日本の空き家問題の現状
総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、日本には8,460,100戸の空き家が存在します。これは、全住宅の約14%に当たります。中でも、別荘・賃貸・売却などの用途が定まっておらず「その他」に振り分けられている空き家は3,473,700戸に上ります。さらに、このような空き家の数は、年々増えています。
空き家の増加は、さまざまなトラブルの要因になり得るため、問題視されています。例えば、老朽化して倒壊の恐れがある、雑草が伸びるなどして景観の悪化を招く、害虫・害獣のすみかとなる、不法投棄が行われるなどの可能性があります。また、土地や住宅という資産であるにもかかわらず、十分に活用されていない状態であるため、経済的にも損失であると考えられています。
しかし、空き家を取り壊すには、費用が掛かることや、思い出の詰まった家を壊したくないという持ち主の考えなど、さまざまなハードルがあります。これらの理由により、全国的に利活用が進んでいない状態です。
空き家の有効活用に向けた活動・研究を行う大学
空き家問題の解決に向けた研究を行う特徴的な3校の取り組みを紹介します。
■山形大学
山形大学では、学生の主導で、空き家を「Agasuke House」という寄付制シェア・ゲストハウスにリノベーションしました。現在では、山形や東北の良さを発信する拠点、また、山形に貢献する拠点として、学生たちのさまざまな活動の場となっています。
ゲストハウスの名前になっている「Agasuke(あがすけ)」とは、「お調子者」「情熱的」などの意味を持つ山形の言葉です。「山形に対して情熱的な思いを持つ人々とのつながる拠点にしたい」という思いや、「山形をおもしろく盛り上げていこう」という思いが込められています。
「Agasuke House」では、山形や東北に関わるさまざまなイベントを開催しています。その一つである「SYP(Seek Yourself Project 山形)」では、山形大学の大学生を中心とした大学生が、高校生に向けてキャリアセミナーやワークショップなどを行います。高校生に向けた「大学とは何か?」を考える授業、高校生と留学生が「山形」について考えを深める授業などを行っています。
■茨城大学
茨城大学では、日立市にある空き家をリノベーションし、学生用シェアハウス兼地域交流拠点として活用しています。
建築都市デザイン・建築計画を専門にしている工学部の熊澤貴之准教授のもと、2017年春から、学生17人が「茨城大学空き家再生プロジェクトチーム」として活動に参加しました。
リノベーションでは、どのような場所にしたいかというアイデアを出す企画段階から実際の施工までを、学生たちが行いました。学生たちは、地元の茨城県建築士協会日立支部の協力により、大工から手ほどきを受け、作業を行いました。後継者の育成が大きな課題となっている建築士協会にとっても、地元の学生との交流はよい機会となったそうです。
完成したシェアハウスでは、リビングや庭を地元住民との交流スペースとして位置づけています。
2018年12月に行われた完成後のお披露目会では、近所の人々や建築士協会のメンバー、家のオーナーなど多くの人々が集まり、学生たちによる料理が振る舞われました。
現在、シェアハウスには、茨城大学の男子学生が、定員いっぱいの4人入居しています。
■福岡大学
福岡大学では、工学部建築学科の西野雄一郎助教のもと、学生グループが女子学生向け賃貸住宅の一室をリノベーションしました。
「女子学生が住みたくなる部屋をDIYリノベーションによって作り上げる」ことを目的に、現地視察から、企画、設計、材料選び、解体、施行まで、全て学生たちが手掛けました。
西野助教は、物件や部屋の使い手自身によるリノベーションである「セルフリノベーション」を研究しています。今回のリノベーションも、学生自身が行うことで、北欧調のおしゃれな部屋となりました。
以前、福岡大学の学生は、多くが大学近辺で一人暮らしをしていました。しかし、周辺の交通網の発達に伴い、一人暮らしをする学生が減少したため、学生向け賃貸住宅の空室も目立つようになりました。今回のリノベーションにより、空き部屋は、おしゃれな内装で付加価値を得られたといえます。また、学生にとっても貴重な実践の機会となりました。
学生たちは、リノベーションプロジェクトの後も、大学のある七隈校区を活性化させるため、リノベーション提案報告会を開くなど、空き家リノベーションの活動を続けています。
ここで紹介した、空き家の再生に関する研究や活動を行っている3大学は、THE 世界大学ランキング日本版2019において、総合ランキングおよび分野別ランキングにランクインしています。
地域を活性化させる、大学のチャレンジに注目してみましょう。