「THEインパクトランキング2021」発表
イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE:ティー・エイチ・イー)」は4月21日、「THEインパクトランキング2021」を発表しました。大学の社会貢献の取り組みを国連のSDGs(エスディジーズ)の枠組みを使って可視化するランキングの3回目となります。日本からは過去最多の85校が参加しました。総合ランキングの対象となった1117校のうち75校が日本の大学で、THEは「持続可能で公正な世界へのコミットメントを示すため、日本の大学が立ち上がっていることが証明された」とコメントしました。
自学の強みに合った目標(ゴール)を選んでエントリー
「THEインパクトランキング」は気候変動に対する活動やジェンダーの平等、健康と福祉など、大学がもたらす社会的・経済的インパクトの尺度を国連のSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が掲げる17の目標(ゴール)に合わせて設定。大学は自学の強みに合った目標を選んでエントリーできます。
総合ランキングに参加する場合は「SDG17(実施手段)」が必須項目で、これに加えて3つ以上のSDGについてデータを提出し、「SDG17」以外でスコアの高い3つがランキングに反映されます。SDG別のランキングもあり、こちらに参加する場合は自学が強みとする分野のSDGを1つ以上選びデータを提出します。
トップ層の順位が大きく変動
2021年のインパクトランキングでは、過去最多の1240校がランキングの対象になりました。
総合ランキングのトップはイギリスのマンチェスター大学で、前年の8位から一気に躍り出ました。「SDG11(都市)」と「SDG12(生産・消費)」でトップ、「SDG14(海洋資源)」で2位になり、総合スコアを伸ばしました。
2位は前年と同じシドニー大学(オーストラリア)で、3位ロイヤルメルボルン工科大学(オーストラリア、前年10位)、4位ラ・トローブ大学(オーストラリア、前年4位)、5位クイーンズ大学(カナダ、初参加)と続きます。トップ20のうち初参加でランクインしたのはクイーンズ大学のみ。前年トップのオークランド大学(ニュージーランド)は今回、9位タイでした。
トップ層の順位が大きく変動すること、トップ10の半分をオセアニア勢が占めアメリカとイギリスは1校ずつなど、研究重視の従来の大学ランキングとの違いがこのランキングの見どころです。
競争が激化する中、日本の大学のスコアは改善
日本からの参加は前年の72校から85校に増え、98の国・地域中、ロシアの86校に次いで参加校が多いです。
総合ランキングにおける日本勢の最上位は東北、広島、筑波、京都、岡山、北海道、東京の7大学の101-200位。前年はトップ100に3校がランクインしていました。SDG別ランキングのトップ100も、前年の67校から39校に減りました。
これらの結果についてTHEは「世界で新たに451大学が参加して競争が激化したため」と解説。日本での取り組み自体は前進していることの根拠として、ランキング対象となった日本の全大学のスコアの中央値が、17のSDGs別ランキング中14、および総合ランキングでそれぞれ前年より改善していることを挙げています。スコアの改善は「SDG9(イノベーション)」(7.7%改善)をはじめ、「SDG12(生産・消費)」「SDG15(陸上資源)」などで大きいといいます。
「SDG3(保健)」で獨協医科大学など5校がトップ100入り
日本の大学のランキングをSDG別に見ていきます。
日本勢の躍進が目立つのは「SDG9(イノベーション)」で、8校がトップ50に入った。「技術大国ニッポン」の卓越性がいまだ衰えず、この分野で日本の大学が世界をリードしていることを実証しました。日本での最高位は東北大学の9位タイで、前年のポジションをキープしました。「9位」は全SDGを通じて日本最高位です。これに、京都大学(16位タイ)、名古屋大学(24位タイ)、東京大学(28位タイ)、大阪大学(34位タイ)、筑波大学(37位タイ)、広島大学(46位)、北海道大学(47位)と続きます。私立大学では慶應義塾大学の51位タイが最高位で、昨年の61位からランクアップしました。
「SDG3(保健)」では、獨協医科大学の26位を筆頭に藤田医科大学(49位)、徳島大学(67位タイ)、順天堂大学(72位タイ)、岡山大学(90位タイ)の5校がトップ100入りし、日本勢の健闘ぶりが目立ちます。
「SDG6(水・衛生)」の日本最高位は広島大学の64位で、東北大学(91位タイ)、筑波大学(94位)、大阪府立大学(99位タイ)の3校も初めてトップ100にランクインしました。
「SDG13(気候変動)」では東北大学が前年の64位から32位に躍進しました。
「SDG16(平和)」では京都大学が前年の201-300位から92位タイと大きく順位を上げました。
新型コロナがもたらす困難な課題の解決に大学が重要な役割
THEチーフ・ナレッジ・オフィサーのフィル・ベイティ氏は「グローバル社会が新型コロナウイルスのパンデミックという困難な課題に直面する中、世界中の大学が効果的な治療法の開発やワクチン接種の成功において重要な役割を果たしてきた」と述べています。「世界をより良い場所にし、持続可能な未来を実現するための積極的な取り組みをアピールするインパクトランキングに、日本から多数の参加があった。これは、日本の大学が社会的・経済的な影響力を発揮し、持続可能で公正な世界へのコミットメントを示すために立ち上がっていることの証しである」とコメントしました。