データサイエンティストの需要の高まり
近年のデジタル技術の進歩に伴って、ビジネスや研究の現場には大量のデータがあふれるようになりました。それにより、「データサイエンス」が注目され始めています。そして、大量のデータから意味のある情報、法則、関連性などを見いだして、得られた結果を社会に役立つ形で活用する「データサイエンティスト」への需要も高まっています。
データサイエンスでは、情報処理、AI、統計学などのいわゆる情報科学系の能力だけでなく、データを目的に沿って使用できるように整理するデータエンジニアリングのスキルや、ビジネスや研究の課題を理解し、解決する課題解決能力も必要です。
データサイエンティストは、金融、交通・流通、IT、サービスなどの幅広い業種で需要が高い人材です。例えば、金融業界では、店舗やコールセンターに寄せられる「顧客の声」を大量の音声データとして保存しています。そして、情報処理技術によりそれらのデータから商品やサービスに関する意見の変化を読み取り、顧客サービスの改善に役立てています。また、ある輸送機器工業メーカーでは、カーナビゲーションシステムの走行データを収集・分析することにより、渋滞を回避するルートの案内や、交通事故が多く発生する場所での安全運転の呼び掛けなどのサービスを行っています。
近年では、家電や家具など様々なモノとインターネットをつなぎ、情報交換や制御を行う技術である「IoT」が注目されています。IoT化が進むと大量のデータが得られるため、それらを適切に処理し、改善や開発に役立つデータサイエンスは、今後ますます需要が高まると予想されます。
このような社会の動きに大学も注目し、データサイエンス教育に取り組み始めています。
データサイエンス教育に力を入れている大学
THE世界大学ランキング日本版2018(以下、日本版ランキング2018)は、4つの分野別ランキングを発表しています。このうち「教育成果」分野のランキングは「どれだけ卒業生が活躍しているか」を見るもので、企業人事の評判調査と、研究者の評判調査がスコアのもとになっています。
そこで、「教育成果」分野のランキングで上位にランクインした大学の中から、ビジネスや研究に深く結びつくデータサイエンスを学べる3つの大学を紹介します。
2つのコースでコンテンツと情報処理のスペシャリストを育成:広島大学
広島大学は、分野別ランキング「教育成果」で13位にランクインしています。
広島大学では以前から、工学部の情報工学課程において、情報処理技術にフォーカスし、ハードウェアやソフトウェアの解析・設計に必要な知識と技術を持つ人材を育成していましたが、2018年4月に情報科学部を新設しました。情報科学部では、旧情報工学課程での学びに加え、新たにデータコンテンツの理解と、それに基づく問題解決能力やデータの効率的な処理技術を体系的・総合的に学べるよう、教育の再編成が行われました。
情報科学部の学生は、3年次よりコンテンツに注目したデータサイエンスコースと、情報処理に重点を置くインフォマティックコースの2つに分かれます。
データサイエンスコースでは、データサイエンスの応用に重点を置き、科学的理論と分析を様々な分野に結びつけるスキルの育成をめざしています。このコースのカリキュラムには、互いに関連した複数個のデータの因果関係を検討する「多変量解析」、人間行動を科学的に分析する「行動計量学」などがあり、人の話した内容からいわゆる“文脈”を読み取る方法論などを学べます。
また、インフォマティックコースでは、豊富な情報処理技術に基づいた問題解決能力を持つ人材の育成をめざしています。このコースでは、デジタルカメラの顔認証システムなどに使われる人工知能や、大量のデータを人工知能に活用させるための機械学習を学ぶ科目などがあります。
広島大学情報科学部が輩出するデータサイエンティストは、製造業、製薬会社、研究機関などあらゆる分野での活躍が期待されています。
実践的なプログラミングのカリキュラム:関西学院大学
分野別ランキング「教育成果」44位タイの関西学院大学は、2002年、理工学部に高度なネットワーク社会を支える幅広い知力と創造力の育成をめざした情報科学科を開設しました。
カリキュラムの特徴として、1年次の学習目標に「キャリアデザインとモチベーション」、4年次に「情報記述者・研究者となるための実践力とマインドの育成」を挙げていることがあります。関西学院大学では、学生が知識や技術だけでなく、問題意識や将来へのビジョンを得ることを重要視していると言えます。特に、4年次の卒業研究では、文献の読解力、問題の発見・解決力、文章力、プレゼンテーション能力を総合的に養います。
情報科学の教育・研究としては、「情報の本質とその可能性」に焦点を当てています。プログラミングや数学の基礎から、コンピュータを用いたスポーツの戦略解析、最適化手法によるアニメの自然なCG作成といった新たな領域まで、幅広い知識と創造力の育成をめざします。
2013年には、情報科学科の4年生のグループが、ウイルス予報システム「Virus Caster」を提案。全国131チームが参加したトレンドマイクロプログラミングコンテストにおいて第1位に輝きました。
卒業生は、クラウドサービスの企画・開発・運用のほか、アメリカの銀行システム基盤に関する技術戦略の策定や基盤構築プロジェクトの企画設計などに関わり、全世界で情報通信の発展に貢献しています。
首都圏初のデータサイエンス学部:横浜市立大学
横浜市立大学は、「教育成果」分野のランキングで57位にランクインしました。横浜市立大学は、2018年4月に首都圏で初めてデータサイエンス学部を設置した大学です。
データサイエンス学部の教育は、3つ特色が挙げられます。1つ目は、社会で不可欠なコミュニケーション能力・発想力・ビジネス能力を養うため、データサイエンス教育に加え、文系・理系の枠組を超えた幅広い分野を学べる文理融合学部であることです。そのため、データサイエンス学部では、政治、経済、金融、公共、生命科学など、様々な科目の履修が可能です。
2つ目の特徴は、企業や医療機関と連携した課題解決学習を行う「現場重視」のカリキュラムです。実務を体験し、データが発生する「現場」の知識を学びながら、同時にデータ分析を通じたコミュニケーション能力や課題発見・解決力を培います。
3つ目は、国際水準の英語力を習得できることです。横浜市立大学では、大学での知的活動を英語で行えるレベルのコミュニケーション能力を身に付けることを目的とし、すべて英語で行われる少人数制の「プラクティカル・イングリッシュ」を全学生が履修します。また、データサイエンス学部では、TOEFL500点相当の到達水準が、3年次の進級要件として設定されています。
「教育成果」分野のランキングからは、どれだけ卒業生が活躍しているかを知ることができます。将来、めざす職業を軸にして「教育成果」分野のランキングを見てみると、大学選びの参考になるでしょう。