世界に広がるマイクロプラスチック問題
マイクロプラスチックは5mm以下のプラスチック粒子のことです。プラスチックごみが波や紫外線の作用により小さくなったものや、歯磨きペーストなどに含まれるマイクロビーズ(微小なプラスチック)が主です。マイクロプラスチックは自然界で分解されにくいため、残り続け、量が増えていく傾向にあります。
マイクロプラスチックは世界中の海中に滞留し、食物連鎖を通じて、人間を含む多くの動物に取り込まれることが問題視されています。また、海洋生物がプラスチックごみそのものを餌と間違えて食べてしまい、死につながる被害が起こることも問題となっています。マイクロプラスチック問題は、海洋に放出されたプラスチックごみ自体の問題とまとめて「海洋プラスチック問題」として扱われることもしばしばあります。
マイクロプラスチック問題の解決に向けた研究を行う大学
マイクロプラスチック問題の解決に向けた研究を行う日本の大学のうち、特徴的な3校を紹介します。
■京都大学
京都大学では、プラスチックに吸着する有機フッ素化合物類(PFCs)に注目し、水再生方法を開発するための研究を行っています。
大学院地球環境学堂環境調和型産業論分野の田中周平准教授らのチームは、国内の湾・湖の生物に取り込まれたマイクロプラスチックの調査を行いました。チームは2016年10~12月に、女川湾(宮城県)、東京湾、敦賀湾(福井県)、英虞湾と五ケ所湾(三重県)、琵琶湖(滋賀県)、大阪湾で魚を採取・調査しました。計197匹の消化管を調べると、4割近くに当たる74匹からマイクロプラスチック計140個が見つかりました。これは、国内においてマイクロプラスチック問題の海洋生物への影響を明らかにした調査だといえます。
■東京理科大学
東京理科大学理工学部土木工学科の二瓶泰雄教授と片岡智哉助教は、愛媛大学と共同で、日本全国の29河川36地点において世界でも稀な大規模調査を行いました。
調査により、29河川のうち9割の河川でマイクロプラスチックが検出されるという結果がました。また、市街化して人口密度の高い場所にある河川ほど、マイクロプラスチックの濃度が高いこともわかりました。この研究により、河川におけるマイクロプラスチック問題と人間活動の関係が明らかになりました。また、海洋におけるマイクロプラスチック問題も、外国から流れてくるプラスチックごみだけが発生源ではなく、日常生活における脱プラスチック活動が重要であることを示唆する結果となりました。
さらに、二瓶教授・片岡助教らは、画像解析を用いた河川のごみ輸送量の計測技術を開発し、河川におけるごみの輸送のモニタリング調査を行いました。これを基に、流域圏全体におけるプラスチックごみ削減などの発生源対策が、地球規模に広がる海洋プラスチック問題の解決のために必要不可欠であることを示しました。
■千葉工業大学
千葉工業大学では、亀田豊准教授らが、Thermoscientific株式会社と共同開発により、水中のプラスチックの微粒子を簡単に分離し、測定する技術を開発しました。この技術により、従来のような顕微鏡を使った目視での識別やピンセットでの分離と組成分析という方法から、効率化・正確化を図ることができます。
プラスチック微粒子を分離させる際は、薬品を加えて有機物やゴミなどを沈め、プラ粒子を含む上澄み液を採取します。
解析の際は、開発した「Nicolet」と呼ばれる顕微鏡で、10μm(マイクロメートル)以上のマイクロプラスチックを自動判別・採取します。「Nicolet」は、どれがプラスチック粒子で、どれがそのほかの粒子なのかを自動で判別し、ろ紙上の粒子を組成ごとの色分けによりイメージングすることができます。さらに、内臓プログラムにより、この粒の大きさや粒子数も自動で出力します。
この技術開発は、水中のプラスチック微粒子解析の効率化に大きく貢献しました。
紹介した3大学は、社会貢献度を示すTHE大学インパクトランキング2019にランクインしています。特に、持続可能な消費と生産のパターンを確保することをめざすSDG12「つくる責任つかう責任」の分野別ランキングには、3大学とも上位にランクインしています。
さらに、これらの3校は、SDG11「住み続けられるまちづくりを」の分野別ランキングにもランクイン。ここで紹介した3校は、工業と環境のかかわりを意識している大学だといえるでしょう。
THE大学インパクトランキング2019について詳しく知りたい方は、記事下の関連リンクよりご覧ください。