高齢化が進む日本の現状

 日本を含む多くの先進国で、高齢化に伴うさまざまな問題が社会課題となっています。特に、日本では顕著だといえます。
 日本の総人口は、2017年10月1日現在で、1億2,671万人です。このうち、65歳以上人口は3,515万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は27.7%となっています。
 また、65歳以上人口のうち「75歳以上人口」が半数に上ります。
 このような中で、労働人口の減少や介護問題、社会保障費の増加、農業従事者の高齢化などに対処することが急がれています。

高齢社会の問題解決に向けた研究を行う大学

 高齢社会の問題解決に向けた研究を行う3校の取り組みを紹介します。

■東京農工大学
 東京農工大学工学部機械システム工学科の遠山茂樹教授の研究室では、農業従事者の高齢化による問題を解決するため、超音波モーターを用いた農業用のパワーアシストスーツを開発しました。
 パワーアシストスーツとは、着用・装着型のロボットです。農業、介護、被災地での救護活動などにおいて、人々が負荷のかかる動作を行う際にアシストしてくれます。パワードスーツと呼ばれる場合もあります。
 遠山教授らの制作した「ウェアラブルアグリロボット」は、農作業者の動作に追従してアシストする機能や、関節を固定して長時間の同じ姿勢での作業を楽にする機能などを持っています。これにより、農作業者の負担となっていた中腰の作業、長時間腕を伸ばした作業、足腰に力のかかる作業などにおいて、負担を軽減します。また、電気を使わない、超音波モーターを使用して、小型化・軽量化に成功しました。
 東京農工大学工学部機械システム工学科は、スマートモビリティ、デジタルものづくり、ロボティクス・ナノメカニクスという3つの軸を中心に幅広い機械系分野をカバーする学科です。基礎となる力学、制御、数値解析、プログラミング、材料、設計、加工、計測電子を体系的に学び、「航空宇宙・機械科学」「ロボティクス・知能機械デザイン」の2コースで、それぞれの専門性をより深めます。

■秋田県立大学
 秋田県立大学総合科学教育研究センターの渡部諭教授は、秋田県立大学、青森大学、慶應義塾大学、京都府立医大学などのチームにおいて「高齢者の詐欺被害を防ぐしなやかな地域連携モデルの研究開発」プロジェクトを行っています。このプロジェクトは、高齢社会ならではの問題である高齢消費者被害について、社会モデル・ツール双方から予防するための研究・開発に取り組んでいます。
 高齢者を狙った詐欺などの事件は被害が深刻化しているにもかかわらず、これまで「経験に基づく対策」のみが取られるという状況にありました。そこで、渡部教授らは、高齢者一人ひとりに対し、詐欺被害に遭いやすい心の「クセ」を把握するためのアプリ「サギ抵抗力しんだ~ん」を制作しました。ユーザーが、自身のだまされやすさに関する質問や詐欺のシミュレーションとなる質問に答えていくと、だまされやすい詐欺のタイプ別に結果が表示されます。アプリでは心理学や神経科学を応用してタイプを把握しているため、詐欺脆弱性予測に基づくオーダーメードの被害防止策を提供することに役立ちます。
 そのほかにも、プロジェクトでは、国・警察・司法・自治体等の「公」空間と、高齢者の日常生活である「私」空間をつなぐ「間」に構築される「しなやかな地域連携ネットワーク」の構築をめざし、地域連携による詐欺被害防止に取り組んでいます。実際に、「サギ抵抗力しんだ~ん」アプリは、警察署から詐欺予防策として紹介されています。

■工学院大学
 工学院大学は、2019年4月に、「ジェロンテクノロジー」に関する研究開発および学部・学科横断型の教育を行う「共生工学研究センター」を設置しました。
 ジェロンテクノロジーとは、超高齢社会・人口減少社会において新たに生じた諸問題を、さまざまな学問から総合的に研究し、解決することをめざした分野横断型技術です。工学院大学では、これをさらに拡大して捉え、「高齢者をはじめ多世代の誰もが快適で豊かな生活を営む共生社会の実現に寄与する『共生工学』」と位置づけています。
 工学に関する幅広い領域を専門分野として持つ工学院大学の利点を生かし、各学部が既存の履修科目からプログラムに適した科目を提示して、横断型教育プログラムを構成します。提示される科目には、先進工学部の「公衆衛生学」、建築学部の「ケアと住環境」、情報学部の「インターフェース論」などがあります。また、座学を中心とする講義だけでなく、国内外でのPBL型実務授業を含めた現場実習を導入しています。履修した学生には、到達度に応じて、ジェロンテクノロジストとしての修了証(CertificateやDiplomaなど)が授与されます。

 ここで紹介した、高齢社会の問題に関する教育・研究を行っている3大学は、THE 世界大学ランキング日本版2019において、総合ランキングおよび分野別ランキングにランクインしています。大学の新しい挑戦に注目しましょう。