日本の研究力は質量ともに低下

 「論文の質と量の国際比較」の順位表(図表1,2)に、自然科学系論文の世界シェア上位10か国が示されています。図表1は、全論文数を基にしたシェアで、論文の 「量」に注目。図表2は、被引用数の高い論文に絞った中でのシェアで、論文の「質」に注目した順位です。日本はこの10年で、「量」は2位から4位へ、「質」は4位から9位へと順位を下げました。
 論文を分野別に見てみると、自然科学系分野における「論文の分野別比較」のグラフ(図表3)から、日本は物理学のシェアがやや高いことがわかります。物理学は、日本において、ノーベル賞受賞者が多い分野でもあります。今後は、物理学の研究にリソースを割くことが、強い分野を創出する鍵となるかもしれません。
 しかし、アメリカや中国と比べてみると、日本は「質」より「量」の論文シェアが高く、質的に強みを発揮しているといえる分野がありません。物理学以外に国際的な競争力を発揮できる分野を創出することも、日本の課題といえそうです。
 一方で、「社会科学の論文数」の順位表(図表4)を見てみると、日本の研究は社会科学分野でも順位の低下が見られます。「経済学・経営学」での日本の順位は15位と、自然科学系における国際比較よりも低い順位になっています。ただし、社会科学系では、研究発表において、著書などの論文以外の手段が重視される傾向があるため、論文のみの質や量が必ずしも研究それ自体の質や量を表しているとは言い切れない点を考慮する必要はあるといえます。

THE世界大学ランキング2019との関連

 世界ランキング2019では、ランクインした大学のスコアを見ることができます。このうち、「研究」分野では、東京大学が日本の大学の中で最も高いスコアを獲得しています。
 世界ランキング2019の「研究」は、総合スコアの30%を占める指標で、研究者を対象とした「評判調査」18%、教員数に対する「研究関連収入」6%、研究者一人当たりの学術雑誌での発表論文数である「研究の生産性」6%という3項目を基にスコア化されています。
 この「研究」分野において、東京大学は87.2と高いスコアを獲得しています。東京大学の世界ランキング2019での順位が42位であるのに対し、「研究」分野のスコアでは、全ランクイン大学の中でも19番目に位置しています。

 「被引用論文(研究の影響力)」の分野では、帝京大学が、日本の大学の中で最も高いスコアを獲得しています。
 世界ランキング2019の「被引用論文(研究の影響力)」は、総合スコアの30%を占める指標で、大学の、新しい知識や考えを広めるという役割に注目しています。「被引用論文(研究の影響力)」のスコアは、その大学の研究成果がどれだけ世界的に引用されているかという、論文被引用回数を基にしています。
 「被引用論文(研究の影響力)」において、帝京大学のスコアは93.1と、かなり高いといえます。帝京大学の順位は401–500位ですが、「被引用論文(研究の影響力)」のスコア単体では、全ランクイン大学の中で86位です。

 このように、日本の大学は、「研究」「被引用論文」それぞれで、高いスコアを獲得した大学が存在します。しかしながら、「研究」「被引用論文」のどちらでも高いスコアを獲得した大学は見当たりません。つまり、研究で多くの成果を出し、さらに注目を集めている大学が少ないといえるでしょう。
 このことは、先述の研究の「量」と「質」の関係と類似しています。

 低迷しているように思える日本の研究ですが、実は、複数の国への特許出願数であるパテントファミリー数では、日本は世界1位のシェアを保っています。また、パテントファミリーに引用されている論文数でも、日本はアメリカに次いで2位です。このことから、日本は技術に強く、日本が出す論文は技術面で注目されているといえます。
 今後の日本国内の研究力向上に向け、研究の創造性を組織で高めることが期待されます。