役割が期待されています。
加えて、東芝メディカルシステムズやアステラス製薬などの企業とも共同研究を進め、多方面で研究の中心となり、産学官連携を高いレベルで実現していることが伺えます。
紹介した3大学は、それぞれ独自の分野で圧倒的な存在感を示しています。教育リソースの高さにもそれが表れていると言えるでしょう。教育リソースのランキングとともに、「大学でどのような研究をしたいか」「研究をするのに十分な設備はあるか」などを調べてみると、大学の新たな特徴を発見できそうです。