日本における交通事故の状況

 2018年における日本国内の交通事故の状況は、公益財団法人交通事故総合分析センターによると、以下のとおりです。
 ・交通事故発生件数:430,601件
 ・死者:3,532人
 ・負傷者:525,846人
 その中で、死者全体の55.7%(約1,967人)が65歳以上の高齢者です。また、交通事故による死者数は全体で減少傾向にありますが、警察庁によると、75歳以上の高齢運転者による死亡事故の割合は2018年で460件と、2017年より42件増えています。
 現代の日本では、高齢社会での交通安全が課題になっているといえます。

交通事故防止のための研究を行う大学

 交通事故のない未来に向けた研究や、それに関わる教育を行っている大学を紹介します。交通事故の防止には、自動車の機能の高度化や、自動運転技術や既存の自動車に装着するセンサー等の開発、都市と交通の設計など、さまざまなアプローチがあります。

■群馬大学
 群馬大学では、「2020年に限定地域でシャトルバスの完全自動運転を実用化する」という目標に向けて、研究が進められています。
 群馬大学の次世代モビリティ社会実装研究センターでは、次世代の移動手段に関する研究と、社会への普及をめざした活動が行われています。次世代モビリティ社会実装研究センターでは、自動運転技術をドライバーへの補助機器が高度化したものとして捉えるのではなく、今までの自動車とは別種のものだと考えています。また、「自動運転技術は、全く新しい機能や応用、そして社会的な広がりを持つ」との考えにより、研究だけでなく完全自動運転の「よろず相談所」として、様々な企業・組織などとの協力体制を形作っています。
 2018年12月14日から2019年3月31日にかけての実証実験では、自動運転シャトルバスの運行を営業路線で行い、一般乗客が乗車するという試みが行われました。この実験は、前橋市、日本中央バス株式会社と共同で実施されました。運賃収受を行いながらの自動運転実証実験としては、全国初の取り組みとなりました。

■芝浦工業大学
 芝浦工業大学の自動走行研究領域では、車に装着するだけで自動運転が可能となる自動運転セットボックスの研究・開発が行われています。自動運転システムは価格が高く、また、交通量の多い地域から実用化されることが考えられ、自動運転を最も必要としている地方の高齢者に届きづらいためです。
 自動運転セットボックスの研究の一つが、赤外線により対象物との距離を測るデバイス「レーザーレーダー(LiDAR: Light Detection And Ranging)」のデータ処理です。伊東敏夫教授らは、日本が諸外国に比べて遅れているというLiDARについて、「確率共鳴」という手法を用い、従来よりも遠くにいる生体を認知できる技術を提案しています。
 当面、主流になると考えられる「部分自動運転における最適なヒューマンインターフェース」の研究も行っています。例えば、現代の自動車に搭載されているCAN(Controller Area Network)を利用して得たドライバーの操作情報や車についてのデータをAIで処理することにより、ドライバーの疲れや眠気を感知するという、認知科学領域にもまたがる研究を行っています。これによって、従来よりも集中力が途切れがちになると予想される部分自動運転でのドライバーに対し、適切にフィードバックすることが可能になります。

■豊橋技術科学大学
 豊橋技術科学大学の建築・都市システム学系では、交通計画についての教育・研究がなされています。その中でも、都市・交通システム研究室では、交通現象・交通行動やその発生の源である都市構造を科学的に捉え、安全・便利・快適で地域社会と調和のとれた交通システムや街づくりのあり方と、その実現方策を追究しています。
 都市・交通システム研究室は、株式会社キクテックと共同で、2018年12月に静岡県藤枝市での実証実験を行いました。実際の横断歩道に「横断者感知式注意喚起システム」を設置するというものです。研究室らは、蓄光・蛍光材料を混合させ、 高い視認性を実現した「蓄光・蛍光路面標示」や、LEDプロジェクタにより、文字やピクトグラムで構成された交通関連標示を路面上に投影する「路面プロジェクション」の技術とそのデザインを開発。いずれも、横断歩道を通行する自動車または歩行者・自転車に対して有効であることが示されました。
 都市・交通システム研究室は、ほかにも、ビッグデータを活用した交通事故予防の研究を行っています。これは、歩行者と衝突する危険性が高まったときに運転手に知らせるモービルアイの「歩行者警報」によるデータと、車両の走行データ、実際の交通事故の履歴より収集したデータから、生活道路の隠れた危険個所を分析するという研究です。

 ここで紹介した、交通安全に関する研究を行っている3大学は、THE 世界大学ランキング日本版2019において、総合ランキングおよび分野別ランキングにランクインしています。
 社会を変革する、大学のチャレンジに注目しましょう。