自学の強みとする分野の目標を選んでエントリー可能
「THE大学インパクトランキング」は、国連のSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の枠組みを通して大学の社会貢献度をランキングするもので、THEにとって研究力重視の世界ランキング、教育力重視の日本版ランキング等に次ぐ"第3のランキング"と言えます。
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に明記された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するために達成すべき目標(ゴール)が、「貧困」「教育」「ジェンダー」「エネルギー」「気候変動」など17分野で設定されています。先進国を含む全ての国が行動する「普遍性」、地球上の誰一人として取り残さない「包括性」、全てのステークホルダーが役割を担う「参画型」などをコンセプトとして掲げています。
「THE大学インパクトランキング2019」では、SDGsの17項目のうち、大学と関係が深い11項目に関する取り組みが指標化されました。
総合ランキングにエントリーする場合は「SDG17 実施手段」は必須項目で、これに加えて3つ以上のSDGについてデータを提出し、「SDG17」以外でスコアの高い3つがランキングに反映されます。これとは別にSDG別のランキングもあり、こちらにエントリーする場合は自学が強みとする分野のSDG1つ以上についてデータを提出します。
インパクトランキング第1位はニュージーランドのオークランド大学
初のインパクトランキングには560大学がデータ提出し、THEが462位までの総合ランキングを作成。その結果は、韓国科学技術院(KAIST)で開かれた「イノベーション&インパクトサミット」で4月3日に発表されました。
トップはニュージーランドのオークランド大学で、「SDG3 保健」でのトップや「SDG17 実施手段」の1位タイをはじめ、「SDG5 ジェンダー」(6位タイ)、「SDG16 平和」(7位)などで高スコアを獲得しました。総合ランキング2位と3位(同率)はいずれもカナダのマクマスター大学とブリティッシュコロンビア大学、同率3位はイギリスのマンチェスター大学でした。
トップ10の国・地域別ランクイン数はカナダ3、イギリスとスウェーデンが各2、ニュージーランド、イタリア、香港が各1でした。イギリスとアメリカの大学がトップ10を独占する、研究重視の「THE世界大学ランキング」とは、大きく異なる結果となりました。
総合ランキングには日本の大学42校がランクイン、京大が日本トップ
エントリー数が最多だった日本からは総合ランキングに42大学が名を連ね、京都大学の48位が最上位でした。東京大学(52位)、慶応義塾大学(91位)と合わせ3校が100位以内に入りました。
SDG12(生産・消費)の100位以内に日本から12大学がランクイン
次に、日本の大学の上位ランキングをSDG別に見ていきます。
「SDG9 イノベーション」では、2位の東京大学を筆頭に東京工業大学、東北大学、北海道大学など7校が100位内にランクイン。このSDGは、特許数やスピンオフ企業数、学問領域ごとの教員数などが指標になっており、強靭なインフラ整備と持続可能な産業化を通じた技術革新への貢献度の高さを世界に印象づけた格好です。
「SDG12 生産・消費」では、100位以内に12大学がランクインし、三重大学(31位)、京都大学(33位)、香川大学(39位)、金沢大学(40位)などが名を連ねます。プラスチック製品の使用抑制、廃棄物の排出抑制・リサイクル等、持続可能な消費行動に対する日本の大学の関心の高さがうかがえます。
「SDG4 教育」では神田外語大学が62位で日本トップでのランクインを果たし、京都大学、鳥取大学、宇都宮大学(いずれも101-200位)などが続きます。このSDGは、施設開放や公開講座開講といった地域における教育リソースの公開、社会人向けプログラム開講など、生涯学習機会の提供における貢献度などを測る目標です。
各SDGでランク付けされた日本の大学は、下表の通りです。
THE幹部はサミットで、「日本の大学はエントリー数が最多で、いくつかのSDGで多くランクインした」と讃えました。
サミットに参加した東京工業大学の梶原将副学長は、「SDG9 イノベーション」12位、総合ランキング101-200位という自学の結果について「技術革新に加えて社会貢献も本学の重要な役割だと認識し、新興国や発展途上国等への支援なども長く続けてきた。今回、そういった国際的な貢献を指標とするランキングができ、光が当てられたことは喜ばしい」と話しました。
次年度以降もインパクトランキングを継続
THEは、研究と教育に並ぶ大学のミッションは「知識移転と革新による社会貢献」であると位置づけ、地球規模の課題の解決において「研究成果の還元」「専門的人材の育成」「地域・国家・世界などさまざまなレベルの機関との協働」「自学の政策・運営による実践」などによって貢献する大学にインパクトランキングで光を当てます。研究と教育以外の強みを持つ大学が、その強みと関連する目標を自ら選んでエントリーできる点が従来のランキングとの違いです。
総合ランキングでは、必須項目の「SDG17 実施手段」以外の10の目標間に重みづけの違いはなく、すべて等しく扱われるため、どの目標を選ぶかによってランキングの結果に有利・不利が生じることはありません。その結果、大学の多様性が浮かび上がり、ランクインすることが大学のブランディングの強力な要素になるはずです。地域社会に根差した取り組みを通して大学の存在意義を可視化するという点で、日本の大学の今日的課題に対応したランキングだと言えます。
THEはサミットで、次年度以降も毎年、インパクトランキングを作成することを明らかにしました。地方大学、中小規模の大学を含む多くの大学がその名を世界に発信し、ブランド力を高めるチャンスとなる、このランキング。日本の大学の関心は、今後、さらに高まると予想されます。