「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」に見る人材像

 文部科学省は、2018年11月に「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(以下、グランドデザイン)を公表しました。
 グランドデザインでは、2040年頃の社会変化として、SDGs、Society5.0と第4次産業革命、人生100年時代、グローバル化、地方創生という観点を挙げています。また、将来、必要とされる人材について、OECD(欧州経済協力機構)におけるキー・コンピテンシーや、数理・データサイエンス等のリテラシーの必要性について触れながら、以下のように述べています。

予測不可能な時代の到来を見据えた場合、専攻分野についての専門性を有するだけではなく、思考力、判断力、俯瞰力、表現力の基盤の上に、幅広い教養を身に付け、高い公共性・倫理性を保持しつつ、時代の変化に合わせて積極的に社会を支え、論理的思考力を持って社会を改善していく資質を有する人材すなわち「21 世紀型市民」が多く誕生、変化を受容し、ジレンマを克服しつつ、更に新しい価値を創造しながら、様々な分野で多様性を持って活躍していることが必要である。

 そして、「文理横断的にこうした知識、スキル、能力を身に付けることこそが、社会における課題の発見とそれを解決するための学問の成果の社会実装を推進する基盤となる」としています。
 さらに、このような人材の育成を行うために、高等教育がめざすべき姿として、「個々人の可能性を最大限に伸長する教育」として、学修者視点の教育への転換、アクティブ・ラーニング、ICT活用、学修の達成状況の可視化、リカレント教育などの実施を挙げています。

「国立大学改革方針」に見る大学の役割

 文部科学省は、2019年6月、「国立大学改革方針」を公表しました。
 答申で示された高等教育のめざすべき姿を踏まえつつ、2022年度からの「第4期中期目標期間」に向けて、大学改革の方向性と論点を提示するものと位置づけられています。
 国立大学改革方針では、これからの社会を、総合して「持続可能でインクルーシブな社会」「多様性にあふれる社会」と考えています。
 そのうえで、知と人材が集約され、全国に戦略的に配置されネットワーク化していることを国立大学の強みとしています。また、新しい時代における国立大学の役割は「社会変革の原動力」であること、「地方創生・地域活性化に資する」ことを挙げています。

国立大学の特色ある学部創設

 国立大学では、文理融合や地方創生に向けた特色ある学部創設など、改革を進める動きが見られます。2018年4月に設置された特徴的な学部を紹介します。

■九州大学 共創学部
 九州大学は、新たなイノベーションの創出を担う人材の育成をめざす共創学部を設置しました。「共創」とは、「多様な人々との協働から異なる観点や学問的な知見の融合を図り、共に構想し、連携して新たなものを創造する」という意味を持つ、学部のコンセプトです。
 共創学部では、学生自身が取り組みたい課題を見つけ、次に、課題を解決するために必要となる専門を学びます。具体的なカリキュラムとしては、デザイン思考やデータサイエンスなど、現代社会で注目の集まる領域を幅広く扱うエリア共通科目と、医学や生物学に関する「人間・生命エリア」、哲学・言語学・社会学・人類学などを学ぶ「人と社会エリア」、歴史学や国際学、地域研究を学ぶ「国家と地域エリア」、環境や地理、地学に関する「地球・環境エリア」の科目で編成されています。
 4つのエリアから自由に科目を選ぶカリキュラムには、3つの履修モデルが設定され、それぞれに「国際的・地球的課題に対する解決策をコーディネートして、世界に効果的に情報発信できる実務家」「国際社会の課題を解決するための新しい社会の仕組みや、価値の創出をデザインする専門家」「文理を超えた学際的知見を修得し、国内外大学院に進学し、諸科学の境界・学際的領域の研究者」というコンセプトがあります。
 また、海外留学が義務付けられていたり、卒業研究を英語の発表で審査されたりと、グローバル教育にも力を入れています。
 まさに、学際的カリキュラムと地域・国際社会で活躍できる人材育成を兼ね備えた学部といえます。

■琉球大学 国際地域創造学部
 琉球大学国際地域創造学部は、グローバルとローカルを併せ持つ視野によって、地域社会における現代的課題の解決や国内外の産業・文化の振興に寄与できる人材を育成するという教育目標を掲げ、1年半の共通基盤教育と、5つの専門プログラムを設置しています。5つのプログラムは、以下のとおりです。
 ・観光地域デザイン:地域社会が抱える課題を的確に把握・分析する能力と、観光にかかわるマネジメントの問題解決を行う能力の習得を図る
 ・経営:経営学、マーケティング、会計学という3つの専門分野を中心に学習し、産業振興および地域振興に貢献できる人材の育成をめざす。
 ・経済学:経済学の基礎~応用からデータリテラシーを含めた実践までを一貫したカリキュラムとして提供。
 ・国際言語文化:英語文化履修コースとヨーロッパ文化履修コース、外国人留学生を対象とする日本・国際事情履修コースがある。
 ・地域文化科学:地理学・歴史学・人類学の3つの視点から、フィールドワークや史料読解などの実践的な学びを通し、多角的な視点から文化を理解し、自律的に課題を解決できる力を身に付ける。
 プログラムの配属は、学生本人の希望と共通基盤教育期間での成績を判定基準として決定されます。
 さらに、経営・経済学・国際言語文化プログラムには「夜間主コース」が設置され、多様な人々にとって学びやすい環境となっています。
 まさに、地域と国際社会に貢献する人材を育成し、リカレント教育にも積極的な学部だといえます。

■富山大学 都市デザイン学部
 富山大学都市デザイン学部は、その名のとおり、「都市」と「デザイン」をカリキュラムの柱としています。自然災害の予測やリスク管理、社会基盤材料の開発といった「都市と交通」にかかわる教育・研究を行い、さらに「デザイン思考」に基づいた創造力を身に付け、問題の発見・解決のできる人材の育成をめざしています。自然科学と科学技術を基盤とし、社会科学的要素を加味した教育だといえます。
 学科としては、大気から海洋、地球内部まで幅広く「地球」を学び、自然災害などの社会課題に取り組む「地球システム科学科」、社会基盤の設計や施工技術の基礎から先端的な都市・交通計画や地域創生等を幅広く学ぶ「都市・交通デザイン学科」、原子・分子単位の電子部品から巨大構造物の材料設計など、安全・安心を担う強靭材料、防災材料等を学ぶ「材料デザイン工学科」を設置しています。これらの3学科は、互いに連携する「3学科連携」の授業体制を取り、学生が特定の学科の内容だけでなく、都市デザインに必要な知識の全体像を総合的に学ぶことのできるカリキュラムを編成しています。
 デザイン思考のカリキュラムとしては、1・2年次でデザイン思考の基礎、デザイン思考に必要な情報収集・分析のためのデータサイエンスなどを学び、3年次で全学部生混成チームによるPBL(Project Based Learning)で、専門性、創造性、協調性、プレゼンテーションといった能力を高めます。
 都市に関する専門的な教育を行う学部でありながら、デザイン思考を身に付けるための一貫したカリキュラムで、専門性を社会課題に応用できる人材の育成が期待されます。

 本記事で取り上げた九州大学、富山大学、琉球大学は、THE世界大学ランキング日本版2019の総合ランキング、分野別ランキングにそれぞれランクインしています。特に、九州大学は「どれだけ卒業生が活躍しているか」を示す「教育成果」分野のランキングでトップ3に入っています。
 興味のある方は、記事下の関連リンクより、ランキングページをご覧ください。