絶滅危惧種をめぐる状況

 絶滅危惧種とは、絶滅のおそれが生じている野生生物のことを指します。生物同士の競争や進化のような自然のプロセスによって動物が絶滅することは、歴史上、珍しいことではありません。しかし、「大絶滅期」と呼ばれる近年における動物の絶滅要因は、自然のプロセスに起因するものではありません。環境破壊や乱獲などによって、動物の生息地が奪われ、1日あたりおよそ100種もの動物が絶滅しているといわれています。
 地球上には、食物連鎖や受粉の媒介のように、さまざまな生物が関わり合って生きています。多様な動植物が共存することは、森林やサンゴ礁などの保全にもつながります。さまざまな面から、生物の多様性を守ることの重要性が唱えられています。

絶滅危惧種の保護に関する研究を行う大学

 絶滅危惧種や生物多様性について教育・研究を行う大学を紹介します。

■神戸大学
 神戸大学農学部では、「農場から食卓まで」のスローガンを掲げ、「食料・環境・健康生命」に関する課題を解決するための研究を行っています。食資源教育研究センターでは、農学部向けの実習プログラムを提供するとともに、「遺伝資源」というキーワードのもと、さまざまな研究が進められています。
 農学部・農学研究科の授業を担当する吉田康子助教は、絶滅危惧植物であるサクラソウの保全を目指し、野生種のサクラソウの遺伝子を研究しています。特に、種の生存に深く関わる、環境に適応するための遺伝子を研究し、サクラソウの多様性を維持するための取り組みを行っています。また、そのほか、野生種や、古くから品種改良が行われてきた園芸種の遺伝的背景を探る研究も行っています。
 理学部生物学科では、生物多様性や遺伝、進化などについて研究しています。寄生植物が専門の末次健司准教授は、植物標本から、既に絶滅してしまったラン植物の新種を発見しました。現在、発見されているラン植物は、森林の減少により多くが絶滅の危機にあるといわれていますが、末次教授の発見によって、未知の種が人知れず絶滅している可能性が高いことが裏付けられました。

■富山大学
 富山大学の理学部生物圏環境科学科では、人の活動による環境への影響を把握し、より良い環境を次世代に残していくための研究が行われています。
 中村省吾教授、田中大祐教授、酒徳昭宏助教による生物圏機能Ⅲ講座は、微生物の多様性が研究テーマです。富山湾海水中から上空の大気中までに存在するすべての微生物の遺伝子を解析し、環境の変化が微生物に及ぼす影響を調査しています。
 横畑泰志教授の野生動物保全学研究室では、野生生物・寄生生物について研究しています。寄生生物の中には、特定の宿主にしか寄生しないものも多いため、宿主が絶滅の危機に瀕している場合、その寄生生物も絶滅の危機にさらされます。横畑教授は、絶滅が危惧されている寄生生物にも目を向けることを促し、寄生生物のレッドデータブックへの記載を求める活動を行っています。レッドデータブックとは、絶滅の恐れのある生物の現状を、種別に記録した資料集のことです。
 横畑教授は、ほかにも、政治的問題により生物種の保護活動がなされていない尖閣諸島の固有種を守る活動などを行っています。

■三重大学
 生物資源学部海洋生物資源学科では、生態系・生物多様性の保全や、新たな増養殖技術の開発に関する研究を行っています。木村妙子教授が率いる海洋生態学研究室では、海産絶滅危惧種や、外来種の生物の植生および分布について研究しています。学生を含む研究室メンバーで干潟や河川、漁港などに訪れ、研究に用いる生物を採取するなど、海洋生物が生きている実際の環境でフィールドワークを行っています。
 また、魚類増殖学研究室では、魚の生態や繁殖機構の研究を通して、人間の活動によって減少してしまった魚類を繁殖させる方法を模索。外来魚の生態を利用して、環境に優しく、外来魚だけを減らすことのできる駆除技術を開発しています。さらに、三重大学に程近い伊勢湾に小型のイルカが生息していることもあり、イルカの生態や、飼育下でイルカを繁殖させるための人工授精や精子の凍結保存に関する研究を行っています。

 この記事で紹介した、神戸大学、富山大学、三重大学の3大学は、THE世界大学ランキング日本版2019の総合ランキングにランクインしています。ランキングに興味のある方は、記事下の関連リンクよりご覧ください。