SDGsの17項目を活用し、大学の社会貢献度をランク付け

 イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE:ティー・エイチ・イー)」は4月22日、「THE大学インパクトランキング2020」を発表しました。大学の社会貢献の取り組みを国連のSDGs(エスディジーズ)の枠組みを使って可視化するランキングの2回目で、総合ランキングの対象となった766大学のうち63大学が日本の大学でした。日本の大学はエントリー数が最多だったほか、先進国でありながら「SDG2 飢餓」で11大学がトップ100入りするなど、国際社会共通の課題に積極的に取り組んでいることをアピールする結果となりました。

「貧困」「海の豊かさ」など6つのSDGが追加され全項目が対象に

 「THE大学インパクトランキング」は気候変動に対する活動やジェンダーの平等、健康と福祉など、大学がもたらす社会的・経済的インパクトの尺度を国連のSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が掲げる17の目標(ゴール)に合わせて設定。評判や研究の名声といった従来の指標ではなく新しい基準を活用した大学ランキングで、研究と教育以外の強みを持つ大学が、より有利と判断した目標を自ら選んでエントリーできます。
 2回目となる今回は「SDG1 貧困」「SDG2 飢餓」「SDG6 水・衛生」「SDG7 エネルギー」「SDG14 海の豊かさ」「SDG15 陸の豊かさ」が追加され、SDGs の17項目すべてで参加できるようになりました。
 総合ランキングに参加する場合は「SDG17 実施手段」は必須項目で、これに加えて3つ以上のSDGについてデータを提出し、「SDG17」以外でスコアの高い3つがランキングに反映されます。これとは別にSDG別のランキングもあり、こちらに参加する場合は自学が強みとする分野のSDG1つ以上についてデータを提出します。

日本の地方大学、小規模大学も総合ランキングに初登場

 2020年のインパクトランキングには前年より297多い857大学が参加し、766大学が総合ランキングの対象になりました。日本からは今回も世界最多の72大学(前年は63大学)が参加、63大学(前年は42大学)が総合ランキングの対象になりました。
 総合ランキングのトップは前年と同じオークランド大学(ニュージーランド)。2位シドニー大学(オーストラリア、前年25位)、3位西シドニー大学(オーストラリア、前年11位)、4位ラ・トローブ大学(オーストラリア、初ランクイン)、5位アリゾナ州立大学(アメリカ、前年35位タイ)と続き、4位までをオセアニア勢が独占しました。
 トップ20を国別に見るとオーストラリア5校、カナダとイギリスが各4校、ニュージーランド、アメリカ、イタリア、アイルランド、ブラジル、フランス、中国が各1校。上位に並ぶ大学、国が研究重視の世界大学ランキングとは大きく異なる新鮮な中身になっています。
 日本では北海道大学の76位(前年101-200位)が最上位でした。東京大学が77位タイ(前年52位)、東北大学が97位(初ランクイン)で、今回も3校がトップ100に入りました。初めてランクインした大学には足利大学、白鴎大学、恵泉女学園大学、麗澤大学、多摩大学(いずれも601+)など、地方大学や小規模大学も含まれます。

「SDG9 イノベーション」で東大が1位タイに

 日本の大学の上位ランキングをSDG別に見ていきます。
 17項目中、トップ100に入った日本の大学が最も多いのは今回新たに設定された「SDG2 飢餓」で、10位の北海道大学はじめ11校ありました。インパクトランキングでは通常、その大学が所在する地域の環境や課題に応じてエントリー分野を選ぶことが多くあります。THEチーフデータオフィサーのダンカン・ロス氏は、日本のような先進国で飢餓問題に取り組む大学が多いことについて「非常に興味深い」とコメント。その要因として「農業との継続的で強い連携、健全で持続可能な食料源の選定」などを挙げています。
 「SDG9 イノベーション」と「SDG12 生産・消費」にはそれぞれ8校がトップ100にランクイン。「SDG9」は東京大学が1位タイ、東北大学が9位で、トップ10に2大学入ったのは日本だけでした。これらに続く筑波大学も20位で、「技術大国ニッポン」における大学の貢献度の高さを世界に示しました。
 今回新たに設定された「SDG14 海の豊かさ」と「SDG15 陸の豊かさ」のトップ100には日本からそれぞれ8校と7校がランクインしました。いずれも研究実績に加え、教育や活動を通じた環境保護など、実践的なアプローチがスコアに反映されます。
 総合ランキングで日本最上位の北海道大学は「SDG2 飢餓」10位、「SDG9 イノベーション」45位、「SDG12 生産・消費」77位、「SDG 14 海の豊かさ」43位タイ、「SDG15 陸の豊かさ」59位、「SDG17 実施手段」61位タイと、計6項目でトップ100に入りました。
 エントリーが必須のSDG17を除くと、日本の大学が最も多くエントリーしたのは「SDG3 保健」と「SDG4 教育」で、「SDG9 イノベーション」もエントリー率が高いです。

取り組みの情報公表、他大学との連携がパフォーマンス向上のポイント

 「SDG4 教育」「SDG5 ジェンダー」「SDG7 エネルギー」「SDG10 不平等」の各SDGにトップ100入りした日本の大学はゼロでした。「SDG7」以外の3項目については、いずれも「親族の中で初めて大学に進学した学生の割合」という指標が反映されることが要因の一つと考えられます。この指標は高等教育システムの整備が遅れている国の支援のために設定され、日本の大学では一般的にこのデータの把握自体がなされていません。
 こうした中でも「SDG4とSDG5には日本の大学がさらにパフォーマンスを上げる余地がある」とTHEは指摘します。「SDG4」ではより一貫した生涯学習機会の提供、「SDG5」では上級職の女性を増やしたり大学での女性の地位向上を重視したりすることがポイントだといいます。
 THEがインパクトランキングのデータを詳しく分析した結果、日本の大学がさらにパフォーマンスを上げるためのポイントが2つ浮かび上がりました。一つはSDGsの取り組みの進捗に関する情報やデータを積極的に公表することで、定期的に報告書にまとめて公表することによって高いスコアが与えられます。
 二つ目は他大学との連携です。「SDG17」では目標達成のための連携がスコアに反映され、豊かな国の大学が貧しい国の大学に専門知識や技術を共有することは特に重視されます。THEは「これこそが日本が強みとする専門技術や知識をさらに活用できる分野だ」と期待を示しています。

高校生が「SDGsに取り組む大学」に出合う機会

 THEは今回のランキングについて「日本の大学のいくつかがTHE世界大学ランキングで非常に高い成果を収める一方、社会貢献度という全く新しい指標に基づくこのランキングに日本から多くの大学が積極的に参加し、しかもトップ100に3大学が入ったのは大変素晴らしい」と称賛。「このランキングは参加すること自体が重要で、日本の大学がサスティナビリティをミッションの中心に据えて世界を牽引していることを示している。これは日本が大いに誇るべきことだ」と話しています。
 探究学習で環境や資源などSDGsに取り組む高校もある中、大学によるSDGsへの取り組みに関心を持つ高校生は増えていくと考えられます。THE大学インパクトランキングは、地方大学、中小規模の大学を含む多くの大学がその名を世界に発信すると同時に、社会課題の解決に関心を持つ高校生が自学に出合う機会にもなります。大学の多様性を浮かび上がらせ、大学ブランディングの強力な要素になるこのランキングに次年度、日本からより多くの大学が参加し、ランキング表に新たな顔ぶれが並ぶことを期待したいところです。