ランクアップ5大学・新ランクイン16大学

 イギリスの高等教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(以下、THE)」が、2018年9月26日に、15回目となる世界大学ランキング2019(以下、世界ランキング2019)を発表しました。前回から約150校多い、世界86カ国1,258大学がランク付けされています。
 日本の大学は103校がランクイン。国別のランクイン大学数で見ると、日本は第2位となり、史上初めてイギリスをランクイン大学数で抜きました。世界ランキング2019で、日本の大学は大きく躍進したと言えます。
 ランクインした日本の大学のうち、2018年のランキングからランクアップしたのは5大学、新たなランクインは16大学です。それぞれの顔ぶれを紹介します。

世界ランキング2019でランクアップした大学

 世界ランキング2019において、世界ランキング2018から順位を上げた日本の大学は、東京大学、京都大学、藤田医科大学(藤田保健衛生大学から2018年10月10日に名称変更)、首都大学東京、近畿大学の5大学です。
 特に、京都大学は昨年の74位タイから9位ランクアップし、65位になりました。世界ランキング2018から、ボストン大学、南カリフォルニア大学、フンボルト大学ベルリンなどを追い抜いています。京都大学の順位の上昇は、主に「教育(教育環境)」「被引用論文(研究影響力)」「産業界からの収入(知の移転)」のスコアの改善によると分析されています。特に、産業界からの収入では世界トップ40位という高いスコアを獲得しています。

 京都大学の特徴的な取り組みを紹介しましょう。京都大学では、2015年に、進行性骨化性線維異形成症(以下、FOP)という希少難病に対して、病態の再現やメカニズムの一端を明らかにしました。FOPは、200万人に1人という極めて希な疾患で、これまで病気が進行するプロセスが解明されておらず、有効な治療法が見つけられない状況でした。そこで、戸口田淳也 iPS細胞研究所教授、池谷真准同教授、松本佳久名古屋市立大学整形外科臨床研究医らの研究グループは、患者の遺伝情報をもつ対照iPS細胞を作製し、それぞれから軟骨細胞を誘導。培養皿の中で病気を再現し、病気の引き金となる物質の特定に成功しました。この研究の成果は、幹細胞に関する国際ジャーナルである「Stem Cells」に公開されました。
 さらに、2017年には、この研究で世界初のiPS細胞を活用した創薬の治験が行われました。研究グループは、治験によって、シロリムス(別名ラパマイシン)という、既に他の疾患の治療薬として国内でも使用されている薬剤が、FOPの進行を抑制することを確認しました。
 こういった研究の成果が、順位を上げた一因になっているのではないでしょうか。

世界ランキング2019に初めてランクインした大学

 世界ランキング2019で新たにランクインを果たした大学は、2017以前からの再ランクインを含めると、帝京大学、日本医科大学、立教大学、愛知医科大学、兵庫医科大学、札幌医科大学、東邦大学、東京医科大学、青山学院大学、中部大学、群馬大学、室蘭工業大学、お茶の水女子大学、琉球大学、静岡県立大学、東京農業大学の16校です。
 その中でも、帝京大学は初ランクインにもかかわらず、世界のトップ500校に入りました。帝京大学は、ランクインした日本の大学の中で、被引用論文(研究の影響力)のスコアが最も高くなっています。被引用論文とは、1論文あたりどれだけ引用されているかを示すものです。世界ランキング2019では、この研究の影響力を世界の学術コミュニティへの知識の貢献として重要視し、この指標分野の重みづけを30%としています。

 そこで、帝京大学の研究の取り組みを見てみましょう。帝京大学は、世界大学ランキング2019の調査対象期間である2017年度に、2つのユニークな研究をスタートさせました。
 1つ目は、「帝京大学シルクロード学術調査団」です。帝京大学は2016年4月、帝京大学文化財研究所および文学部の教員を中心とした「帝京大学シルクロード学術調査団」を結成しました。これは、ユーラシア大陸を東西に貫く文明の交流の道であるシルクロードの学術調査を目的にしたものです。研究テーマは、シルクロード沿いの拠点都市の1つであったアク・ベシム遺跡の発掘を通して、その当時の人びとの生活、歴史、文化を解き明かすことです。2018年の4月から5月にかけて、第6回目のアク・ベシム遺跡調査を行い、そこで、唐の西方進出の軍事・行政拠点であった安西四鎮の1つである「砕葉鎮城」の7世紀後半のものと推定される建物の一部を発見するという成果を収めました。
 2つ目は、「グローバルな視点からの危機管理3カテゴリ(事故・災害・テロ)の学際的エビデンス構築」です。帝京大学には医療系3学部と、高度救命救急センターを含む災害拠点病院である医学部附属病院が同一キャンパスに集結しています。「危機管理」研究は、その強みを生かしてスタートされたものです。プロジェクトは3つのステージに分けて行われ、第1ステージでは、2020年にオリンピック・パラリンピック開催を控えた首都東京の「危機管理」にフォーカスを当てています。医療系学部が有機的に連携して、薬物中毒・パンデミックや細菌・ウィルステロなど、大都市における危機対応の基礎的・応用的研究を行います。
 新しい発見や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどで注目を集めるこれらの研究は、インパクトが大きいと考えられます。