コロナ禍をポジティブに変革のチャンスと捉える
2020年9月に開催された、THE世界学術サミット。今回はオンラインで行われ、世界の高等教育機関関係者がコロナ禍への対応とそこから得た知見をシェアする場となっていました。
サミットで感じたのは、世界の優れた大学はコロナ禍からポジティブな部分を見いだし、変革の機会と捉えていたことです。中でも「コロナ禍はエボリューション。前年度まで150だったオンライン科目を、数千にまで拡大し、コースデザインも根本的に見直している」(トロント大学)、「変革を止めない。1年かけて取り組む予定だった事項を、数か月で完了させた」(ニューヨーク大学)といった発言が印象に残りました。
教育の話題では、オンライン授業に関心が集まりました。「あらゆるバッググラウンドの学生に教育の機会を与える」(シドニー大学)、「対面授業よりも学生へのフィードバックの質が上がる」(トロント大学)など、利便性を評価する声がある一方、「対面でのコミュニケーションの中で得られる教育効果には何物にも代え難い」といった意見も複数の大学から出ており、「知識の伝達にとどまらない教育の価値を、どうオンラインで実現するか」が世界的な課題であることを再認識しました。
研究面では、オンライン化によって共同研究、論文の国際共著が活発になり、清華大学からは「オンラインによる論文査読が増えたことで査読サイクルが短くなり、研究が加速している」という発言も。産学連携についてもますます増加傾向にあり、特に「コロナの治療、ワクチン開発はグローバルイシューだからこそ、オープンな研究が不可欠」という考えが、世界の大学の共通認識になっているようです。
感性拡大期における留学生への対応も共有されました。シドニー大学では、連帯感を高めるために自国で学修する留学生向けにSNSでオンライン学習に関する自分の経験の投稿を呼びかけるほか、1対1のピアサポートアドバイスも提供しているとのこと。これは留学志望者にも提供され、在学生とのチャットが好評を得ているそうです。多数を占める中国人留学生向けには特別に、副総長自らがメッセージアプリを通じて中国語のメッセージを発信。さらに、大学のサイトに彼らを勇気付ける動画をアップするなど、学生だけでなく、保護者や留学エージェントまで視野に入れたコミュニケーションを展開しています。
また、清華大学では、バーチャルサマースクールに、世界から1000人もの学生が参加したとのこと。逆境の中でも積極的に展開しているこういった海外大の取り組みは、日本の大学も参考になるでしょう。
危機の中でこそ高める大学の存在価値と評判
世界の大学は、コロナ禍においても社会とのつながりを強く持っていたことも印象的でした。特に欧米の大学では、組織的に連携して地域コミュニティに対する啓蒙活動を行ったり、学生ボランティアをサポートしたりする取り組みが見られます。
また、シンガポール国立大学(NUS)は、OB・OGに協力を募るなどして、2020年度の卒業生のために1000人分の雇用先を提供したと言います。NUSは、コロナウイルスや新しい生活様式をわかりやすく紹介する漫画を、市民への啓蒙活動の一環として制作したり、医学専門家向けのウェビナーを毎週開催したりしていました。こうした活動を通して大学の存在意義を社会に発信することは、結果的に大学の評判につながるでしょう。
このほか、留学生の動向に関するセッションでは、THEから「コロナ禍によってもともと留学先として人気のあったオセアニア、欧米から、ほかの地域へ留学生が流れる可能性がある」という話がありました。アジアの大学にとって、これは留学生獲得の好機になるかもしれません。今こそ、コロナ禍による大きな環境変化に対応した留学生獲得の戦略を、考えるべきではないでしょうか。
※「Between」2021年1-2月号より転載。