生き残りの成否を分けるこれからの5年間

 この先2025年度までの5年間は、大学入学共通テストや高校での新学習指導要領の実施、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」に基づく大学での教育改革の推進など、これまで検討や準備を重ねてきた教育・入試改革がいよいよ実行される期間です【図表1】。
 これら一連の改革の背景には、若者たちに「グローバル化」「人生100年時代」「予測困難」「Society5.0」といったキーワードで表現される未来の社会を生き抜くための力を身に付けさせるという狙いがあります。そのために大学は、当事者である高校生はもちろん、保護者、高校教員にも、教育・入試改革の取り組み状況を伝える中で、自学ではどのような力が身に付くかを、丁寧に説明する責任があるでしょう。
 2025年度には完全に新学習指導要領の下で学んできた高校生が大学に入学してきます。彼らは高校で、「探究活動・言語活動・情報活用能力の育成」を重視した、これからの社会を生き抜くための教育を受けてきます。その彼らに”自分がさらに成長できる場所“として選ばれる大学になることが、一連の改革を通して、目指すべき状態だと言えるのではないでしょうか。
 ご存じの通り学生募集市場では、今の中2生が大学を受験する2024年度入試まで18歳人口の減少が続きます【図表2】。2019年度を基準にすると、2024年度には全国で約1割に相当する約12万人が減少する見込みです。この厳しい状況下で生き残るためにも、教育・入試改革において自学の存在感を示すことは欠かせません。一連の改革には受け身の姿勢ではなく、主体的に取り組むことが、まず重要なのです。

改革の指針となるグランドデザイン答申

 教育改革を進めていく際に指針となるのが、「グランドデザイン答申」*です。
 答申では、社会の変化に対応しつつ、社会を積極的に支えよりよくしていく人材を育成するために、教育の質的転換を求めています。具体的には、学生の成長を第一とする「学修者本位」の視点に立ち、多様な学生に多様で柔軟な教育プログラムを提供することを大学に要請しています。
 さらに、高等教育に対する社会の理解と支援が得られるように、外から見てもわかる形で教育の質保証に取り組むこと、18歳人口の減少をふまえて社会人や留学生をさらに受入れ、あらゆる世代へと対象を拡大した教育機関に代わることの必要性を述べています。
 ここでまず求められるのは、これまでの大学の“当たり前”にとらわれない意識改革です。
 学修者本意の教育への転換では、「教員が学生を教える」という指導型から、「学生の学修を教員や他の学生、地域などが支える」支援型へと教育のあり方を変える必要があります。
 そして、多様な学生に対して、多様で柔軟な教育プログラムを全て自前で賄おうとするのは、費用や人的なリソースを考えると限界があります。研究だけでなく、教育でもクローズド・イノベーションからオープン・イノベーションへの転換が求められるでしょう。
 質保証の再構築では、社会の目を意識することが大切です。社会は、「○○大学の学生はどういう人か」を一番に見ます。学位プログラム単位で、改善を積み上げ質保証に取り組むだけでなく、大学として社会の中でどういうポジションを築きたいかというビジョンをふまえて、大学全体で保証すべき質を考えることも大切です。
 あらゆる世代が学ぶ教育機関になるには、リカレント教育への取り組みが欠かせないでしょう。学内のリソースから教育内容を考えるだけでなく、地域のニーズから企画するのも一つの方法です。その場合は、産官学共同で互いのリソースを持ち寄るなど、地域連携がキーになります。
*中央教育審議会「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(2018年11月)

改善しやすい環境はすでに整いつつある

 グランドデザイン答申に基づく改革を推進するための法令の改正や制度の見直しは、すでに進んでいます【図表3】。
 「学位プログラムを中心とした大学制度」では、学内の学部等が緊密に連係協力することで教職員の兼任を認め、学部横断的な学位プログラム(学部連係課程実施基本組織)を設置することが可能になっています。
 「大学等の連携・統合の促進」では、国公私の枠組みを越えた大学の連携を可能とする「大学等連携推進法人(仮称)」の検討の中で、必修科目や選択科目であっても「協働解説」として実施した場合には「自ら開設」したものとみなす規制緩和措置などが検討されています。それぞれの大学の強みを生かした改革に取り組む環境は整いつつあります。

改革のテコとしてのデータサイエンス教育

 前年に政府から発表された「AI戦略2019」によると、2025年までに全大学・高専卒業者全員がリテラシーレベルの教育を受けている状態を目標としています。「数理・データサイエンス・AI」はデジタル社会の「読み・書き・そろばん」とまで言われており、Society5.0の実現には不可欠なスキルとされています。
 しかし、これまで大学で体系的に教育されてこなかった学問であるため、それを5年後までに全大学で実施と言われても、とまどわれる大学も多いでしょう。従来の学問との大きな違いは、その探求が目的ではなく、社会活動や研究で使う「スキル」であることです。ゆえに、知識の習得以上に実践力が問われます。また、その実践力の養成には、授業用ではなく、企業などの実データを使った学生主体のPBLが望ましいとされています。従来のやり方や、学内のリソースだけでは対応するのが難しい、まさにグランドデザイン答申が求める「これまでに当たり前にとらわれない改革」が不可欠な学問分野だと言えるでしょう【図表4】。
 なお、この分野は企業においても従業員の再教育ニーズが高いため、リカレント教育の展開にも適しています。
 このようにデータサイエンス教育は、今大学に求められている教育改革を推進するテコになるものです。データサイエンス教育にどう取り組むかは、大学の今後の生き残りを左右する試金石だと言えるでしょう。

※「Between」2020年1-2月号より転載。