国公立大学・私立大学の学費と財源の違い

 毎年、多くの大学進学希望者やその保護者の頭を悩ませる、大学の入学料・授業料。日本の大学では、その大学の設置区分が国立・公立・私立のいずれかによって、おおよその入学料・授業料が決まります。
 文部科学省によると、2017年度の入学料・授業料は、国立大学の標準額は、入学料は282,000円、授業料は535,800円。公立大学(地域外からの入学者の場合)は平均で、入学料394,225円、授業料538,294円。2016年の私立大学入学料は平均253,461円、授業料は平均877,735円です。なお、多くの公立大学は、その設置者である地方公共団体の地域内からの入学者か、地域外からの入学者かによって、入学料が異なります。
ここで、大学の設置区分別に、財源を見てみましょう。
 THE世界大学ランキング日本版2018(以下、日本版ランキング2018)の「教育リソース」分野のランキングを見ると、上位には国立大学が多くランクインしています。その理由には、国からの補助が相対的に厚い点が考えられます。文部科学省の「国立大学法人等の平成28事業年度決算について」(2018年)によると、2016年度の国立大学の経常収益のうち、運営費交付金が34%を占めています。
 公立大学の主な財源は、主に授業料などの学生の納付金と、大学の設置者である地方公共団体からの拠出です。地方公共団体である都道府県市の負担額は、公立大学の収入の約6割を占めています。
 国や地方自治体からのバックアップの少ない私立大学は、帰属収入(いわゆる収入)の約半分を学生納付金によって賄っています。その分、競争的資金や産業界との連携など外部からの収入獲得にも力を入れています。また、経費削減など様々な取り組みで経営を安定させています。
 このように、財政面でも国公立大学・私立大学では違いが見られます。

奨学金制度から浮かび上がる各大学の取り組みの特徴

 日本版ランキング2018は様々な基準をもとに総合的な判断をしているため、総合ランキングや分野別ランキングで同順位の大学でも、それぞれのランクイン要因は異なります。
 例えば、「教育リソース」分野であれば、「学生一人あたりの資金」「学生一人あたりの教員比率」「教員一人あたりの論文数」「大学合格者の学力」「教員一人あたりの競争的資金獲得数」の5項目が考慮されています。そのため、各項目を総合的に見て同程度のリソースを持った大学であっても、それらをどのように生かしているのかに違いが出ています。これは、大学の戦略や方針によって異なり、リソースの配分状況からは、各大学の目指す姿がわかるでしょう。
 そこで、「教育リソース」分野のランキング56位タイの大学、慶應義塾大学、京都工芸繊維大学について、奨学金制度の側面から、各大学が力を入れる取り組みを見ていきます。

国立大学:京都工芸繊維大学
 国立大学の京都工芸繊維大学は、社会人学生を対象とした「京都工芸繊維大学地域創生Tech Program社会人学生奨学金」が特徴的な奨学金です。これは、大学独自のもので、「地域創生Tech Program」の募集区分「社会人」において合格し、入学する学生が対象です。
 「地域創生Tech Program」は、「グローバルな視野を持って工学・科学技術により地域の課題を解決できる国際高度専門技術者を育成する」ことを目指し、2016年4月から開設された学部共通プログラムです。バイオ・材料化学、メカトロニクス設計、デザイン・建築の3コースがあり、プログラム共通科目として地域志向科目を履修します。さらに、京都府北部や北近畿をフィールドとして、地域課題をテーマとした学修や地元企業でのインターンシップを行います。
 その背景には、京都工芸繊維大学が地域貢献事業に積極的に取り組んでいることがあります。京都工芸繊維大学は、特に人口流出が進む京都府北部・中部地域を中心として、府内各地の地域創生を担う人材育成を推進する「北京都を中心とする国公私・高専連携による京都創生人材育成事業」を行っています。この取り組みは、文部科学省COC+事業に採択されました。その中でも「地域創生Tech Program」は、COC+事業の核となるプログラムです。
 京都工芸繊維大学では、このような機会の提供によって、意欲ある学生が地域に定着して活躍できる人材になること、また、産学官共同研究の強化につなげることを目指しています。社会人に向けた奨学金によって、入学の門戸を広げることが可能になると言えます。

私立大学:慶應義塾大学
 私立大学の慶應義塾大学独自の奨学金は、すべて返済の必要がない給付型で、その数は約110種類と、かなり多様な制度が設置されています。その中には、学部や研究科が独自に設置しているものも多くあります。その実績として、2015年度は約11.5億円、延べ2700人の学生に奨学金が給付されました。国内最大規模の奨学基金で運用し、給付型奨学金のための財源の安定化に力を入れていることが、このような大規模の給付を可能にしています。
 また、慶應義塾大学には、慶應義塾を構成している教職員、学生、卒業生が協力し合うという「社中協力」の精神から、卒業生などの寄付による奨学金が多数あります。寄付による奨学金は給付額、採用人数、時期も様々で、留学生・大学院生など多様な学生に機会が開かれています。さらに、これらの奨学金を利用している学生のコメントからは、将来、自身も後輩のために奨学金に協力したいという、世代を超えて援助し合うサイクルが根付いていることがわかります。
 慶應義塾大学では、地方出身者向けの奨学金が充実していることも特徴です。学部生向けの「学問のすゝめ奨学金」は、首都圏以外に住む受験生に安心して進学先に選んでもらえるよう、一般入試受験前に採否の結果がわかります。また、この奨学金は、道府県をブロックに分け、その地域ブロックごとに選考を行うことによって、採用に地域的なばらつきが起こらないように調整されています。様々な学生に対して平等な学修環境を提供する方策と言えるでしょう。また、初年度は入学料相当額の加算支給もあり、学生生活に対する丁寧な配慮がうかがえます。

 このように、ランキングで同順位であっても、1つのテーマを軸に見ていくと、それぞれの大学の特色の違いが見えてきます。ランキングで順位の近い大学でも、関心のある制度を調べて比較すると、納得する大学選びができるのではないでしょうか。