学修者本位の教育への転換と大学の課題

 イギリスのTimes Higher Education(以下THE)は、コロナ禍が高等教育の将来にとって何を意味するのか、各種調査から分析しています。
 世界中の大学執行部対象に行った「リーダーズ調査」結果からは、今後は、「学生がより力を持つようになる」と予測されています。なぜならコロナ禍はオンライン教育の普及を加速させ、大学が主に3つの課題に直面するからです。
 まず、自分のペースで好きな場所で学ぶスタイルが常態化することによる、「プログラムのカスタマイズ化」。次に学費は「受ける教育そのものの対価なのか、教育環境への対価なのか」という、学生や保護者に対する「学費についての説明責任」、そして、コロナ禍による価値観の転換や極端な不平等などが明らかになったことから、社会が期待する方向に「教育内容の見直し」も求められるとされています。これらは、大学のブランドにも大きく影響を及ぼすでしょう。

学生の日本の大学教育への評価は?

 「学生がより力を持つ」時代において、日本の大学の教育は、彼らにどう評価されているのでしょうか。同社は、2017年から毎年、日本の学生向けに、所属大学の教育力を問う調査を行っています。「教員・学生の交流、協働学習の機会」「授業・指導の充実度」「大学の推奨度」などの設問で構成され、一部の設問への回答はTHE日本版ランキングへの「教育充実度」に反映されています。
 【図表1】は、この4年間の回答結果の推移をまとめたものです。「クリティカル・シンキングのスキル伸長支援機会」や「学習内容を相互に結びつける機会」は、4年間一貫してスコアが上昇しています。「学生の提案に対する実施結果公表」度合いも同じく向上が見られました。
 一方で、「協働学習の機会」が下がっている点は懸念すべきです。コロナ禍による行動制限がいまだ続く中、以前のような形での協働学習の実施はまだ難しいですが、新たな方法を模索する必要があるでしょう。

コロナ禍における大学生活全般に対する満足度の変化

 大学生活全般に対する満足度はどうでしょうか。【図表2】は「コースの内容」「就職支援」「留学プログラム」など、15の要素について、学生が「満足している点(+)」「満足していない点(-)」を総合してグラフにしたものです。「クラスのサイズ」「コースの内容」は学生の満足度が高い一方で、「学生支援」「生活費」については、満足度が低い結果となっています。さらに気がかりなのは「オンラインのリソース」に学生が不満を抱いている点です。
 この傾向は、別の調査からも明らかになっています。【図表3】はベネッセが行ったオンライン授業に対する学生調査の結果です。コロナ禍前の授業に対する満足度と比較して、コロナ禍後は全体的に満足度が低くなっています。自由記述回答を見ると、「オンラインのほうが集中できる」「時間が有効に使える」という好意的な声がある一方で、「資料を読むだけ、講義を聴くだけで、学んでいる実感が得られない」「課題ばかりで自主学習をしているよう」という否定的な声も多かったです。
 また、「オンライン授業で使用するアプリが統一されていない」「必要な機器がシラバスに明記されておらず、予定外の出費があった」など、ハード面での不満も出ています。ハード面の配慮に加え、学生に“大学で学んでいる実感”を与えられるような、授業の内容、進め方、課題の出し方を工夫する必要があるでしょう。
 【図表4】には「オンライン化してもよいと思う大学の教育活動」について聞いた結果をまとめました。今後の授業設計の参考にしてください。

教育改革を後押しするイギリスの学生調査

 今後、新たな教育モデルの構築を検討するにあたっては、学生調査データの活用が重要になることは間違いないでしょう。
 イギリスでは、政府機関が主導して2005年から全国学生教育満足度調査を実施しています。主な目的は「受験生の進学先選びのための情報提供」「学生の視点に立った大学改革のための情報提供」「社会に対する説明責任」です。
 このデータを活用し、「学生が学ぶプロセス、モチベーションにおいてポジティブに作用する要因、ネガティブに作用する要因」を分析し、教育改革に生かしています【図表5】。