リカレント教育とは何か?注目を集める背景を解説

 文部科学省によると、リカレント教育は「『学校教育』を、人々の生涯にわたって、分散させようとする理念」で、職業上必要な知識・技術を修得するために、フルタイムの就学と就職を繰り返すことです。日本におけるリカレント教育は解釈が広く、「働きながら学ぶ場合、心の豊かさや生きがいのために学ぶ場合、学校以外の場で学ぶ場合」も含むとされています。多くの大学で社会人特別選抜や夜間部・昼夜開講制、公開講座、聴講生制度などの制度と結び付いています。
 人生100年時代が到来し、技術革新に伴う社会の変化も大きい中、社会人の学びなおしの機会が必要です。社会人や企業からは、短期間で学べる講座、講座を通した成長度合いの「見える化」や、講座に関する情報の共有が求められています。
 このようなリカレント教育への注目度の高まりを受け、大学が社会人の受講生を対象に履修証明書を発行するプログラムもあります。

リカレント教育を行う私立大学の取り組み

 リカレント教育のうち、社会人に向けた教育プログラムに焦点を当て、積極的な取り組みを行う私立大学を紹介します。

■早稲田大学
 早稲田大学では、日本橋キャンパスに「WASEDA NEO」というリカレント教育の場を設けています。そこでは、ビジネスでのイノベーション創出を目標に、講義やワークショップからなる「実践的研修プログラム」、会員制のセミナーへの参加、ラウンジの使用ができる「パイオニア・コミュニティ」などのサービスを提供しています。
 「実践的研修プログラム」では、企業の代表やアナウンサーを含むさまざまな分野の専門家が講義などを行います。例えば、元テレビ局のディレクターによる自己PR講座では、プレゼンや転職活動に使える自己PRのスキルを学べます。「アート思考」を軸に、「ゼロから」アイデアを創造するための発想力について学ぶ講座もあります。
 「日本橋ブレックファストセミナー」は、出勤前のビジネスパーソンによる”朝活”の場になっています。
 「WASEDA NEO」には、履修証明プログラムもあります。そのうちの1つである「Reliable Senior Managers Program」では、月2回の座学と月1回のフィールドワークを通して、ビジネスを多面的に学びます。また、「21世紀のリーダーシップ開発」では、リーダーシップを「組織やチームにおいてすべてのメンバーが自分らしく貢献し、互いに影響を及ぼし合って成果をあげるための能力」と定義し、受講者は「21世紀型のリーダーシップ」、および他者のリーダーシップを育てる能力の獲得をめざします。
 「WASEDA NEO」には、誰でも登録できますが、講座によっては受講資格があります。

■東京理科大学
 東京理科大学は、「東京理科大学オープンカレッジ」という社会人教育・リカレント教育拠点を設置しています。
 オープンカレッジの講座は、経営理念や戦略を学ぶ「ベース領域」、経営資源である「人材」「物資・サービス」「ファイナンス」を学ぶ「ヒト領域」「モノ・コト領域」「カネ領域」、デジタル分野について学ぶ「情報領域」の5つに分かれています。それぞれに「Executive & Managementクラス」「Leader & Staffクラス」と、「共通」の講座があります。そのほかにも、ビジネスの基本的な考え方などを学ぶ「スキル・ブラッシュアップ」講座、教養講座も行われています。
 講座は、社会人が受講しやすい夕方以降を中心に開講されています。講師陣は、大学教授以外に、企業で活躍するビジネスパーソンや弁護士など、多岐にわたります。
 東京理科大学ならではの情報やサイエンスに関する講座が充実していることが特徴です。データサイエンスや統計分析、脳科学や宇宙などをテーマとした講座が開講されています。
 一部の講座では「成長スケール」が導入されています。受講者は、自らが伸ばしたい「ビジネスを実践する力」のうち、課題設定力や論理的思考力の「認知」分野、実行力や決断力の「自己」分野、組織に働きかける力の「コミュニティ」分野、表現力や共感力などの「他者」の4つの行動特性について、受講による成長度を測ることができます。これは、目的意識を持って受講することに役立ちます。
 東京理科大学オープンカレッジでは、受講者を「生涯現役であり続けたい方、社会人として豊かな教養を身に付けたい方、ビジネスパーソンとして見識を深めたい方をはじめ、一般の方」としています。一部の講座では、受講対象を定めています。

■関西学院大学
 関西学院大学では、社会人向けの「丸の内講座」、女性のキャリアに役立つ「ハッピーキャリアプログラム」など、さまざまなリカレント教育プログラムを実施しています。
 「丸の内講座」は、関西学院東京丸の内キャンパスで行われます。単発の講座ではなく、数回の講座からなるコース式を取っています。「エグゼクティブコース」「ビジネスコース」の2つがあります。エグゼクティブコースの2019年度のテーマは「令和の課題」で、交通安全、アジア経済、ITなどの6講座が、オムニバス形式で開講されています。ビジネスコースはさらに3つのコースに分かれ、Aコースは「マネジメント基礎編『MBAの要点』」、Bコースは「マネジメント発展編『アカウンティングの実践』」、Cコースは「米中の通商問題(貿易摩擦)と貿易・ビジネス」をそれぞれテーマとしています。
 「丸の内講座」の対象は社会人で、開催期間は1か月~数か月間です。
 「ハッピーキャリアプログラム」は、「女性リーダー育成コース」と「女性の仕事復帰・起業コース」に分かれます。
 女性リーダー育成コースは「組織マネジメント」と「経営知識」を柱に10か月間、開講されます。経営戦略やプレゼンテーション、マーケティングなど、リーダーに必要なスキルを幅広く学びます。社会で活躍する女性リーダーが受講者の相談に応じる「メンター相談会」、関西の女性リーダーをつなぐ「会員SNS」などのサポートもあります。
 女性リーダー育成コースの出願条件は「大学卒業以上で女性リーダーを目指す人」で、書類と面接による選考があります。
 女性の仕事復帰・起業コースは、育児休業などからの社会復帰、転職やキャリアアップ、起業をめざす女性を対象とする6か月間のコースで、修了要件を満たせば履修証明書が発行されます。就職セミナーやキャリアカウンセリングのほか、子どもの保育所の入所に必要な就学証明書が発行されるなど、受講者に寄り添ったサポートが特徴です。
 女性の仕事復帰・起業コースの出願条件は「大学の卒業者・年齢不問」で、書類と面接による選考があります。

 今回、紹介した早稲田大学、東京理科大学、関西学院大学は、THE世界大学ランキング日本版2019に上位ランクインしています。多くの人に教育の機会を提供する私立大学の取り組みに、今後も注目です。