教育成果のスコアを大きく伸ばした大学

 THE世界大学ランキング日本版2018のランクは、4つの分野のスコアが基になっています。その分野ごとのランキングも「分野別ランキング」として発表されています。そのうち「教育成果」分野では、「どれだけ卒業生が活躍しているか」を見ることができます。このスコアは、企業人事担当者からの「大学のイメージ」に関する評判調査と、高等教育機関研究者の「大学の教育力」に関する評判調査によって決められています。
 2018年の分野別ランキング<教育成果>50位以内にランクインした大学で、前年に比べ、教育成果のスコアを特に大きく上げた大学に、横浜国立大学、甲南大学、名古屋市立大学の3校があります。
 そこで、スコアに影響の大きいと考えられる、各大学の「キャリア教育」と「教育・研究」に焦点を絞り、紹介します。

「教育成果」がスコアアップした背景

学部の教育内容に応じたキャリアプランを描く:横浜国立大学
 横浜国立大学は日本版ランキング2018において、教育成果分野15位と、前年に比べ10位のランクアップを果たし、スコアも10.4ポイント上昇しました。特徴的な取り組みとして、2013年度に導入された「YNU学生ポートフォリオ」という自律的な学修を促進するためのWebツールが挙げられます。
 「YNU学生ポートフォリオ」は、大学生活で得た経験や、その時々の思い、成果を得るまでのプロセス等を蓄積していくとともに、学修状況を振り返ることにより、学修を深化させ、将来のキャリアデザインに生かすことを目的にしています。学生は、自身の活動を蓄積・振り返り、自身の課題や成功までのプロセスが可視化できるようになりました。さらに、「YNU学生ポートフォリオ」は、学修活動や研究活動の成果を就職活動時に外部にアピールする際にも活用できます。
 このように、横浜国立大学は学生のキャリアデザインを積極的にサポートしています。そのほかにも、「土木工学と社会」「今、教師に求められるもの」など、各分野に分かれたきめ細かいキャリア教育を授業科目として設置し、学生のキャリアデザインの育成を図っています。
 また、各学部では、学部の特徴に合わせた独自のサポートが行われ、例えば経済学部の就職支援サイトでは、学部の先輩のインターンシップ体験記を読むことができます。
 これらのキャリア支援が、企業からの評判につながったのではないかと考えられます。
 また、横浜国立大学は研究分野において、International Conference on Advances in Electrical, Electronic and Systems EngineeringのBest Student Paper Awardや、一般社団法人 日本建築学会による最優秀賞、第52回電気保安功労者経済産業大臣表彰など、学生や教員に多くの受賞歴があり、2016年度には約120の賞を受賞しています。これらの実績も、研究者からの評判を得た一因だと考えられます。

50種類のユニークなプロジェクトで才能を引き出す:甲南大学
 甲南大学は日本版ランキング2018において、教育成果分野26位タイで、前年に比べ、スコアが33.2ポイントアップし64.8となりました。甲南大学の革新的な取り組みの1つとして挙げられるのが、「KONAN プレミア・プロジェクト」です。
 「KONAN プレミア・プロジェクト」では、先進的なロボットの開発や地域産業に密着したスイーツ研究、さらにはグローバル教育、スポーツ・ボランティア・キャリア支援など、9つのテーマのもとで50以上のプロジェクトを推進しています。
 その1つである「KONANスーパー人材育成プロジェクト」の中に、「KONANサーティフィケイト制度」を設けています。これは、いわゆる授業・研究での学びだけではなく、国際交流や読書、ボランティアやスポーツといった成績評価に表れにくい力を評価認定するという、ユニークなキャリア制度です。この制度において、学生たちには活動時間だけでなく、企画力や発信力も必要とされています。
 ほかには、共通科目の充実を目指し、新たに「共通基礎演習」を導入しています。また、教員と学生、学生同士が交流する時間を増やし、教育効果を高めることを目的に、多人数が宿泊できる新キャンパスを増設するなどの取り組みもなされています。
 甲南大学は、「凡て人は皆天才である」という言葉で「教育は人それぞれが持つ才能を引き出すためにある」と説いた平生釟三郎(ひらおはちさぶろう)が創立した大学です。2019年には100周年を迎え、“甲南新世紀ビジョン”として「人物教育のクオリティ・リーダー」を目標に掲げています。このビジョンの実現のために、「KONAN プレミア・プロジェクト」のように、少人数教育や革新的共通教育の推進などの教育改革に取り組んでいます。これらの取り組みも、教育成果が認められるようになった一因と考えられます。

確かなキャリア実績と未来を見据えたプラン:名古屋市立大学
 名古屋市立大学は日本版ランキング2018で初めてランクイン。教育成果分野40位です。名古屋市立大学の特徴は、学部の壁を越え、教職員が一体となって優れた人材を育成しているほか、先端的研究を世界へ発信したり、市民の健康福祉などの社会貢献に寄与したりしていることです。
 2014年に策定された「名市大未来プラン」において、時代の変化に的確に対応し、名古屋市立大学の強みを生かしつつ、15年後の明るい未来を築くことを目標に掲げています。このプランのもと、2016年度には、医学部で新たな術式や先端的診療機器の創出を目指した「先端医療技術イノベーションセンター」を開設しました。また、全学部において豊かな人間性を育む目的で、企業などの協力による教養教育科目を設けています。2017年には新聞社と協力した「新聞報道の現場から」や日本棋院と連携した「囲碁に学ぶ」などの特色ある科目を開講しました。
 キャリア関連では、就職率の高さ、資格取得率の高さが特徴です。特筆すべきは医師国家試験で、東海地域で医師国家試験合格率1位の実績を誇っています。さらに、名古屋市立大学は、企画広報課を新設し、企画立案機能の強化や機動的・効果的な広報体制の充実を図っています。それに伴い、上記のような取り組みの発信が強化されたことが、企業・研究者からの評判につながったのではないかと考えられます。

 これらの3校に次いで、秋田大学、東京外国語大学、電気通信大学も教育成果のスコアを9ポイント以上伸ばしています。これらの大学のキャリアサポートや研究促進に向けた取り組みについて調べてみると新たな発見があるかもしれません。