食料問題の現状
2018年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで37%です(農林水産省)。
世界の国々と比較すると(2013年度)、カナダ、オーストラリアは200%以上の食料自給率を誇り、ヨーロッパの国々の多くが60%を超える中、日本の食料自給率(39%)は先進国の中でもかなり低い数値であることがわかります。
日本では、国内で消費される食料の大部分を海外からの輸入に頼る一方で、大量の食品ロスが発生しています。1年間で643トンもの食料が廃棄されています(2018年度推計値)。
日本のように食品ロスが問題になる国がある一方で、食料不足が深刻となっている国もあります。世界中の人口を賄うのに十分な量の食料が生産されているにもかかわらず、慢性的に栄養が不足している人は8億人以上いるとも言われています。
このような状況の下、人口増加や自然災害によって今後さらに深刻化すると言われている食料不足に対処するため、世界的な対策が急がれています。
食料問題に関する教育・研究を行う大学
食料問題に関する教育・研究を行う3大学の取り組みを紹介します。
■明治大学
明治大学の農学部食料環境政策学科では、「食料」と「環境」について、経済学、社会学、政策学、経営学、会計学、開発学などの社会科学の側面から総合的に考える研究を行っています。
座学だけでなく、農場実習、フィールドワーク実習、海外農業体験など、現場を体験しながら学べる科目を通して、応用力や実践力を養います。 体験学修の一つであるファームステイ研修で、学生は1週間ほど、生産農家に泊まり、農作業を手伝います。参加した学生からは、農作業の経験ができただけではなく、農村の抱える課題に気づき、農業についての考え方を見つめ直すきっかけとなったという声も聞かれました。
農学部食料環境政策学科では、既存の農業について学ぶだけでなく、新しい農業技術の研究も行われています。玉置雅彦教授のアグリサイエンス研究室では、農工融合型の新技術を用いた作物生産方法などについて研究しています。また、「アグリサイエンス論」という授業では、農業の環境浄化作用に着目し、環境に優しく安定的な食料生産を行う方法の確立について学びます。
■徳島大学
徳島大学の生物資源産業学部は、2016年に新設されたばかりの学部です。
生物資源産業学科1学科制で、生物資源を活用した新たな産業の創出に貢献できる人材の育成を目指し、応用生命コース・食料科学コース・生物生産システムコースの3コースを設置しています。柔軟なカリキュラムの下で、ヘルス・フード・アグリ・バイオ分野の融合、起業や商品開発の知識などを幅広く学びます。
生物資源産業学科の三戸太郎教授の研究室では、コオロギの資源活用に向けた研究などを行っています。コオロギは、栄養素が豊富で飼育コストや環境への負荷が少ないため、家畜の代用品として国連食糧農業機関(FAO)に推奨されています。
日本においても、食料問題の解決の糸口として、昆虫食に注目が集まっています。今後、研究室での研究をもとに開発された、コオロギのパウダーを使用したせんべいが発売される予定です。
■福島大学
福島大学の農学群食農学類では、農林産物の生産、加工・多面的利用、製品化などを総合的に学びます。少人数で、農業生産を体験するカリキュラムが充実しています。
農学群食農学類には、食品科学コース・農業生産学コース・生産環境学コース・農業経営学コースの4つのコースがあり、地域密着型の専門性の高い教育を通して地域が抱える課題の解決方法を探ります。
農業生産学コースの石川尚人教授の飼料資源学研究室では、国内の食料自給率や家畜の生産技術、草原の沙漠化の原因解明と修復方法など幅広いテーマを扱い、世界・日本の家畜利用の変革に向けた研究を行っています。
また、生産環境学コースの牧雅康准教授の研究室ではリモートセンシング、窪田陽介准教授の研究室ではスマート農業を活用した農業の効率化について研究しています。このような研究によって、人手が不足している農家でも、より効率的に農作物の生産をできるようになることが期待されています。
この記事で紹介した3大学は、THE世界大学ランキング日本版2019の総合ランキングおよび、分野別ランキングにランクインしています。食料問題に挑む大学の今後の取り組みに、期待が高まります。