日本における女子大学の変遷

 初めに、日本の女子大学の歴史的な流れについて見ていきましょう。

女子大学の始まり
 日本においては、明治後期以降に、女子のための高等教育が始まりました。当時は、「良妻賢母を育てる」といった、当時の女性の社会的な立場を前提とした教育でした。明治時代以降、日本では核家族化が進み、「男子は仕事、女子は家事・育児」という考えも芽生えました。
 1948年には、12大学が新制大学として認可され、そのうち5校が女子大学でした。これが、現代的な「女子大学」の始まりと考えられています。

男女平等な社会が徐々に実現
 1980年代終盤には、女子大学の数はピークを迎え、全国に98校が存在しました。しかし、その後、女子大学の数は減少していきました。2020年現在、女子大学は76校です。
 この背景には、大学進学者の男女比が半々に近づき、男女雇用機会均等法が1986年に施行されるなど、男女平等になりつつある社会の流れがあるといえます。

現在における男女間格差
 厚生労働省によると、2018年における男女間の賃金格差は平均で90万円です。また、課長以上の管理職に占める女性の割合は2016年で22.7%だということがわかっています。
 このように、教育においては大学教育まで男女平等が達成されていますが、社会に出ると、いまだに格差があるといわざるを得ない状況があります。

アメリカにおける女子大学の意義

 女子教育の先進国であるアメリカの女子大学をめぐる状況について見ていきましょう。

アメリカの女子大学の始まり
 アメリカは、女子の高等教育で先進的な取り組みを行っています。1800年代初頭に、世界で初めて女子大学が設置されました。
 アメリカの女子大学では、「セブンシスターズ」と呼ばれる、アメリカ東部の歴史ある7大学が有名です。この7つの大学のうち5大学が、現在でも独立した女子大学として存続しています。
 「セブンシスターズ」からは、2016年にアメリカの大統領選に出馬したヒラリー・クリントン氏など、多くの女性リーダーが輩出しています。日本人では、女性教育の先駆者とされる津田梅子や、山川捨松など、歴史的に活躍した女性が「セブンシスターズ」に通っていました。

アメリカにおける女子大学の衰退
 1960年代には、公民権運動が高まりました。その影響で、男子校を女子にも開放するべきという要求が強まり、アメリカの有名大学群で創設時以来、伝統的に男子校であった「アイビーリーグ」が女子にも門戸を開きました。その結果、女子大学への志願者が減少し、女子大学の数も減っていきました。

アメリカの女子大学による女子大学の存在意義は「リーダーシップ教育」と「ロールモデル」
 1990年代以降も女子大学として存続してきたアメリカの大学は、いまだに社会の男女平等は完璧ではないとし、女子大学の意義は女子が率先してリーダーシップをとる環境にあると考えています。
 そのうえで、女子大学は女性が周囲の目を気にせずに自然科学系の学問分野に打ち込める環境づくり、出産や夫婦共働きなどの女性のキャリアやライフプランについてのサポートなどに取り組んできました。
 また、セブンシスターズの1校であるマウントホリヨーク大学の卒業生であるM.E.Tidballは、女子大学について、より多くの女性メンターや女性ロールモデルを得られることと、女性が学業に真剣に取り組むことができる環境がメリットだとしています。

令和時代の女性像を描く女子大学の取り組み

 THE世界大学ランキング日本版2020において、総合ランキングに女子大学は12校ランクインしました。そのうち国公立大学は、お茶の水女子大学、福岡女子大学、奈良女子大学、群馬県立女子大学の4校です。また、私立大学では、津田塾大学や昭和女子大学などが200位以内にランクインしました。日本の女子大学の特徴的な取り組みについて紹介します。

■リーダーシップ教育を推進:お茶の水女子大学
 お茶の水女子大学は「グローバル女性リーダーの育成」をミッションとしています。
 そのミッションを達成するために、グローバルリーダーシップ研究所では「女性リーダーへの道(ロールモデル入門編)」「アカデミック女性リーダーへの道(実践編)」などの授業を開講しています。また、女性がグローバルにリーダーシップを発揮する際に求められる力を強化するためのリーダーシップ育成プログラムを開発・実践し、研究を進めています。
 さらに、学生・キャリア支援センターでは、キャリアデザインプログラムの一環として、女性が将来の生活や仕事を見据えて自ら意欲的・計画的に大学での学修を進めるため、女性リーダーのためのコンピテンシー開発にも力を入れています。コンピテンシーとは、就業力の基礎となるもので、目標を設定し、その目標に向かって行動を起こすことができる力のことを指します。
 お茶の水大学が定める「女性リーダーのためのコンピテンシー」は、自己管理力やICT活用力を含む、現代社会の女性リーダーに必要なものになっています。

■キャリア支援制度が充実:昭和女子大学
 昭和女子大学は、充実したキャリア支援、社会人メンター制度が特徴的です。
 昭和女子大学のキャリア教育では、学生の「夢を実現する7つの力」を向上し、めざすキャリアへ進めるようにすることを目標としています。7つの力とは「グローバルに生きる力」「外国語を使う力」「ITを使いこなす力」「コミュニケーションをとる力」「問題を発見し目標を設定する力」「一歩踏み出して行動する力」「自分を大切にする力」です。1年次から4年次まで一貫したキャリア目標のもと、女性の生き方やキャリア形成について全学生が学びます。
 また、特徴的なのが「社会人メンター制度」です。昭和女子大学の卒業生を含め、幅広い分野で多様なキャリアを積んだ社会人女性がメンターに登録し、学生と直接コミュニケーションを取り、キャリアなどについて相談に乗る制度です。メンター制度を利用した学生の感想から、学生にとってメンター制度は、それまで考えなかった新たなキャリアイメージを抱くきっかけとなったり、志望する業界の実際の状況を知る貴重な機会となったりしていることがわかります。

■ロールモデルを見つけられる教育づくり:奈良女子大学
 奈良女子大学では、理系女性教育開発共同機構を設置し、理系女性リーダーのロールモデルの発掘など、理系女性リーダー育成のための活動を行っています。
 理系女性リーダーの育成として、具体的には、女性研究者としてのキャリア構築に関するセミナーの開催、生活工学関連の学科・学部における新たな理数教育方法の研究・開発などに取り組んでいます。
 また、女性の理系進路選択可能性の拡大を支援する活動として、理系の進路へ進むことを迷う女子高生への進路相談、女子学生の出張セミナー、意識調査などを行っています。

 THE世界大学ランキング日本版2020には、多くの女子大学がランクインしています。
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